28 旅の終着
セフィリアが取り出してきたのは、一冊の本。
「これは魔導書という物です。各ページに魔法陣が刻まれていて、一枚破いて魔力を流し、詠唱を唱えると、魔法が発生します。」
「つまり、これを食べさせるとこの本にある魔法が使えるようになるって寸法ですか?」
「その通りです!試しに一枚食べさせてみましょう。」
寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!ここに取り出したりますは一枚の水の魔法陣。これをノアに食べさせると~あら不思議。ノアが水魔法を使えるように~なりましたっ!
………使えるように~なりました!
………使えるように………。
「ノア、魔法使っていいんだよ?」
頑張ってプルプル震えるノア。そこへセフィリアが俺の肩に手を置き、一つの事実を告げる。
「………アーサー、どうやら失敗のようです。ノアに非はありません。」
「そう。ノアに非はないの。たぶん、魔導書といっても所詮は魔法陣が書かれた本だから、その本の特性は紙なのよ!」
なんてことでしょう。ウチの賢者様の見解は信頼度が高いのです!つまり、魔導書をいくら食べたからって魔法は使えない、ということなのです!
しかし、俺は諦めていなかった。
「なら、魔──」
「その通りよ!つまり、魔法を封じ込めた物ならイケるはずよ!」
久々にセリフ奪われたーっ!だが、今はそんな事気にしない。
「どんな物があるの?」
「洗濯機や冷凍庫で利用してる魔法石が定番ね!あとは特殊な武具もそうだと思うわ。」
「でも、荷物にあったっけ?」
「ないわ!」
………。
「気を取り直して、次はあれでいきましょう。」
魔法系はひとまず置いといて、セフィリアが次にと指差したのは平原の一角にある岩場だった。そこには一匹のハリネズミらしきものがいた。
「あれはニードラという魔物です。魔物の生体は今だ詳しく分かっていませんが、魔物は動物と違い、核と呼ばれるものを体内に持っています。それを取り込ませてみてはいかがでしょう。」
どうやらセフィリアの説が正しければニードラの持つ能力である『射出』が使えるだろうという話である。
ニードラを確保した俺達はすぐにノアの前に置いた。ノアが少しずつニードラと覆うこと数分。ニードラは完全に取り込まれてしまった。
「ノア、準備はいいか?」
「頑張って!ノア!」
ノアも気合い十分。ニードラがいた岩目掛けて、射出っ!
バッコーン!
………とはいかなかった。
「やっぱそう上手くはいかないのかな~」
俺達は夢を見すぎていた。そんな風に三人は諦めかけていた。
だが、諦めていない者が一人。いや、一匹いた。
ノアはポヨポヨと移動し、地面に触手を伸ばすと、再び岩に向き直った。そして、ノアから射出された何かが岩を穿った。
「ピキーッピピー!」
「ノア、これは………石?」
「あ、射出するものがなかったのね!」
「考えてみれば、ニードラは針を持ってますからね。ノアはまだ小さいですから、自分の身体を飛ばす訳にもいきませんよね!」
そう。射出する物がなければ射出できないのは当たり前だった。ノアは、どんなもんだい、と言わんばかりに触手を曲げて力こぶアピールしている。
俺達の育児という名の最強化計画はここから進み始めるのだった。
数日が過ぎ、王都が近づいてきた。その頃になると、俺の修行も良い感じに仕上がってきていた。つまりは、スキルを身に付けたのだ。
スキル名は『シャドーブレイク』。皆に好評を得た気配遮断と剣技の組み合わせである。受ける側としては、太刀筋が気配遮断のせいで分かりづらく、どこか気持ち悪いというセフィリアのお墨付きである。マナ感知に優れた彼女だからこそ余裕で受けきれるが、普通の相手には、例えるなら消える魔球のようなイメージだそうだ。
「まったく、スキルはマナを収束させるので本来ならば気配遮断を応用することなど出来ないのです。操作が上達したのも相俟って収束したマナごと気配遮断で覆ってしまうとは………。アーサーはつくづく例外ですね。」
「それはそうよ!私の旦那様だもん。しかも、もう魔法も使えるようになったしね~。」
実は俺は魔法も少し覚えていた。閃光による目潰しの『フラッシュ』、ルーが使っていた風の衝撃波『エアブラスト』である。威力は低いが、魔法は魔法だ。何とも不思議な感じだったが、体内の魔力の流れを感じ始め、その操作に慣れてくると、なんか出たのだ。見たことがあるとイメージしやすいのだろうか。
まさに考えるな、感じろ!である。
一段落落ち着いたところで、ようやく王都が見えてきた。一月弱の旅が終わりを迎えることとなる。