33 鍵の決意
前日のゴタゴタもルーとしっかり話をすることで、気まずい雰囲気もなくなった。
今日は対策会議を行う予定である。
「うむ、皆集まったようだな。アーサーも元気そうでなによりだ。昨日は………なんでもない。で、では、始めるか!」
昨日の話題を避けるためにルーが睨みを利かせたようだ。王は話を打ち切り、会議が始まった。
「進行役の予言対策大臣アーノルドと申します。」
アーノルドは淡い緑の長髪で背は高めのモデル系の青年である。そんな若さで大臣なんてなれるものだろうか。
「驚いているようだね。私はエルフなので、皆さんよりもずいぶん年上なのですよ。」
思っていることが顔に出ていたのだろうか。彼は髪をかき上げて、その長く尖った耳を晒した。
「では、始めます。まずキーとなる点ですが、世界樹の位置、四属の魂を持つ者、そして叡知の書と器──つまりルーテシア様です。まずはこれらの確保が最優先となります。現状では、基本四属性の内、火のアーティファクトを持つ者の確認がありますので、確保に向かっているところです。残りの水、風、土を持つ者は捜索中です。」
そうだな。そのどれかが無ければ破壊神とやらは現れないはずだ。
「加えて敵の排除ですね。いまだ敵は二人しか確認出来ていませんが、組織立っているかもしれません。敵情報の入手も必要となります。かなりの使い手のようなので、不用意な戦闘は避けるべきでしょう。」
「それで、どう動けばよい?」
「そうですね………世界樹と四属の所持者の捜索、これをアーサー君達に行っていただくというのはどうでしょう?」
室内がざわつく。
「ばかなっ!そんなことすれば敵に全て奪われかねないぞ!」
「承知の上です。ですが、敵はルーテシア様が封印された事も復活している事も知らないはず。そして、王はアーサー君が運命を打破する鍵だと思っていますよね。ですが、私にはその力はまだないように思われます。ですので、これは力をつける旅という意味もあるのです!もちろんこちらでもいろいろ動きますが。」
会議室がアーノルドの提案にざわつく中、王は腕を組み考える。そして、俺は期待の重さに胃が痛くなっていた。するとルーがこちらを見て微笑んだ。
「アーサー、やってみましょうよ!世界の事は置いといて、まずは生まれ変わったらどうなりたいって言ってたか思い出して!今がそのチャンスじゃない?」
(何て言ったっけ。………あっ、たしか世界最強目指すなんて言ったっけ。でも、こんなハードな世界じゃ無理だろ!それにそんな場合じゃ──)
「なにウジウジしてるのよ!アーサーは私の旦那様なんだからっ!そして、私は漆黒の大賢者様なのよ!その私ができるって言ってるんだから自信持ちなさいよ!もっと自由に生きてよ!!」
突然のルーの勢いに押され、室内には誰の声もなくなっていた。が、そこへ──
「ピキーッ!」
静寂を割って声を響かせたのはノアだった。
ルーの胸元から出てきたノアは、俺の頭に乗ってポンポンと跳ねた。あぁそうか、昨日俺は王と約束したにもかかわらず、手の届く範囲どころか全部背負おうとしていたのか。そしてルーも、せっかく転生させたこの世界で、弱腰になりつつある俺を見ていたくないんだろうな。なんかノアにも励まされてるような気がするな。
俺は頭上のノアを肩に移し、気合いをいれた。
「分かった。俺、やってみるよ!とりあえず世界の事抜きで、ルーを守りながらこの世界を見て回る!俺が強くなれば、その分終焉も避けられるかもしれないしな!」
ルーは笑顔で頷いた。
「あぁ、それでよい。御主は出来ることをしてくれれば良いのだ。皆の者、それでよいな!」
王の言葉に皆頷いた。
「ですが、残りのアーティファクト持ちはどうやって探すのですか?」
「そこなんですよね。火の者はギルドに登録があったのですが………世界の人口を一人ずつって訳にもいかないですし、とりあえず噂がないか探っているのですが。」
どうやら手段がないらしい。その点も俺達に期待したのだろうか。
スッと俺の隣でルーが手を挙げた。
「だったら、私に良い案があるわ。レーダーを作るのよ!ある人物の協力の元でね!」
「レーダー………ですか?聞いたことのない言葉ですね。」
皆が顔を見合わせている。どうやらレーダーを知らないらしい。
「レーダーは………まあ言ってみれば探索魔法みたいなものよ。アーサーの世界の技術よ!」
そんな物があるのか、と室内が歓声に包まれた。にしても、協力者って一体………。
「じゃあ、そういうわけで私達はマルタスに帰るわね!世界樹の方はまだ分かんないからお願いね。」
(マルタス………あっ、まさかあの人か!)
会議が終わりを迎え、俺達はマルタスへと帰る事となった。