40 魔法使いノア
とりあえず四属性を試したので、休憩がてらのティータイムにした。俺とセフィリアは紅茶、ルーとノアは特濃カルピスだ。魔力回復効果のあるというナツメの実もセットだ。
「吸収すればどんな魔法もバンバン撃てるかと思ってたんだけど、結構差があって予想外だったな。」
「そうね。やっぱり属性の相性もあるみたい。」
「にしても、あのメタル化ウォールには驚きましたね。」
「ピキュー。」
一息ついたところで、実験を再開した。残りは上級魔法が多い。
「次はこれだ!」
ライトの魔法石を与えた。これは日常では電球みたいに使われている。
「『ピキピ』。」
ノアの中心が光りだした。輝くスライム。見た目は綺麗だけど………うん、微妙。
「回復魔法はどうだ!」
全員わざわざ怪我したくないので確認できず。
更に試していく。闇は、雷は、重力…………。そして、一時間後。
「爆裂魔法は?」
「『ピキピピーピピッ』!」
………何も起きなかった。
「これでラスト。空間魔法だ!頑張れ、ノア!」
「ゲフッ。『ピキキ』。」
魔法石を飲み込み、詠唱を唱える。ノアが口を開くと、口の奥には亜空間とでもいうべき謎空間が広がっていた。
「なにこれ。ここ、繋がっちゃいけない空間なんじゃ………。」
「まあ、とりあえずは全てやり終えたみたいねっ!今は無理でもノアならすぐ使いこなすわ!」
「えぇ、その通りですね。ノアのポテンシャルは測り知れませんから!それでは帰りましょうか。」
ノアは疲れて、すでに俺のポケットでおやすみモードである。最後に変な物を見たが、俺達は軽い足取りで街へと歩き出した。
帰宅した俺達は、ひとまず実験結果を分析することにした。
「火魔法が小さかったのはやっぱり相性か熟練度の問題かな?」
「そうね。他のが使えてたから魔力的には大丈夫みたいだし………あとは練習あるのみかしら。」
「水魔法得意そうでしたし、スライムだから水属性寄りなんでしょうか?」
「まあ、一概にはいえないでしょうけどね。ウォーターカッターも『射出』との相乗効果で強力になったかもしれないし。」
「だな。そういや、爆裂魔法何も起きなかったよな?あれもなんでだろう?火魔法が弱いからか?」
「それも原因の一つかもだけど、あれの一番の大きな原因はたぶん魔力量の不足よ。何も起きなかったでしょ?ただの失敗なら何かしら現象が起きていいはずだもん。」
なるほど、さすがはルーだ。次々に納得のいく分析をしてくれる。そこへ、セフィリアが俺の今日最大の疑問を口にした。
「空間魔法で口の中に広がったあの空間、何だったのでしょうね?」
ルーは顎に手を当て、思考をフル回転させる。そして、十数秒の沈黙の後、「あれがこれなら………ああ、そういうことなのね」と口を開いた。
「セフィリア、空間魔法の使用に一番必要なのは何か知ってる?」
「分かりません!」
「諦め早いなっ!」
セフィリアの即答に思わずツッコんでしまった。ルーはそんな状況を気にも止めず言葉を続ける。
「それは空間把握と座標指定。私のゲートが行ったことある場所限定なのはそういう理由よ。それが難しいから使用できる人は少ないの。」
うん、それはなんとなく理解できる。例えば、この世界で脳内GPSを設置するみたいなことだろう。開く地点は正確じゃないとゲートが繋がらないということか。
「つまり、あれはノアが指定した空間座標ってことですか?」
「その可能性はあるわ。でも、私は違うと思う。私の出した答えは、指定しなかったからできた空間、よ。この世界にあってこの世界にない空間。説明が難しいけど、アーサーなら聞いたことあるんじゃない?」
そう言われて、俺は前世の記憶を掘り起こしていく。存在するけど、存在しない。該当しそうな言葉が一つ脳裏をよぎった。
「あっ、まさか虚──」
「虚数空間よっ!アーサーの世界を知らなかったらこんな考え方があるなんて知らなかったわ。まあ、結局は謎空間ってことだけどね。」
そう言ってルーは説明した。セフィリアは話についていけず、うんうん唸っている。虚数の概念を知ってる俺でも分からないのに、何も知らないセフィリアが理解できたら本気で尊敬するぞ。
「虚数なんて数学で使ったくらいだぞ。まさか俺の人生に虚数の出番があるなんてな………世の中何が起こるか分からないもんだなぁ。」
「虚数空間、ですか?良く分かりませんが、つまりは魔法の鞄ようなものですかね?空間拡張でできた空間みたいな。」
セフィリアがそれっぽい答えを出してきた。普段抜けてるとこ目立つのに地味に適応力高いよな、この人。
「空間拡張とは根本的には違うから、似て非なるものってところね。同じ謎空間でも、空間拡張は有から有の変化、虚数空間は無と有の相互関係が生み出すもの、が近い説明かな。」
虚数と実数は別物だけど、虚数同士掛ければ実数に変化する。つまり、現実の裏世界の空間ということだろう。
「ふぅ、難しいですね。頭がパンクしそうです。まぁ、ひとまずそれは置いといて、それならノアも空間魔法使えそうですね!」
「ふふっ、どうかしらね。私もさすがに魔物の事は分からないけれど、訓練をすればできるかもね!」
ノアの分析会はここでお開きとなった。まだまだ謎は多いが、ノア計画が大きく進んだことに俺達は満足していた。
しかし、その夜、寝室にて。
「ルー、今日はお疲れさん。」
「ええ、アーサーもね。でも驚いたわ。まさかノアがあんなに魔法が使えるとはね~。普通の人間だったら、適性のある魔法以外は初めはほとんど使えないんだよ?」
「え、そうなのか?ノア~、優秀だってよ~?」
俺はそう言って、二人のベッドの間にあるノア専用ベッドで寝ているノアをツンツンとつついた。
すると、ノアがゆっくりと光を帯び始めた。




