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47 ビーチ

「そういえば、敵も俺達と同じように探してるはずなんだよな~。どうやって探してるんだろう。」


 現在はレーダーの示す方向へ向かって、南の大陸を進んでいる。


「そうですね。ルーテシアさんのような天才がいて我々と同じようにレーダーを持っているのか、あるいは別の手段があるのか………。」


「別の手段ですか。世界中に組織展開してて、情報収集力が半端ないとか?それだったら先の事を考えると良い絵は浮かばないな~。」


「………そうね。でもこれまで動きがなかったってことは、最近なって偶然準備が整ったのか、それとも………。」


「それとも?」


 どこかルーの歯切れが悪い。悪い事でも普段ならズバッと言う性格なだけに、かなり悪い予感がありそうだ。

 口籠りながらも、ルーは続く言葉を発した。


「可能性はいろいろあるんだけど、直感的には………予言のようなものがあったんじゃないかと思うの。」


「予言………運命神の巫女が残したというアレですか?」


 巫女はアルハザルド王国でも世界滅亡に関した予言を残している。同じように他の地でも何かを残しているということだろうか。


「王国と同じく運命神の巫女かは分からない。ただ、何かの意志みたいなものを感じるわ。」


「もし予言のようなものがあるのなら、相手に先回りされる危険もありそうですね。まあ、分からないことはこれくらいにしておきましょう。敵の情報がない現状、向こうが接触した時に無理やりにでも口を割らせるしか手段はないですね。」


 セフィリアが物騒な発言で話を締めた。実際それしか情報を得る手はないかもしれないが、なんとも脳筋な発言だ。


「二人とも何ですか、その顔は?誰も拷問するとは言ってないじゃないですか。」


「でもそういう事よね?」


「………まあ。」


 俺とルーはセフィリアに苦笑しつつ、ノアとフェイがじゃれ合う姿を眺めるのだった。




 大陸を東に進むにつれ、いささか南国っぽい雰囲気になってきた。結構気温も高くなり、海も近いので気分は夏真っ盛りといったところだ。


 ルーとセフィリアは途中立ち寄った街で、リゾートチックな服をいくつか購入し、着替えていた。パレオな感じもまた新鮮で、俺同様に周囲の視線も釘付けにしている。

 ちなみに、ルーは赤系、セフィリアは緑系でまとめ、白い上着を羽織っている。俺は青の短パンにシャツを羽織ったラフな感じだ。


「そろそろレーダーが北を向きそうだな。地図からすると次の町あたりかな?」


 そんな話をしながら、向かった先は白い砂浜が続くビーチだ。浅瀬には魔物は出ないという話だったので、俺達はビーチで遊ぶことにした。

 ビーチバレーでもしようか!と、この世界にはない遊びをセフィリアやノア、フェイに説明し、適当なボール状のもので遊び始めた。この時、俺はこの世界は日本とは違うことのだと改めて認識することになるのだった。


「まずは俺から~」と俺があげたトスを、セフィリアが全力レシーブで受ける。………そう、全力で。

 勢いよく打ち上げられたボールは雲ほど行ったのではなかろうか。今や小さな点になっている。ようやく落下軌道に入り始めたボールを、今度はノアが口を開き、もうお馴染みの魔法の吸引力で吸い込んだ。


「ピッキィーーッ!」


 ノアは吸い込んだボールをルーに向けて『射出』した。豪速球のようなボールがルーに迫る。

 魔法を使ったのだろうか、ルーに向かったボールは直前で弾かれたように方向を変える。直後、俺の足元で砂が弾け飛んだ。


「………えっ?」


 足元に目をやると、砂浜が抉れ、ボールがめり込んでいた。


「何びっくりしてるの?反射よ、反射っ!反射の魔法を使ったのよ。ビーチバレーってこんな感じでよかったかしら?」


「いや~、なかなか刺激的ですね。誰がどんな攻撃してくるか、気が抜けませんよ!」


「ピキ~」


 俺の想像では、「そーれっ」とか言って、キャッキャしながら皆もっと和やかな緩~い感じを描いていたんだけど………。どうしてこうなった!なまじ力を持つと、人は行使したくなるということなのだろうか。

 そんな力を持たないフェイだけは、俺を同類とみたのか、唯一味方な気がした。


「バレーは中止ね。こんなの何回生まれ変わっても無理だから!俺、命は大事にする主義だからっ!」


 二人と一匹がブースカ文句を言っているが、無視だ、無視。世界滅亡以前に俺の存亡が崖っぷちだ。



 機嫌を悪くした女性陣を宥めていると、声をかけてくる者がいた。


「へい、彼女ら!こんなガキより俺達イケメンと遊ばない?」


 この台詞、もしかしなくてもナンパか?どんな不届きなイケメンだよと思いつつ、バッと後ろを振り返る。

 そこには三人組の男達がいた。一人は前歯の出た鼠男、一人は長い胴体とヒレが特徴的な鰻男、もう一人は涎をだらしなく垂らしている豚っ鼻の豚男だった。


「ぶはっ!ルー、この世界の美意識は俺には理解できないかも。」


「奇遇ね。私も分からなくなってきたところなの。」


「いやいや、失礼ですよ。こんな見た目でも、もしかしたら種族の違いによる補正があるのかもしれませんよ?私も理解できませんが。」


 俺達は自称イケメンに失笑してしまっていた。それを当然不快に感じた三人組は、顔を真っ赤にして迫ってくる。主に俺に。


「このガキ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!ぶっ殺してやる!」


 鰻男がくりんとした愛らしい丸い目でこちらに睨んできた。状況はよろしくないのだが、表情と言動のギャップに思わず笑いが漏れてしまった。


「こいつ、また笑いやがった。なめてんじゃねーよ!ブヒッ。」


 豚男にいたっては、しっかりブヒってるあたり、ツボを押さえて笑いを取りにきたのでは、と疑いそうになる。


「そこまでよっ!楽しませてもらったお礼をしようと思うの。」


 声に振り返ると、ルーの指先には特大火球がすでにセットされていた。


「あなたは丸焼きがいいかしら?それともステーキ?鰻さんは蒲焼きかしら。もう一人は………まあいいわ。」


「俺だけ何もないのかよっ!」


「うるさいわね。燃やされたいの?焼かれたいの?死ぬの?」


 ルーの選択肢には一択以外存在しないようだ。


「ひぃ~!お、覚えてろよ~!」


 三人組は脇目も振らず、逃げていった。


「テンプレ台詞ってどうしてこんなに落ち着くのかしら。」


(それはあなたのストレスが解消されたからではないでしょうか。)


 あえてそれを口にするつもりは俺にはない。それを言ってしまうと、また面倒な予感がする。



 三人組のおかげで雰囲気も良くなり、さらにバカンス気分を満喫した。翌日、俺達は先を目指すべく町を後にした。

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