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3 世界の基準

「おい、ルーテシア!なに勝手に俺の名前決めてんだよ!」


 少し強めの俺の怒声に対し、彼女は謝るどころか何故か頬を膨らましていた。


(え~、なんでお前が膨れっ面なんだよ。)


 そう思っていると、ルーテシアがぼそっと呟いた。


「ルーって呼ばなきゃ、やだ。」


「はあっ!?」


 まるで小さい子どものように、僅かに目に涙を溜めてこちらを見てきた。


 ナニコレ……… コイツ、ホントメンドクセェ。


 上目遣いで見つめられようが、空気の読めない彼女には全くもって扱いに困りそうな未来しか感じられないんだが。


「はいはい。ルー、ちょっと俺怒ってるよ?一応、な、ん、で、その名前にしたのか理由を聞いておこうかな?ファミリーネームがお前と同じなのも含めてね!」


「だ、だって友達とかにアーサーって呼ばれてたし、ファミリーネームは………ほら、私達、もう深く結ばれちゃった仲だから。あの時言ったよね?俺、お前を離したくないんだ!って。きゃっ!」


 そう言ってルーは顔を両手で覆った。


 おいおい、一体どこをどう取ったらそんな展開になるんだよ。やっぱり異世界だから言語が通じていないのか?てことは、まさか今の今まで何となくで会話成立してたのか?………んなわけあるかーーいっ!!


「いやいや、それ勘違いってレベルじゃないから!意訳しすぎだから!俺の言語ちゃんと通じてるよね!?」


 誤解のないよう言っておくが、もちろん手は出していない。結ばれたというのは、魂が繋がっているという意味だろう。そして、連れていくと言っただけでそんなことを言った事実もない。


 因みにアーサーは俺のあだ名だった。知らない人には名前を呼ばれているだけにしか聞こえないのだが、由来は中学生になって英語の初授業での自己紹介である。名前を英語読みすればそうなった。どうなるのかは説明しなくても自分で察してほしい。


 どうやらこの世界でも、俺は『アーサー』の呪縛からは逃れられない運命らしい。小田原朝だった俺は、これからアーサー・バレンタインとしてこの世界で生きることとなった。




 それからいろいろと話を聞いた。


 俺は特殊な生まれ変わりなので魔力器官などがないため、名前を魂に刻んだ時に類似器官を形成したこと。ルーの口調が最初と違うのは、実はそれっぽく見せる演技だったこと。魂の繋がりでルーの能力の一部が使えるかもしれないが、前例がないから詳しくは分からないこと。子供の姿なのはこのくらいの年齢から社会でもやっていけるから。また俺の死の裏事情は今はまだ秘密ということだった。


 そして………


「そういや、俺はどのくらいの強さなんだ?」


 お待ちかねの俺のステータス大公開タイムだ。強くてニューゲームした俺はどうなったのかな?フッ、まさかの世界最強スタートなんて無粋な真似はよしてくれよ?


「どれくらいって、鍛えてないんだから普通の12歳の子どもだよ?」


 うーん………聞き間違いか?だって、俺は『強くてニューゲーム』を選択したんだぞ?いくらなんでも普通って事はないでしょうよ?


「またまた~、ルーは嘘が下手だなぁ。強くてニューゲームねって言ってたじゃん。」


「言ってないよ?強ニューとはいったけど。………あ、勘違いしちゃった?」


 おいおい、バグってんのか?おかしいだろ。ちょっと雲行きが怪しくなってないか?


「な、なぁ、ルーさんや。強ニューとは、一体何が『強』なのかな?」


「え、全部。簡単にいうとハードモード、かな?魔物とかも強いけど、その分こっちも能力の上限解放みたいな?」


 なんてこった。たしかに強い方がいいって言ったけど、最終段階の話かよ!俺は弱いのに周りが強くてニューゲーム状態だなんて。


「じゃあ初心者はスライムとか狩れば強くなれるのか?」


 ルーと話しつつも、近くにスライムがいたので試しに落ちていた木の棒を手に取り、挑んでみた。


 勢いよく突っ込んできたスライムに、俺は振り上げた木の棒をタイミングを合わせておもいっきり叩きつけた。が、予想と反して、木の棒は弾けるように簡単に砕け散った。


「はっ!?ち、ちょっ、タンマッ!ふぐっ!」


 木の棒を砕いた勢いそのままに、スライムは俺の顔面に体当たりしてきた。まるで右ストレートと言わんばかりの衝撃が頭部を突き抜ける。


「ここはゲームじゃなくて現実なのよ?強くなるには修行しかないわ。ちなみにスライムっていっても弱いどころかそこらの獣より強いわよ?一応魔物だから成長するのよね~。しかも成長早いし。だからまずは………あっ。」


 ルーも俺の方を見ずに着ている服など身嗜みのチェックをしながら話していたようで、彼女が振り向いた時には、すでに俺は触手による連打からのワン、ツー、フィニッシュというボクサーさながらの痛烈なアッパーカットにより宙を舞い、見事に頭から地面に突き刺さっていた。


 一方で、スライムはそのまま綺麗に着地すると、不満げに俺に唾を吐き捨てて、そのまま草原へと帰っていった。


「おーい、アーサー………おぉー、生きてるね~。二度目も同じ死に様にならなくて良かったね!」


 ルーは俺の足を指でつんつん突っつきながらそんな事を言っていた。


 ………もう少し早く言ってほしかった。マジで何なの?スライム強すぎっ!危うく本当にコイツの言ってた通りになるとこだったぞ。



 この体に生まれ変わって一時間程。すでに二、三度死を覚悟した場面があったわけだが、まぁ今のところルーは魔神だか邪神だか言われてる割には悪いヤツではなさそうだ。ちょっと面倒くさい性格だが。


「こんなところじゃ何だし、とりあえず街にでも行きましょうよ!」


「そうだな。」


 新しい人生は結構デンジャラスみたいだが、俺は異世界に来た事を実感して少し高揚していた。そんな気持ちを胸に抱いて、俺達は街へ向かって歩き出すのだった。

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