24 旅の始まり
「じゃあ、行ってくるよ。」
「行ってくるわね。」
俺とルーはご近所さんや子供たちに挨拶をし、ムジナの家に来ていた。
「ルーお姉ちゃん、すぐに帰って来るよねっ?」
アイリは少し泣きそうになっている。
「ええ、ちょっと遊びに行くだけよ。その間、お母さん達を助けてあげてね。」
「うん………わかった!」
涙を堪えて、笑顔を作るアイリ。もう家族みたいなものだから辛くなるのも当たり前である。
馬車の手配等の旅支度を終えたセフィリアが合流したので、出発の時間となった。
マルタスから王都までは、馬車で3週間くらいかかる。アーサーカンパニーの方もこの数ヶ月で様々な開発が進み、未販売のストックはまだまだあるので大丈夫だ。もっとも潰れたところで、ちょっと豪華な暮らしがなくなるだけなので、俺としてはそれほど気に止めていない。
「早く帰って来てねーー!」
アイリの声を胸に、俺達は王都を目指す旅に出た。
***
「そういえば、アーサーはどうやってルーテシアさんの封印を解いたのですか?」
「あー、実はですね………」
旅に出て数日、セフィリアとはかなり打ち解けていた。なので、まあいいかなと思い、これまでの成り行きを話してあげた。
「………ちょっと頭を整理させてください。アーサーは元々この世界で生まれた訳では………いえ、違いますね。別の世界とやらで一度死んで、この世界に記憶を持ったまま生まれたという事ですね?」
「はい。ルーが封印されていた次元の間でルーと出会って、俺はただ生まれ変わらせてもらっただけなんです。なので、俺が何かをしたという訳ではないですよ?」
「言ってみれば、アーサーが封印というドアを開く唯一の鍵だったってことよ。」
「その次元の間とやらは、死んで意志を持たない魂の集合の場でしたよね。どうしてそのような場所でルーテシアさんは自我を保てていたのですか?」
「それは、私のアーティファクト『叡知の書』のおかげよ。それが持つとある権限のおかげで、私は精神体として存在できたの。」
「そうなのですか。でも、何故そのような事態に?皆の支持を集めていたでしょうに。一体何が?」
うん、まさかストレスで街が爆発するなんて誰も思わないわな。完全に黒歴史だろ。
「それは言えない。言ったらあなたの首がチョンパされる邪神の呪いがかかってるの。絶っっ対に言えないわ!」
ルーは適当な事を言って誤魔化していた。いや、それはさすがに無理があるんじゃ………
「そんな呪いが!?くそっ、邪神めっ!許せん!」
全然セーフだった。え、邪神なんているの?何でもまかり通る世の中なの?
急ぐ旅でもないということで、俺は旅の間にルーとセフィリアに修業してもらっていた。俺はまだ基本のマナ操作しかできないのだ。このままでは、いずれ○神家エンドなのは目に見えている。
セフィリアには、スキル獲得の為にもマナ操作メインで、剣術をサブで学んでいる。体内のマナを部分的に活性化させたり、高速循環させたりを繰り返した。最終的には凝縮し、一点に集めることができれば、それがスキルの形成につながるらしい。
マナを操作することは言葉を学ぶことと似ている。この世界では生まれた時からある当たり前のもの。成長とともに少しずつ自然と身につく。それを12歳の身体でスタートした俺は、12年分とそれ以上のことをマスターしなければならない。難しいに決まっていた。
「うーん、全然ダメですね。この程度でルーテシアさんの夫になるなんて、片腹痛いです!」
マナの見えるセフィリアからすると、どうやら俺はまだ操作が荒く、密度も低いらしい。躍起になって特訓していた俺は途中でマナ不足になったりもした。体内のマナがほとんど感じられなくなったのだ。
どうやらマナ操作は桶に汲んだ水を運ぶようなもので、その水を溢しすぎていると怒られた。これが円滑にできると、疲労も少ないらしい。
「何ともないんですか?おかしいですね………。マナ不足になると、普通は倦怠感を感じ、倒れるのですが。」
「俺はいたって健全な少年ですよ?人の事をまるで異常者みたいに。」
どことなく馬鹿にされてる感が否めないので一つ見返してやろうと、試しにマナを消す方も見せた。
「マナの抑制の方はもはや変態レベルですね。驚く程スムーズです。これから湯浴みの際は全力で気をつけるようにします!」
「オーマイガッ!」
要らぬ誤解を与えただけだった。
一方、ルーの指導は勿論、魔法である。
体内の魔力を感じながら、イメージ。
放たれるは天から下される一条の神の雷。
イメージ。イメージ………。
そして、放つ!
ドッゴーーン!
………
とはならなかった。
「あっれれー、おかしいぞお?」
「どうしたの、アーサー。そんな子供みたいな声出しちゃって。何かの真似?」
「いやぁ、こんな見た目でも中身は大人なんだよなーって思っただけ。」
「………そう。アーサーの中の大人の部分が目覚めたのね。うん、それなら仕方ないわ。私も覚悟を決めなくっちゃ!」
「あの~………ルーさん?」
そう言って顔を紅くしたルーは自分の世界に旅立っていった。




