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25 秘湯巡り御一行

 マルタスから王都までのおおよその道のりは街道沿いに草原を抜け、途中山あいの道を通って、開けた平原を行くといった行程である。特訓をしたり魔物を倒したりしつつ、俺達は王都を目指している。そして、今日も野宿だ。なんというか………もう慣れたけど。

 もちろん街に寄ったりはしている。泊まろうと思えばお金もあるので可能だ。何故野宿かというと、つまりは修業である。セフィリア曰く、周囲の気配に鋭敏になることが狙いだ。


 そんな今日の地形は山である。山あいの村で聞いた話では、なんと秘湯が山の中腹にあるという。この世界の人はシャワーがメインで風呂に浸かるということをあまりしない。今回は、ルーが前世のテレビで温泉を知っており、温泉に入ってみたい!という発言からレッツゴーという流れになったのだ。

 馬車は村に預けて、一路山中を進む。



「ないですね。楽しみではありますが、本当にこんな場所に湯が湧いているのでしょうか?湯が湧くなんて不思議ですが。」


 セフィリアは温泉を知らないようだった。そんなセフィリアが楽しみにしているのは、正確には温泉でなく、ルーと一緒に入れるという状況である、という事は言うまでもないだろう。困った人である。村人にこの話を聞いて、暫し自分の世界にフェードアウトしていたのは記憶に新しい。


「あれ、そうじゃないかしら?」


 ルーが指差す先は木々の奥が開けており、そこに一軒の掘っ立て小屋があった。歩き続けて精神的にも疲労していた三人が、ヒャッハーな気分で小屋の裏手に回り込む。そこには、岩で囲むように作られた窪みの中に湯気立ち上る乳白色の泉、すなわち温泉があった。


「こ、これが、温泉なのですか!?」


「これが温泉………なのね!」


「あぁ。これが、温泉だっ!!」


 俺達は疲労感からの解放と感動で抱き合い、すかさず脱衣場である小屋へと入っていく。


「………ところでアーサー。何を当然の如く付いて来ているのですか?」


「えっ?」


「アーサー、私もさすがにそこまではまだ無理なの。」


「はぁっ!?えっ、じゃあ今の感動は?これから皆で入る事で存分に感動を分かち合う流れは?」


「それとこれとは話が別です!成り行き任せの男性程ダメなものはありませんよ?」


 二人の視線が痛い。恐らくこれは軽蔑の眼差しというやつではなかろうか。


「くっ、そんな事を言われたらどうしようもないじゃないか。俺はただ感動の瞬間を分かち合いたいだけなのに!不純な気持ちなんて………全然ないアル!」


「どっちなのよ!」


「…………。」




 先にルーとセフィリアの二人で温泉に入ることになった。万が一にも裸を見られるのが恥ずかしいと、ルーは結界魔法というやつで温泉の周囲を覆ってしまった。そんなこと起こるはずないのに。

 ちなみにこの結界魔法、弱めの設定になっているが、触れると冬場の静電気のように痛い。言っておくが、べつに覗こうと思って試したわけではない。絶対にない。



 赤く染まる山々、その間に沈みゆく夕陽。空を羽ばたく鳥達も家路に向かっている。そんな風景を見ながら、俺は一人、倒れた木の上で寝転がっていた。


 いつの間にかうとうとしていたのだろう、辺りは薄暗くなり、二人は食事の準備をしていた。


「あれ、上がってたの?」


「アーサーが気持ち良さそうだったから、そのままにしておいたの。もうすぐご飯できるから少し待ってて。」


 良い香りがする。どうやら今日の夕食はカレーのようだ。以前ルーにカレーが食べたいと言ったら、貿易の街マルタスの優秀な商人連中にスパイス類がないかをあたり、様々なスパイスを集めてくれた。そして、試行錯誤のうちにできたのが、このルー特性カレー。この世界では肉などは前世と大体同じものが多い。なので、変な物を食べさせられるということはなく、前世で得た知識によりスパイシーで食欲をそそられる完成した一品が出来上がったのだ。


「うん、相変わらず美味いな!」


 ウチのハイスペック大賢者様は料理もできるのだ。


 夕食を終え、いざ、秘湯とご対面。

 温かくて、疲れも何も全て消えていくようだ。

 そして、目の前には、遠く山裾に灯る村の灯り、見上げれば、輝く満天の星空。


(ふー、最高だなぁ。)


 湯船の岩壁に背を預けて星空を見ていると、チャポンッ、と何かが温泉に入る音が聞こえた。


(ルー?それとも、セフィリアさん?いやいや、どっちもないから。)


 俺は見上げていた視線を正面に戻す。しかし、何もいない。


 空耳だったのかなと思い、そのまま湯船に浸かっていた。そして………


「うひぃ!」


 お腹のあたりをヌルンと何かが這ったような感覚に、俺は変な声を上げてしまった。


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