27 スライム育成計画
「秘湯巡りでスライムベビーに懐かれたアーサー。母性をくすぐるその愛らしさに、彼は瞬時に篭絡されてしまう。そして、彼の育児奮闘記が始まるのだった~」
………。
「ルー………そのナレーション、何?」
「あれ、何か間違ってた?その通りだと思うけど!」
なんかルーの機嫌が悪い。
「まあ奮闘記かはさておき、なんか不機嫌でないかい?どうしたの?」
「全ー然、フ・キ・ゲ・ンじゃないよ?別にアーサーがノアばっかり構ってるとか、ノアがアーサーにばっかり懐いてるとか、そんなこと思ってないもん!」
(それが原因かぁ。でもそんなにノアを構ってる覚えないんだけど。)
というわけで、セフィリアに援護を求める。
「セフィリアさん、俺そんなにノアのこと構ってないですよね?」
「………はぁ~。アーサーは気づいてないんですか?よーく思い返して下さい!」
俺はノアとの接し方を思い返してみる。朝起きてノアと一緒に顔洗って、ご飯食べさせて、訓練して、つついて遊んで、一緒に寝て………。
「特に思い当たらないですね!むしろ足りなくないか不安になってきました。」
セフィリアは顔に手を当て「ダメだ、この人」と小声で漏らしていた。ルーは半泣きになっている。納得いかない。
「ルーもノアと遊んだりしてるだろ?俺も変わらないと思うんだけど。」
ノアとルーが遊んでるのも俺は見たことがある。
「そしたら、アーサーがすぐにノア奪っちゃうでしょ!私だって遊びたいの!」
(まっさかー。俺がそんな事するわけがない。ルーのやつ、どんだけノアにご執心なんだよ。)
そう思っていると、セフィリアから衝撃の事実が告げられた。
「自覚がないようなので言っておきますけど、アーサーが1日に触れ合っている時間は22時間程です。ルーテシアさんが5分、私が2分あればいい方です!」
………何を言ってるんでしょうね、この人。1日24時間なの知ってるんですかね?
「………セフィリアさんは嘘が下手だなぁ。」
「………」
二人の視線が冷気を帯びている。そして痛い。
「………ホントなの?」
コクリ。二人揃って頷く。
「そんなまさか………この俺が、篭絡された………だと!?」
「よーーやく分かってくれたんだね。罰として暫く私とセフィリアでノアの面倒見るからね!」
「ノアがルーテシアさんと私に懐かなくなったら、アーサーも嫌でしょう?」
うーん、そこまで言われたら俺には自重するしか選択肢がない。
「分かった。ノアのこと………よろしく頼むよ。」
今生の別れの面持ちでノア離れを誓う俺であった。
セフィリアとルーが嬉しそうにノアをつついている。
「そういえば普段、私達と同じ食事を与えていますが、普通は何を食べるんでしょうね?」
セフィリアの疑問は俺も抱いていた。
「どうかしらね。いろいろ試してみよっか!」
「その前にルー、ちょっと思いついちゃったんだけどいいかな?」
「どうしたの?」
俺はノア育成計画を推し進めるべく、一つの提案をした。
「命名の儀式をして欲しいんだ。俺にやったやつ。もしかしたらパワーアップするかもしれないじゃん?」
「いいわね!やってみよっか!」
ルーは快く賛同し、詠唱した。すると、ノアの身体に何やら回路のような模様が輝きを放ち、ゆっくり消えていった。
「ノア、何ともないか?」
「ピキーッ!」
俺の問いかけに、ノアは嬉しそうに跳び跳ねながら返事した。………って、今何か鳴き声が聞こえたような………。
二人を見ると、ルーとセフィリアも目を見開いている。
「ノア、お前鳴き声が出るようになったんだな!他にも何か変化はあるか?」
「ピーピー」
ないよ、と言っているように身を左右に揺らした。
「まさか、こんな鳴き方するなんて………可愛すぎるわね!」
「たぶん他にも進化してるでしょうね。ノアは出来る子ですから。ゆっくり観察していきましょう!」
思わぬ成長を遂げる事となった命名式は一段落し、次なる段階に取り掛かった。
「それじゃ、次は食事面だな!何をあげてみる?」
普通の食料を食べることは分かっている。何をあげようか。
「そうだわ、これなんかどう?」
ルーが選んだのは、金属の塊。ノアの前に置くとノアはゆっくり近づき、金属塊を覆ってしまった。
数分後。
「ノア、美味しかったか?」
「ピキッピー!」
ノアは上下している。どうやら美味しかったようだ。するとノアの身体が銀色の光沢を帯び始める。
「ノア、あなたメタル化したの!?」
触れてみると、金属のように硬い。しかし、動きは何時ものようにプルプルしている。不思議感覚だ。
「取り込んだ物の特性を吸収、発現できるんでしょうか。ノアは天才ですね。ならば………これなんてどうでしょう!」
若干、親バカになってきたセフィリアが取り出したのは、一冊の本だった。