44 仲良くなりたいっ!
翌日生まれたランドイーターに恒例の命名式をした。名前はフェイ。フェレットみたいだからという安直な由来ではない………はず。
命名するとフェイにもお馴染みの回路的な模様が浮かび上がった。魔力回路だと予想されるので、フェイもいずれ魔法が使えるようになるのだろう。
今のところ、そんなフェイはセフィリアを母親と認識しているのか、彼女にだけべったりである。
「なんで逃げちゃうのかしら。こんなに可愛いのに触れないなんて、こんなの生き地獄だわ!セフィリアはいいわね~。」
ルーがセフィリアに嫉妬の眼差しを向けている。セフィリアは苦笑いしながら手の平にフェイを乗せてルーに近づけるが、フェイはビクッとしてセフィリアの腕をかけ登り、首の後ろへ巻き付くように身を隠してしまった。
「もう、これで何度目よ。さすがの私もヘコんじゃうよ~。」
泣き真似をしながらもチラチラとフェイを見るが、フェイはそんな視線に気づかないのか、どこ吹く風である。
「こうなったら最終手段だ。ルー、アレでいってみよう。」
「アレ?………あぁ、アレね!」
「アレやるんですか!?………その前にアレって何の事ですか?」
セフィリアがボケ担当になりつつあるという事実は完全スルーし、説明してやる。
「なるほど。心理を誘導するわけですか。果たしてそんな手が効くでしょうか?」
「大丈夫!これはアーサーの世界では古来から伝わる最終手段みたいなものだから。神様にも効果ありなのよ?絶対成功する、いや、させてみせるわっ!」
「なんと神様まで、ですか!?」
「いやいや、それただの昔話だからね?」
作戦を伝えるとセフィリアはフェイを床に置いた。そして、フェイから少し離れた床に俺達は食事を用意し、囲むように座った。ノアはセフィリアの膝の上にいる。
「ノア、楽しそうに食べるんだよ?」
「ピキッ!」
「失敗は許されないわよっ!」
「ルー、顔怖いから。もっとにこやかにしてね。」
「では、乾杯しましょうか。」
「かんぱーい!」
まるでパーティーでも始まったように俺達は楽しそうに食事を始めた。食事といっても残り物のハムサラダと果物、チキンくらいだが、内容はどうでもいい。皆で楽しそうにしていることが肝なのだ。
そう。なぜならこれは、『天岩戸作戦』なのだから。
楽しそうにしているこちらを、フェイはじっと見つめている。だが、警戒心が強いのか、迷っているような感じである。
「ここはもう一押しかな?ノア、フェイを誘ってみてくれないか?」
同じ魔物であるノアならば、とフェイの元へ向かってもらうが、フェイはソファーの影に隠れてしまった。
ちっ、失敗したかっ!
誰もがそう思う中、ノアが思いがけない作戦を仕掛け始めた。なんと、細かくしたサラダやチキンをルーの所まで誘導するように落としながら戻ってきたのだ。
「グッジョブだ、ノア!」
しばらくするとフェイは我慢できなくなったのか、ノアの作戦に食いついた。一つ、また一つ食べる毎にルーに近づいていく。
あと少し。皆の緊張が高まっていく。
そして、ついにルーまであと1エサの所まできた。
ゴクリ。
ワイワイしながら和んだ雰囲気で気づかないフリをしつつも、誰かの喉が鳴る音が聞こえるような緊張感が走る。
その瞬間、フェイは何かを感じ取ったように顔を上げた。そして一目散にセフィリアの肩へと登り、首に巻きついてしまった。
「あー、あと少しだったのになぁ~。」
「惜しかったですね。」
「………もうやだー。」
ルーを見てみると少し涙目になっていた。こればっかりはどうしようもないか。
「地道に仲良くなっていこうな。」
「ピキュ~。」
ノアもルーを慰めているようで、ルーの肩に乗り、涙を拭うように擦り寄っている。
「ありがとね、ノア。これ食べる?」
ルーはニンジンのスティックをノアに向けると、ノアはそれを美味しそうに食べ始めた。
『天岩戸作戦』は失敗に終わったのだ。
残念ムードの中、ふとセフィリアの方を見ると、俺はある事に気がついた。そこにはノアを羨ましそうに見るフェイの姿があったのだ。
「ルー、セフィリアさんにも食べさせてみて。」
俺はノアと同じように、セフィリアにスティックを食べさせるように指示した。
「ん?ご褒美ですか?」
ルーに食べさせてもらえるということで緊張しながらも馬鹿な事を言うセフィリアを無視し、早く食べるように促す。
「今度はフェイにあげてみて。そっとね。」
母親であるセフィリアが食べた事に安心したのか、セフィリアと同じ事がしたいのか、フェイはゆっくりと近づき、ニンジンスティックを両手で掴み、口に入れた。
「やりましたね、ルーテシアさん!」
「うん、あり…がと、セフィリア、ノア、アーサー。やったよ。」
「よかったな、ルー。」
こうして、フェイはルーへの警戒心を解いていったのだった。
その後、ノアは魔物同士通じる部分があるのか、すぐに仲良くなった。一方、俺はというと、同じようにやろうとしても満腹なのか、すぐに逃げられてしまっていた。
そういう訳で、その日は俺一人だけ警戒され続け、悲しみに枕を濡らすのでした。