26 未知との遭遇
悲鳴を上げ、温泉から飛び出るアーサー。
悲鳴を耳にし、駆けつける美女二人。
「どうしました、アーサー!魔物ですかっ!?」
「今の声、何かあったのっ!?」
バン!と勢いよくドアが開く。そこで二人が目にしたものは………。
「いやん、えっち!」
身を守るように、必死に身体を手で隠すアーサーの姿だった。
「………ほぉ、それが狙いでしたか。ちょっと引きます。幻滅です。」
「………えっと、私は何も見てないんだからね!」
セフィリアは軽蔑の眼差しに変わり、ルーは顔を手で覆いながらも指の隙間からばっちり視線を送っていた。
呆れて二人が出ていった後、俺は膝をつき、湯舟を見る。
「とっさとはいえ、なんであんなセリフ言ったんだか。」
湯舟を凝視すると、何か透明な物体のような物が浮かんでいる。両手で掬い上げると、それは温泉の湯を水玉にしたみたいな感じだった。手触りはツルツルぷにぷにである。
(ヌルンとした正体はこれか。)
その乳白色の球は、細く伸びあがり、手の上から俺の肩に飛び乗ってきた。そして、顔に擦り寄ってくる。
「この伸び具合………お前、もしかしてスライムなのか?」
魔物は全部が全部、人を襲う訳ではない。ただ、動物と違って、進化や成長が著しい。それ故に危険なものも多いのである。
(それにしても、コイツ人懐っこいなぁ。普段見るスライムは目が合ったら、それが死合い開始の合図って感じなのに。)
俺はスライムらしき物を指でつつきながら、再び温泉に浸かった。
「さっきは咄嗟のことで、ついあんな感じになっちゃったんだよ。ごめん!」
温泉から出た俺は、何故か正座させられていた。
「はぁ、もういいです。で、頭の上の丸いのは何なのですか!」
「温泉にいたんだ。なんか懐かれたみたい。付いてきちゃった。」
「見た感じ、スライムですよね?魔物が人に懐くなんてことあるんでしょうか。」
「聞いたことはないわね。でも、警戒心もないみたい。普通より小さいし考えられるのは、生まれたてのスライム、とかかしら。」
なるほど、スライムの赤ちゃんか。それなら納得できる。どおりでカワイイはずだ。そこで、俺は提案してみた。
「一緒に連れてってもいいかな?」
「何を言ってるんです。無理に決まってるでしょう!いずれ人を襲うかもしれませんよ?」
「そうならないよう躾するし、もしそうなりそうな時は野生に帰す。最悪俺が斬るから!」
俺は必死に訴えた。そして、最高の援護が入った。
「私はいいと思うわ!だって、可愛いもの!」
そう言ながらルーはスライムに頬擦りしていた。これぞ対セフィリアの最強兵器、ルーの一声である。
「し、仕方ないですね。その代わり躾はしっかりしてくださいね!」
セフィリアは簡単に落ちた。ちょろい。
「ありがとうございます!」
「アーサー、名前どうするの?」
お礼を言うと、スライムを胸に抱いたルーが聞いてきた。
「実はもう決めてるんだ。コイツの名前はノアだ。」
「ノア………良い名前ね!セフィリアもいいかしら。」
「ええ、良いと思いますよ!」
これが俺達とノアの出会いだった。
「よろしくな、ノア!」
肩に飛び乗ってきたノアは、嬉しそうに身振りで返事した。
***
一方、アルハザルド王国王城、会議室にて。
王の座る目の前には、20名程が長机の左右に別れて座っている。外見からすると大臣や学者、騎士などのようだ。
「密偵の知らせによりますと、どうやらアレを復活させようと暗躍している者がいるようです。」
室内がざわつく。
「どんな奴か確認はとれたか?」
王は大臣に問う。問われた大臣は何やら渋い顔をして答えた。
「はっ。一人は二刀流の少年、一人は小柄な老人のようです。二人は例の遺跡に進入し、警護の者を全滅させた模様です。」
「その二人、何者だ?」
「現状では詳細は不明です。相手は知覚に優れており不用意に近づけないので、十分距離を取って監視を続けておりました。しかし、遺跡を去った後、マルタスへと向かった模様ですが、そこで連絡が途絶えてしまいました。」
「………そうか。ならば、一刻も早くルーテシア様をお迎えせねばならんな。聖騎士隊長セフィリアからの連絡は?」
「いえ、マルタスに向かうと連絡が届いた後、こちらも途絶えました。」
「なにっ!」
室内が再びざわつく。それも先程より大きく。
「あのセフィリアから連絡がないだと!?それはつまり──」
「そうです!それはつまり、現在同行中、もしくは発見した、という可能性が確定レベルです!あのセフィリアが連絡しない理由はそれくらいしかないですから。」
「だよな!ヒャッフーイ!!」
室内は歓声に包まれていた。
「いつでもできるように宴の準備はしておけよ!解散っ!」
こうして、皆のホクホク顔で会議は終わりを迎えた。