29 王の城
「ようやく着いたな!」
俺達は特訓しながら一ヶ月近くかけて王都へと辿り着いた。
王城のあるこの王都アルハザリアは、周囲を高い壁で囲んでおり、その入り口には帯剣した鎧姿の門番や役人らしき者が構えていた。どうやら簡単な入国審査に似たものがあるらしい。
長い列に並び、王都について話していると、ようやく自分達の番が回ってきた。
「次、どうぞー。」
俺達は身分証としてギルドカードを出した。
「アーサーにルーテシアだな。もう一人はどうした?」
こちらを見ずに、手慣れた様子でまずギルドカードを確認した役人は、提出のないセフィリアの方を見るべく顔を上げた。
「………えっ、セフィリア様!?な、なんでこんなとこに並んでるんですか!あなたはあちらでしょ!」
指差された方向には、騎士や豪華な馬車が並んでいた。どうやら兵士や大臣など国に関わる仕事の者はあちらの入口で出入りしているということだった。
「いや、彼らは一般人なので、こちらに並んでみたんだが………。」
「もしかしなくても、この方々は王も客人なのでしょう?あなた、聖騎士隊長なんですから、しっかりしてくださいよ!粗相があったら私まで怒られちゃいますよ!」
役人に説教される聖騎士隊長。なんというか………セフィリアどんまい。
「お待たせして申し訳ありません。王都アルハザリアへようこそ!」
門を抜けると、そこには中央を分断する大通り。左右には服屋、武具屋、アクセサリー屋など服飾系の店が多く並んでいる。そしてその先には、王城であろう城が圧倒的存在感を放っていた。
「これが………王城なのか?」
「これが、王城なのよ。」
「これが、王城ですね。」
そこにそびえ立つのは、前世日本式の建築様式な城だった。街並みは石畳で西洋風なのに………和洋折衷すぎる。
俺達は中央の道を真っ直ぐ進み、城へと向かった。
「セフィリア様、お待ちしておりました!」
まだ若い衛兵の青年が敬礼してきた。
「ご苦労。王に取り次ぎを頼む。」
「もう準備はできているとの事です!」
まだ顔も見せていないのに、取り次ぎどころか謁見の準備も済んでいたらしい。イメージでは、こういうのは会うまでに時間がかかるのだが、もしかすると余程切迫した内容なのかもしれない。
俺は緊張の面持ちで城内を歩いた。
城の内装は、よくある西洋風の城みたいになっていた。どうやら和風なのは外見だけらしい。
そんな印象を受けつつ、着いたのは謁見の間。入口の左右にいる衛兵が扉を開けた。
そこには左右のスペースに騎士が配備され、一段上がった場所には大臣が座っていた。さらにもう一段上がった正面方向には、金で縁取りされた玉座がある。
天井には豪華なシャンデリアがいくつかあり、そこから溢れる光が室内の気品を一段上質なものにしている。
俺達は指定された中央の位置までくると、セフィリアに倣って片膝をついた。
「王の御ー成ーりー」
大臣の声と共に、奥の袖からアルハザルド王が姿を現した。4、50代だろうか。髪はえんじ色の短髪で、王なのに意外とガッシリした体格だ。マントと王冠もしており、まさに王様ファッションだった。
「よくぞ帰ってきた、聖騎士隊長セフィリア。そして御二方、ようこそアルハザルド城へ。私がアルハザルド王である。」
「王の御命令の通り、ルーテシア様をお連れして参りました。」
セフィリアが代表して答えるようだ。
「うむ、ご苦労だったな。して、そちらの少年は?」
俺の事だな。そりゃ訊かれるよな。
「はっ、ルーテシア様の想い人にございます。」
(あー、うん。間違いじゃないが、もう少し他の説明が………ないか。)
その瞬間、王も大臣もバッと席を立ち上がった。
予想だにしない反応だった。
「まことか!其方の名は何と申す。」
「初めまして、アルハザルドの王。私はアーサーと申します。ルーテシアとは訳あって共に旅しています。」
王の鋭い眼光が俺の全てを見抜こうとせんばかりに俺を貫く。なかなかに威圧感があり、一般ピーポーな俺には少し耐え難い。
「ふむ。あのセフィリアが納得してここに同行させたのなら、もはや何も言うまい。」
あのセフィリアというのが、どのことかは分から………分かってしまったが、城でもよっぽどルーテシア一筋な感じだったのだろう。
「では、ここから本題に入る。堅苦しいのは苦手であろう。話しやすいように喋ってよいぞ。まずはルーテシア様、お会いできて光栄です!我が祖先もお喜びのことでしょう。」
「私はあまり喜んでないけどね。もう少しでアーサーを落とせるところだったのよ!」
ルーが何やら俺の記憶にないことを訴え始めた。このまま行くと、流れで国家ぐるみのルーの恋愛大作戦が計画されそうな予感だが、面倒なのでノータッチにしておいた。
「申し訳ありません。その話はまた後日にしましょう。それよりも本題です!」
まずは、ルーテシアが封印されていた二百年間の発展と魔法研究の話。要約すると、魔法を封じ込める魔法石の開発が大きな発展であり、魔法研究は考察事項の答え合わせのようなものだった。
「次に、ルーテシア様についてなのですが、その前に、アーサーがルーテシア様の封印を解いたのか?」
「意図的ではない………というかルーの意図したように俺が行動してしまい、結果封印が解けたみたいな流れですね。」
「そうか………こういろいろ重なると、偶然ではなく必然的なのかもしれんな。」
王は大臣達に視線をやり、彼らもその意図に対して頷いた。
「まずはこれを見てくれ。」
数枚の紙が大臣より手渡される。その冒頭には『遺跡報告書』と書かれていた。




