23 想いの丈
「セ、セフィリアさん、落ち着いて聞いてください!」
「………もはや………是非もなし!」
セフィリアは俯いたまま剣に手をかけている。
(なんか、浮気がバレた気分なのは何故だろうか。あぁ、修羅場だからか。………はぁ、どうしよう。何言っても聞く耳なんてないよな。)
俺が諦めモードになっていると、セフィリアはすでに剣を振り上げていた。
「砕け散れーっ!」
思わず目を瞑った。しかし、いつまで待っても痛みはこなかった。恐る恐る目を開けると、セフィリアが床に倒されていた。
「止めないで下さい、ルーテシア様!彼が居なくなれば万事問題ありません!無問題です!」
どうやらルーが止めてくれたようだ。
「ルー、ありがとう。本気で死んだと思ったよ。これって何したの?」
「重力魔法よ。セフィリア、落ち着いてよく聞きなさい。私とアーサーの夫婦説は半分本当、半分冗談よ。」
ルーの言葉にセフィリアは怪訝な顔をする。
「それは………どういう事です?」
「詳しく言うつもりもないけど、彼と私は魂で繋がってるの。封印を解いてくれたのも彼。そして、私が一方的に好きなだけ。正式に婚姻を結んだ訳ではないわ。」
ルーは少ししゅんとした様子でセフィリアに聞かせる。
「でも私が好きなんだからそれでいいの。彼が私を見てくれるようになるよう頑張ってるの。それを誰にも邪魔はさせないし、彼を傷つけるつもりなら誰であろうと絶対に許さないわっ!」
言葉とともにキッと鋭い視線を浴びせると、セフィリアは黙ってしまった。
「申し訳ありませんでした………。」
ルーの敵対的な瞳にセフィリアは暗い表情のまま頭を下げた。そして、そのまま立ち去ろうとした彼女だったが、一つの声が彼女を留めた。
「私に憧れているようだけど、時を超えてそんな風に思ってくれるのは正直嬉しく思うわ。ありがとう。だから私の事もアーサーの事も、自分の目でしっかり見て受け入れなさい。それが出来るのなら友達くらいになら、なってあげるわ。」
先程とは正反対にルーは優しく微笑みかけた。まるで、聖女の微笑のようである。
セフィリアは顔をバッと上げ、そんなルーの顔を見た。その瞬間、涙がとめどなく溢れだした。
「申し……訳ありませ……ん。ルーテシア様ぁー!」
ルーは歩み寄り、その場にうずくまるセフィリアの肩をそっと抱いた。
「じゃあ、これからは友達ね!だからルーテシアって呼んでちょうだい。特別にルーと呼んでいいのはアーサーだけだから!」
「ありがとうございます。ル、ルーテシア……さん。」
少し照れたようにルーは顔を赤らめていた。落ち着いたのか、セフィリアはこちらに向き直って、頭を下げる。
「アーサー殿、先程の非礼、深くお詫び致します。話によれば、ルーテシア様………さんを解放したのはあなただというじゃないですか。それは言い換えれば、私がルーテシアさんに会えたのも、あなたのおかげということ。お礼を言わせてください。」
「でしたら、仲直りの証に俺の事もアーサーと呼んでください。」
「わかった。では、これからよろしく頼む。アーサー。」
こうしてどうにか修羅場のような晩餐会は俺とセフィリアの握手で幕を迎えた。
「………あれ、いつの間にか誰もいねぇじゃねーか。んっ?なんか体が上手く動かねぇし、寒ぃな。………ひぃ、母ちゃんっ!?」
ムジナが目を覚ますと、そこには………世にも恐ろしい般若様がいました、とさ。南無。
セフィリアと別れ自宅に着いた俺とルーは、シャワーで汗を流し、ベッドに入った。ちなみに別々のベッドだ。
「あ、そうそう。これ、ルーにプレゼント。いつもありがとうな。」
ルーは驚いた顔で受け取り、小さな箱を開ける。そこには三日月を象った銀色のネックレスが入っていた。
「ルーってなんか夜を照らす月ってイメージなんだよね。いつも俺を助けてくれるからかな?これ見て似合うと思ってつい買っちゃった!」
ルーは無言で泣きだした。予想外の展開に俺は困惑してしまう。
「ごめんね。アーサーがちゃんと私を見てくれてたと思ったら、急に………涙が。」
ルーの頭をぽんほんと叩いてやる。そして、ネックレスをつけてやった。
「うん、やっばり似合う。ところでさ、どうしてそんなに俺を好きでいてくれるの?惚れられる覚えがないんだけど。」
これまで疑問だったことを聞いてみた。彼女から返ってきた言葉はたったの三文字。
「ひ・み・つ!」
涙混じりの笑顔でルーはそう答えた。 その笑顔に俺は、まあいっか、と満足したのだった。
その後。
「ちなみにルー、夫婦なんて言ったら修羅場ルートだって読めてたよね?」
「ええ、読めてたわ」
「じゃあ、なんで言っちゃったの?鬼なの?」
「あそこは一度現実を直視させた方が、後々の関係性に支障が少ないのよ」
「………」
「上げて下げるじゃ、取り返しのつかない事態になるかもでしょ。まあ、それでもあそこで言ったことは本音だから、大丈夫よ?私はあくまで、状況をセッティングしただけだから」
「………ルー、恐ろしい子!」
またもや、ルーは俺の先を行っていたようだ。




