38 セフィリアの秘め事
ギルドで報酬を受け取った後、俺達は帰宅した。帰宅すると、セフィリアはすぐに自室へと戻ってしまった。そんなセフィリアが心配になった俺は、ドアをノックして呼びかけた。
コンコンッ。
「セフィリアさん、森を出てからずっと静かですが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。今は少し一人にさせてください。」
ドア越しにそう言われ、仕方なく俺はリビングへと戻った。しばらくすると、ルーが帰ってきた。
「あれ?セフィリアはいないの?」
姿が見えないことに疑問を持ったルーに、今日の依頼のあらすじを話した。話を聞いたルーはバッとソファーから立ち上がると、セフィリアの部屋へと向かいだした。
「セフィリア、いる~?入るわよっ!」
「え、ルーテシアさんっ!?ちょっと待ってください!今はダメで──」
ガチャッ。
セフィリアの言葉を遮って、ルーはドアを開けた。
「おぉ~!」
ドアの向こうには、セフィリアが下着姿で膝を抱え込むようにして、ベッドに横になっていた。
見ちゃいけないと思いながらも、俺はしっかり視覚をフル稼働する。そして、ベッドの上に一つの真実を視認した。
「いつまでそうしているの?ひとまずアーサーは出ていってちょうだいっ!」
部屋の外へと蹴飛ばされた俺に、数分後、部屋に入る許可が下りた。セフィリアはすでに服を着てベッドに腰かけていた。………膝に楕円形の白い物体を持って。
「それって………卵、ですか?」
「………はい。」
「なんであんな格好だったんですか?」
「人肌が良いと聞きまして。」
卵といっても普段食べる卵とは違っていた。じゃあ何の卵?俺の脳裏には一つしか浮かんでこないんだが。
「セフィリア、説明してもらえるかしら?」
「実は、これはランドイーターの卵でして………巣を破壊した後、見回った時に見つけたのです。」
「なんで言わなかったんですか!」
「言ったら処分されるでしょう?そう思って、つい持って帰ってしまったのです。」
たしかにそうするかもしれない。しかしこれ、どうしたらいいんだ?
ルーと目が合うと彼女は溜め息を吐いた。
「セフィリアはこの卵を孵して、その後育てていけるの?この魔物の特性上、野に放すのはナシよ?」
「はい、私が責任を持って育て上げますっ!どうかお願いします!」
ルーは俺に視線を戻した。どうやら俺に委ねるってことのようだ。
「はぁ~、わかりましたよ。まぁ、ノアという先輩もいますし………今回だけですよ?それと、相談くらいしてくださいよ。仲間なんですからさぁ!」
「は、はいっ!ありがとうございます、アーサー!」
セフィリアが俺に抱きついてきた。ルーがみるみる不機嫌な顔になっていく。あれ~不可抗力なんですけど?
一幕あって遅い夕食となったが、ルーとエレナはどうやらもうレーダーの試作品ができたらしく、明日レーダーの実験を行うという話だった。なんとも頼もしい二人である。
「依頼中にセフィリアとアレやってないよね?ノア、どうだった?」
「ピピッピ。」
「そう、よかった!じゃあ成功したらアレやりましょうね!」
そして翌日、アーサーカンパニームジナ家本店にて試作レーダーの実験が行われた。
それは本当にレーダーだった。手の平サイズで投影機能付き、拡大縮小が可能だ。マップ連動型というわけではないので、東西南北だけが表示されている。
このレーダー、基本は記録にあるアーティファクト反応全般に対応しているらしい。そこに関連する魔力などを流すことで特定のアーティファクトを映すのだ。試してみると、この場にセフィリアとルーがいるので反応は2つあった。
(本当にどんな仕組みなんだろう。これはもう魔法科学ってやつだな。)
俺は手に持ったレーダーを物珍しげに眺めていた。
「ルー、エレナさん。凄いもの作っちゃいましたね!」
「えぇ、いい刺激になったわ!これをオカズにご飯が何杯すすんだことか。」
「………それはよかったです。じゃあ、お返し──あっ!」
レーダーをエレナに渡そうとしたところで、俺の手からレーダーが滑り落ちてしまった。やばいっ!!
パシッ!
落下するレーダーをキャッチしたのはノアだった。
「ノア、ナイスキャッチ!ふぅ、危なかったー………あれ、ノア?」
レーダーを受け止めたノアは、なんとそのまま飲み込んでしまったのだ。ノアの中でレーダーはみるみる溶けていく。
「ちょ、ノア、早く出して出してっ!」
「アーサー………もう手遅れよ。」
どうやらほとんどが溶けてしまったみたいだ。
「ごめん、俺のせいで。」
「また作ればいいから、あまり気にしちゃダメよ。」
せっかく成功したのに、レーダーは俺の不注意で無に帰ってしまった。




