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30 報告書

 時は2年前に遡る。


 アルハザルド王国の王都北西に位置する森の深くを、とある冒険者の一団が探索していた。その森はあまり人の手に触れられてはおらず、未開の森であった。彼らはどうやら鍛練を兼ねて、森で新たな発見があればという目論見で探索を行っていたようだ。


 進む先は未知であるため、彼らは安全を第一に魔物を倒しながら少しずつ奥へと進む。しかし奥に進むに連れて、徐々に敵の強さが強くなり、数も増えている。そこで、奥に何かあるのでは、とそう思っていた彼らは撤退の間際に、木々の奥に遺跡があり、その中に神殿のような建造物が存在するのを目にした。


 撤退した彼らは、未開の森の新たな、それも人工物の発見という情報を持ち帰り、国へと報告した。


 報告を受けた国は、百名もの優秀な兵士と学者を数名派遣した。魔物の掃討と神殿情報を早期に持ち帰るためである。


 魔物を一掃し周囲に魔物避けを施した後、調査隊が中へ入ると、薄暗い室内の最奥には大きな石碑が立っていた。鑑定をしてみるが、材質は不明、そこに刻まれた文字も不明だった。


 最初の調査での手掛かりとなったのは、この石碑の謎の文面だけ。写しを持ち帰った学者達は、言語学者、歴史学者、民俗学者などを中心に解読を試みた。他国の歴史から少数民族の伝承に至るまで、彼らは解読の糸口を探った。そんな中、似た文字を使っている文献が発見され、そこから碑文は読み解かれることとなる。



 ***



「とまあ、その報告書にある通り、そのようなことがあったのだ。では、次のページを見るのだ。」


 王に促され次へ報告書を捲ると、碑文の解読内容が記載されていた。


『破滅の神の降ろし方講座。

 まず、四属性各々の司る魂を準備します。それと叡知の書を準備します。その際、合わせて器を用意しておくと、後々手間が省けます。

 次に、世界樹を中心に魔法陣を描きます。四方に存在する増幅器に四属の魂をセットしましょう。

 最後に、詠唱します。

 満月が天頂にきた瞬間、生み出される世界樹のエネルギーを利用し、一気に神様を降臨させましょう。

 3分待てば出来上がりです。

 以上、簡単でしたね。気軽に試してみてね。』



「………本当にこんなこと書いてあったんですか?なんていうか、ふざけてるような内容ですね。」


 俺としては、どっかのイタイ子供が書いてみた的な印象を受けていた。


「こんな内容、信じる者がいるのでしょうか?ルーテシアさん、どう思います?」


「たしかにそうね。でも、これを書いた人物は少なくとも………叡知の書について知っているようね。」


 ルーの言う通り、内容は胡散臭いがその単語は気になる。俺はルーに問いかけた。


「それってどういう意味?」


「私は叡知の書について、一般には全魔法を知っているってとしか公表していないの。でも、ここでは儀式的に用いられる要素が強いじゃない?だから、完全に冗談で書いたとは言えないわね。」


 ふむ。そういう事なら一理あるかもしれない。


「この碑文の真偽はどこまで確かなのですか?というか、破滅の神なんているんですか?」


 細身の大臣が眼鏡をくいっと上げ、答えを返す。


「私が説明しましょう。まず古い言い伝えでは、この世界は三柱の神から成ると言われています。運命神、再生神、そして破滅神です。存在が確認された事実はありませんがね。 次に四属性の魂ですが、これは恐らく火のアーティファクト持ちがいますので、その者らの事かと推測されます。世界樹に関しては、位置情報は全く不明ですが、マナの源であり、世界の根幹と言われていますから、存在する可能性はありそうです。」


「ではもう一つ。王国は何故この神殿をそんなに調べようと思ったんですか?いくら国内の未開の地での発見とはいえ、対応がいささか大袈裟ではないかと思います。兵士の数だけでなくその後の解読もです。まるで、何かしら確信に似たものがあるかのような動きですよね。」


 俺の言葉に大臣は王を見遣る。王は頷くとともに口を開いた。


「うむ、アーサーの言う通りである。実は予言があったのだよ、二百年以上前にな。」


(そんな昔の予言を信じてるのか?というか国が予言なんて物に躍らされちゃいかんでしょう。それともこの世界では当たり前なのか?)


「二百年以上前に予言されたそれを信じてきた根拠はあるのよね?」


 王は一呼吸置くと、再び口を開いた。


「それはだな………運命神の巫女が告げた予言なのだよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が全身を駆け抜けていった。

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