37 セフィリアの初依頼
俺、セフィリア、ノアの二人と一匹は依頼を受けて暇を潰すことになった。ノアは表に出すと悪目立ちするので、とりあえずローブのポケットの中だ。
「どれもパッとしない依頼ばかりですね。」
掲示板に張り出された依頼を見てセフィリアがそう呟く。討伐系の依頼はセフィリアにとっては相手にならない魔物ばかりだろうし、短期で出来そうなものは採取系か、簡単な討伐系くらいだった。
「あ、これとかどうなんでしょう?」
そんな中、俺が目をつけたのはこんな駆除依頼だった。
『ランドイーターの駆除。報酬金貨10枚』
なんか、えらく気前の良い依頼があったのだ。ランドイーターって知らないけど、そんなに強い魔物なのかな?セフィリアも知らないようなので、受付で聞いてみた。
「あぁ、この依頼ですね。ランドイーターというのは、体長30センチくらいの魔物です。魔物としては珍しく、基本的に人を攻撃しません。」
「えっ、攻撃しないんですか?強くもないのにこの報酬額………ということは、何か別の面倒な依頼というわけですか。」
受付さんはコクッと首を縦に振った。
「彼らの別名は『ファーマー泣かせ』。目をつけた畑は必ず食い尽くされます。そして、何より手に負えないところは警戒心の強さと集団行動です。一匹見たら二十匹はいると言われています。食料確保の班と巣を作る班に分業しているようなのです。なので、巣まで追って一網打尽するのが良いのですが………彼らはその警戒心の高さから敵を見るとすぐ逃げ出し、別の巣を作るのです。なので、余程気配を消す技量がないと巣の特定もできないのですよ。」
なるほど、高額になる理由がよく分かった。隠密系に優れた人というのはなかなか少ないのだ。セフィリアを見ると彼女は小さく頷いた。
「俺達、この依頼受けていいですか?」
さっそく俺達は依頼主のところへと向かった。
***
場所はマルタス近郊の小さな農村。村の皆さんは農作業中だ。
「マルタスのギルドから来た者ですが、依頼主さんはいらっしゃいますかー?」
とりあえず呼びかけてみた。村人は一瞬こちらを見るが、溜め息をつきながら再び作業に戻る。そこへ一人の老人が俺達の元に来た。
「この村の村長ですじゃ。ランドイーターの件ですな?」
「ええ、そうです!出没状況など教えてもらえますか?」
「それはよいのですが………あなた方に駆除ができるのですか?こう言ってはなんですが、まだお若い少年と美しいお嬢さんの二人。できるとは到底思えんのですじゃ。遊びならば村の連中を落胆させる前に諦めてもらえんかの?」
たしかにこんな女、子どもじゃ、期待出来ないよな。俺だったら絶対しないだろう。でも、それは外見通りならの話だ。
「じゃあ、これならどうですか?」
そう言って、俺とセフィリアは気配を遮断した。目の前にいるのに突然消えたような、影だけ残して消えたような奇妙な感覚に襲われ、村長は驚いて口をパクパクしている。予想通りの反応に俺もセフィリアもご満悦である。
「これならいけると思いませんか?」
「ふぅ。まったく、驚きましたぞ!………いいじゃろう。この件、あなた方に任せよう。」
村長の鶴の一声で、村人も俺達を認めてくれたようで、協力的になってくれた。幸いにも村の畑はまだ荒らされておらず、俺達は準備をして目撃情報のあった場所へと向かった。
目撃されたのは、近くの森の中だった。
「あれですかね。」
「いましたね。」
息を潜めて遠くからランドイーターを確認する。そこにいたのはフェレットのような可愛らしい魔物だった。5匹程が自生した果実を収穫している。
「………あんなに可愛いのに、やらなければならないのですか?」
「依頼ですから。見た目に惑わされてはダメですからね。」
セフィリアは初めて見た時は無骨そうなイメージだったのに、最近は意外と可愛いもの好きな面もあることを俺は知った。そんな彼女は少し躊躇いが出てきたようだ。
暫くすると食料確保に満足したのか、ランドイーター達が移動を始めた。
「行きますよ。村の為にもしっかり割り切ってください。」
「………はい。」
ランドイーターを尾行していくと、地面に開いた横長の穴に入っていった。どうやらあれが巣のようだ。
いくつか手はあるが、今回はこの手が良さそうだ。
「ノア、こいつをあの中に射出してくれっ!」
「ピッピキーッ!」
そう言ってノアに魔法石を一つ手渡す。
以前、アーサー商会の商品開発を進める中でルーに様々な魔法石を作ってもらった。ここで取り出したのはその内の一つ、爆裂魔法の魔法石だ。商品への使い道もなく、無駄にたくさん在庫にあったものだ。
ノアは魔法石を触手で掴むと、射出の構えをとった。
そして『射出』!
魔法石が見事に穴に入った後、爆発音とともに地面が揺れた。入口の穴も塞がり、ランドイーターは完全に息絶えたようだ。
「冒険者………これほどツラい仕事だとは思いませんでした。」
セフィリアはかなりへこんでいるようだ。ノアが肩に乗って慰めている。
「まあ、それは人によるでしょうけど。ひとまず周囲を見回って問題なければ村に戻りましょうか。」
手分けして周囲の確認をした後、村に戻って成功の報告をした。吉報を受けた村人は大喜びで、畑で取れた野菜などお礼にと渡してくれた。
マルタスに戻り、俺達はギルドに依頼完了を伝えた。セフィリアはあまり嬉しがっていないのか、静かに俯いていた。
ともあれ、フィリアの初依頼は無事成功を迎えた。
………のだったが。