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22 暴露の食卓

 ルーの正体に理解が追いついていないムジナ。


「正確には闇の大賢者よ。」


「すみません。今の世では漆黒の方がカッコいいということで、そう伝えられていましたので。」


「時代の流れというやつかしら。まあ、どちらでもいいわ。」


 セフィリアが密かにガッツポーズをしている。


「でで、で、では、ルーテシア様は当時、その美貌を持って王国を裏で支配した天才美少女アイドルだったというのは本当ですか?」


「モチのロンよ!」


 おい!平気で話を盛るルーにツッコミそうになってしまう。それを真に受けたセフィリアはくぅーっと身を震わせている。この人、どうやらただの聖騎士ではないようだ。いろんな意味で。

 そこへムジナの意識が戻ってくる。


「いやいや、意味わかんねぇ。うーん。まずは確認なんだが、お前、あの伝説のアイドル、ルーテシア・バレンタインなのか?でも200年前に失踪した謎のアイドルって言い伝えだぞ!」


「ええ、そうよ。」


「じゃあお前、そんなナリしてオーバー200歳なの?ロリババアなの?」


 ムジナの口から思わずそんな言葉が出た瞬間、部屋の空気が凍てつく。バカっと思ったが、気づくのが遅すぎたようだ。


「はっ倒すわよ!私、永遠の14歳だし。いっぺん氷漬けにでもしてあげようかしら。返事がないけど、聞いているの?」


 すでにムジナの氷漬けが一体できていた。


「ルー、落ち着いて!もう氷漬けになってるし、聞こえてないから!このまま倒したら確実に粉々になって死んじゃうから!」


 どうにかルーを宥めることに成功した俺は、ここまで黙って聞いていたエリーにも詫びた。


「すみません、エリーさん。ムジナをこんな目に合わせてしまって。」


「いいのよ~。アーサー君が謝ることないわ。デリカシーのないこの人が悪いのよ~。あとで調教が必要みたいね。ルーテシアちゃん、ごめんなさいね。」


 般若様がいた。ムジナよ、冥福を祈る。


「ここは賑やかですね!ルーテシア様は実は特殊な形で封印されていたので、時の流れが違うようです。記録より若返ってますし。あ、ここまでの事、他言無用でお願いしますね。」


「そういえば、王城でどんな話をするつもりなんですかね?」


 口の軽い聖騎士隊長に、ステーキとお酒を勧めながら探りを入れてみる。


「詳しくは分かりませんが、過去の研究の話とこれまでの研究でルーテシア様に関する重大な事が判明したらしく、それについてだと思われます。ルーテシア様の身にも何か起こるかもしれませんので、私としても話をしていただきたいのです。一ファンとして!この身に代えても御守りしますので、是非!」


 一ファンとして。そんな気はしていたよ。むしろ熱狂的なんじゃないだろうか。こんなに欲に忠実な隊長で王国は大丈夫か?


「少し落ち着いてもらえるかしら。顔が近いし、鼻息が当たってる。さすがにヒクわ。」


 しかめっ面のルーに我に帰ったセフィリアは平謝りをしている。すると、こちらに視線を移したルーは俺にどうするか問いかけた。


「そうだなぁ。行った方がいいかもな。やっぱりルーの重大な事なんて言われたら、聞かないわけにはいかないよ。国をあげて調べてるなんて、予想以上の事がルーと関わってるんじゃないか?いざとなってもセフィリアさんは守ってくれるだろうし。昔も悪い目にあったわけじゃないんだよな?」


「アーサーがそう言うんならそうしようかしら。でも話が済んだらすぐ帰るわよ?いいわね、セフィリアさん。」


「構いません。あと私のことは是非セフィリア、とお呼び下さい!」


 ルーは顔を手で押さえながら、処置なし、といった風に呼び捨てにすることを承諾した。





「ところで先程から気になっていたのですが、アーサー殿とルーテシア様はどういったご関係で?」


 ついに来てしまったこの質問。この人の性格を見る限り、答えによっては俺の人生という旅はここで終えるかもしれない。主に死的な意味で。


「少し前に仲良くなった友達で──」

「夫婦に決まってるじゃない。見て分からないのかしら。」


 ルーならば百パーセント読めているだろうこの状況で、お構いなしに爆弾が投下された。


「アーサー殿………一つお聞きしたい。」


 セフィリア隊長は肩をワナワナ震わせている。聖騎士というより、もはやルーの親衛隊隊長なんじゃなかろうか。


「フルネームは?」


「一応、アーサー・バレンタイン………です。」


 セフィリアが、ゴフッ、と吐血する。顔をあげて再度問うセフィリア。


「弟………いえ、子孫などの血縁関係でしょうか?」


「………いえ………数ヶ月前に会ったばかり………です。」


 両者まさに苦笑である。血で血を洗う戦いのようだ。俺はどこか死の宣告を受けて、断頭台に一段一段上がっている気分で答えていた。

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