39 レーダー、誕生?
「エレナさんも、すいません。俺の不注意で。」
エレナに深々と頭を下げる。
「まあ作り方は分かった訳だし、試作なんだからルーテシアちゃんのいう通り気にしないで。今度は外装も改良したらいいかもしれないわねっ!」
エレナは俺の背中をパンパンッと叩いた。そんな中、セフィリアが驚きの一言を口にする。
「今ふと思ったのですが、もしかしてノアはレーダーも使えるようになったんじゃないですか?吸収したわけですし。」
「………まっさか~!いくらなんでもそれは希望的観測ってやつですよ、セフィリアさん。それが出来たらもうスライムなんなの?って感じになっちゃいますよ~。はははー………ノア、もしかしてできちゃう?」
セフィリアの言葉を否定しつつも、ウチの優秀なノアならなんか出来そうな気がしてきたのだ。
ノアは体をプルプルさせ、体表に波を起こした。そして、波が収まると体の上部にレーダー画面と同じように位置情報が示されていた。
「凄い、凄いぞノア!」
「ピッ!」
ちょっと待てと言っているのかな?俺、もうスライム語が理解できる気がするんだが。抱きつこうとする俺をノアは触手を前に突き出して制した。そして、ノアはポヨボヨ跳ねて家の壁まで移動すると、大きく口を開ける。
何をするつもりだ?皆がそう思っただろう。
次の瞬間、ノアの口から光が壁に向かって伸びた。皆がぎょっとする。壁に映ったのは拡大されたレーダー画面だった。しかも切り替えで縮小画面も見せてくれた。
ノアは力こぶもどきを作ってドヤッと言わんばかりのアピールをしている。
「何なの、これ?スライムにこんな能力があるの?」
エレナさんはノアの吸収能力を知らないらしく、驚きのあまり茫然自失である。あまり知られていないのかな?
「これってつまり………レーダー完成ってことでいいのか?」
「完成というかもう爆誕ね!でもレーダーに組み込んだ機能まで使えるなんて思ってもみなかったわ。たぶん組み込んだ魔法石のせいでしょうけど………。」
レーダー作製が完了ということは、次はいよいよアレができるかな?
「まったく、あなた達には驚かされてばかりね。ノアちゃんの事はすっごく気になるけど、そろそろギルドの仕事があるから行くわねっ !また面白いネタがあったら誘ってねー!」
そう言って手を振り、エレナはギルドに行ってしまった。
「じゃあ、ルー!待ちに待ったアレ、行ってみようかっ!」
「ついに、時が満ちたのね………ノア計画を進める時が。」
「遂に来ましたね。ノア、新たな一歩です!」
「ピッピキー!」
俺達は不気味な笑いとともに、アーサーカンパニーの商品開発のために保管されていた様々な魔法石を魔法の鞄に入れて、街の外へと移動した。
そう、俺達が待ちに待っていたアレとは、一時中断していたノア最強化計画第二段──魔法使いノア誕生編だ。
草原に着いた俺達は、周囲に誰もいない事を確認してノアをポケットから呼び出す。そして、魔法の鞄から魔法石を取り出し並べていく。
用意した魔法石は火、水、風、土の基本四属性の初級魔法から、ランドイーターで使った爆裂魔法、たぶんこの為に作ったであろう空間魔法を付与した魔法石までバラエティーに富んでいた。
「どれから試す?」
「やっぱり基本の初級魔法かしら。」
まずは四属性から順に試していくことにした。
火の魔法石を食べたノアに魔法を使わせてみる。
「ノア、ファイヤーボールだ!」
「『ピキキーピー』!」
おや、小っちゃな火の玉が出た。指先くらいの。
「なんか、小さくない?これって普通サイズ?ルーのはもっと大きかったよね?」
「うーん、苦手属性か魔力不足か熟練度なのか。とりあえず次いってみましょ!」
次は水だ。
「お、おぉー!」
ウォーターカッターという魔法を使った。近くにある岩が切れた。それはもうスパッと見事に。
「水系が得意なのか?『射出』もあるし、飛ばす系があってるのかな?」
続いて風。ノアはエアブラストを放つ。風の衝撃波は軽く弾かれる程度の威力だった。うーん……。
「可もなく不可もなくといったところでしょうか。」
そして、土の魔法石。アースウォールという土壁の魔法を唱えた。
「これはっ!」
出現した壁のサイズは人の背丈くらいの普通サイズだった。しかし、初級とは明らかに違っていた。だって、金属光沢があるんですもん。
「どうやら、複合魔法というかスキルみたいなものね。アースウォールにメタル化を付与したんじゃないかしら?」
「なんか、ノアが凄い勢いで強くなってる気がするな。羨ましいよ。………はっ、もしやこれが嫉妬というやつなのでは!?きぃー!」
「なにハンカチなんか噛んでるんですか!ノアの最強化計画は我々の、いえ、人類の悲願なのです!こんなのまだ序の口ですよ?」
セフィリアが若干暴走気味になってきた。この人、子どもが出来たら教育ママだろうなぁ。しかもスパルタ。旦那さんはちゃんと手綱握れる人じゃないと大惨事だぞ。
ひとまず休憩を挟むことにした。