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4 道中

 ルーの案内で街を目指して草原を歩く中、俺はルーについて尋ねてみた。


「私は頭も良かったし、魔法は生まれた頃から極めていたの。だからすぐに賢者という称号を与えられることになったわ。加えてこの容姿でしょ?周りからは神の子だとか天使だとか、まさにアイドル的存在だったのよ。」


 ルーは14歳くらいだろうか。銀色の長い髪に、幼さは残るがモデルのような顔立ち。黒を基調とした肩のない巫女服みたいなドレスを身に纏っている。

 たしかに美人だし、事実なんだろうが、自分の事をそんな風に言えてしまうところが正直すごい。


「魔法研究だけじゃなく、娯楽的な面でも期待を押し付けられて、周りどころか国をあげて持ち上げられちゃって。断ってもどうにもならないから、仕方なくとりあえず頑張ってみたけど、でも、そんな生活望んでなくって………。」


 ルーは沈んだ面持ちでつらつらと語っていく。

 全国民に賢者としてもアイドルとしても期待され、その期待に押し潰されたんだろうな。よく聞く話だ。


「ストレスもどんどん溜まっていって。そんなある日のイベントで、無意識に放った爆裂魔法で──」


 やはり人前に出る仕事っていうのは、本人が好きでない限りは余程のストレスがかかるんだろう。彼女の顔を見れば、その辛さも少しは分かる気がする。


「──街一つ消しちゃった!てへっ!」


「………。」


「その事が切っ掛けで、魔神の復活だとか邪神がどうのなんて噂になったのよね~。それから原因が私だと分かって、事態を重く見た国の上層部の連中があそこに封印したってわけ。」


「………。」


「おーい、アーサー。聞いてる~?」


 俺には返す言葉もなかった。


(こいつ………ウザイどころのレベルじゃない!可愛い顔して頭おかしいぞ!?)


 確かにそんな事をしでかせば、邪神だの魔神だの言われて当然に決まっている。なんか知っちゃいけない事実を知らされた気分だ。


 俺は虚ろな目をルーへと向ける。


「へー、大変だったんだな。ルーテシアさん。でも、俺的にはそういう突発的行動はどうかと思うんだ。ルーテシアさん。まぁ、なんだ。ちょっと離れようか?ルーテシアさん。」


「えぇ!? ち、ちょっ、他人行儀はんたーいっ!!頭のおかしい人を見るような目でこっち見ないでよ!だ、大丈夫よ。封印されてから百年分くらいは反省したし、精神的にも成長したんだから!って、ちょっとずつ離れないでーっ!」


 涙目になりながら、俺の袖を掴むルー。


 たしかに幼い精神と才能が釣り合わず、周りもプレッシャーばかり。話が合う友達もいないだろうし。俺には分からないが、これが天才の悩みってやつなのかもな。


「………はぁ~、本当に反省してるんだろうな。」


「うん。」


「じゃあ約束だ。今度は一人で抱え込まないで、何か起こす前に俺に言うこと。俺に何ができる訳じゃないけど、一緒に考えることはできるから。」


「うんっ!」


 最初は叱られる子どものようにしゅんとしていたが、嬉しそうに返事をすると共に、一筋の涙がルーの頬を濡らした。


「まっ、今はルーを信じてみるよ。だからさ、いい加減その手を離してくれ。服が伸びるっ!」


「さっすが私の旦那様っ!愛してる~!」


「ば、ばかっ!誰が旦那だ!抱きつくなー!!」


 涙の意味は俺にはよく分からなかったが、腕に抱きついてくる笑顔のルーを見て、案外これから楽しくやっていけるかもしれないと少し嬉しく思った。




 ***


 暫く草原を進んでいると、遠くでなにやら男が剣を持って走っているのが見えた。よく見ると2メートルくらいの動く岩人形みたいなのと戦闘中のようだ。ゴーレムかな?


「ここだ!スラーッシュ!!」


 おぉ、あれは剣技ってやつだろうか。胴を一線。ゴーレムはバラバラと崩れていった。


「ふぅ~、やっぱゴーレムは硬いし、攻撃も重いな。………むっ!?」


 戦闘が終わり、安心したのも束の間、男はどうにか倒したゴーレムに気を取られ過ぎて、気がつけば周りを狼に囲まれていた。


「チィッ!」


 舌打ちすると同時に襲いかかってきた狼を凪ぎ払う剣士。

 初めのうちは対処できていたが、ゴーレム戦の疲れが見られる。加えて、群れた狼には数と速さがある。男は徐々に捌ききれなくなっていた。


 そして、腹部にタックルを受けたところで男は地面に倒されてしまった。こうなると、あとはエサとして食われるのみ。そんな残酷な光景を想像するや否や、飢えた狼達が一斉に飛びかかった。


「やべぇ。ミスっちまったな。………ここで終わり、か。」


 男のそんな諦めた声が聞こえた気がした。これから起こるだろう光景に俺は恐ろしくなって、無意識に顔を背けていた。



「エアブラスト。」



 だが、そんな俺の耳にもう聴き慣れた声が届く。

 ふっと顔を上げると、そこには右の手の平を前に突き出し、風の衝撃波を放つ凛々しい大賢者の姿があった。





「すまねぇ、助かったぜ。礼を言う。」


 狼を始末した後、こちらに気づいた男が礼を言いに来た。年は30代中頃だろうか。短く切った赤い髪にマッチする髭面。体も引き締まっている。うーん、渋い。


 そんな第一印象の男だったのだが、彼はそのイメージを台無しにするような台詞を口にした。


「嬢ちゃんがあの魔法を撃ったのか?かなり制御して撃っただろ?すげぇな!どうよ、礼に今夜ベッドの上で夜の剣技でも見せてやろうか?」


 ………いやこれ、只のナンパじゃん!渋さ漂うオジサマ系かと思ったんだが。うーん、どこの世界も似たり寄ったりって事なのか?

 チラリと見れば、隣で佇むルーの笑顔が少々不気味だ。嫌な予感がする。


「ほぅ、御主おもしろい事を言う。ならその前に、今から私が熱~い魔法でも見せてやろう。『ファイヤーボール』。」


 そう言い放つと同時に、微笑を浮かべるルーの指先に魔力が集まっていく。それは小さな火の玉では留まらず、次第に巨大な火球を形成していった。余裕で二、三人は飲み込めそうな巨大さだった。


「「えっ………ナニコレ。」」


 男も俺も同様に顔を引きつらせた。


(なんなんだよ、これっ!絶対ヤバい魔法だよな!?)


 先程見たエアブラストとは違い、こちらは明らかに殺傷力抜群だった。


「おっと、久々過ぎて制御を失敗したようだ。さあさあ、遠慮せず味わってよいぞ?」


「じ、冗談だって!すまん。勘弁してくれぇ。」


 男が焦って飛び上がるように土下座で謝る。うわっ、この世界にも土下座があるんだな。オッサン、ちょっと目元が潤んでないか?

 その姿を見てどうやらルーも許したようで、火球はすぐに霧散した。


「なーんだ。冗談なら早く言ってよねー。」


(ジョークっぽい雰囲気で軽く流してるが、ルーのやつ本気でヤルつもりだったんじゃ………。たまに黒い部分出てるよな。)



 男も街の住人ということで、俺達と共に街に向かうことになった。


 そして、ついに初めての街へと辿り着く。

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