21 突然の来訪者
ドアを開けると、そこには一人の女性の姿。紺色のスカートからスラリと伸びた白い脚、細くくびれた腰、銀の胸当てを付け、軽くウェーブのかかった金の髪はサイドでゆるくまとめられ肩にかかっている。
見覚えのある顔。セフィリア・グローシャー。
試合の時とは全然印象が異なる。試合中が騎士道一筋のクールビューティーなら、今の姿は可憐な女性といった感じだろうか。
「夜分遅くに申し訳ない。こちらにルーテシア様は居られるだろうか。こちらに居るかもという情報をお聞きしまして。私はセフィリア・グローシャーと申す者です。」
「ルーテシアに何の用だ。たしかに知り合いだが、そうほいほい知らないヤツに会わせるのもどうかと思うからな。」
ムジナは夜遅くの来訪者、しかもそれほど知り合いもいないはずのルーテシアを訪ねて来る者を警戒していた。
「私はアルハザルド王国聖騎士隊長を務めています。今回は国家機密に関わる内容でお話に来ました。手荒な真似などはこの名に誓って致しませんのでご安心下さい。」
セフィリアがそう告げると、ムジナは驚きに目を少し開くが、敵意などない様子なこともあって中へ招き入れた。
「こちらにいらっしゃいましたか。ルーテシア・バレンタイン様。御初御目にかかります。私はセフィリア・グローシャーと申します。」
「試合見ていたわ。私に何の用?」
「王国の封印管理局よりルーテシア様の封印が解かれたとの知らせが入りまして、その確認と、王城にて少しお話をさせていただきたいというお願いに参った次第でございます。」
「え、嫌だけど。」
即答だった。
「では明日………って、ええっ!?何故です!やっぱり私が恐いからですか?話し方も威圧感を受けるとかよく言われますし、友達も少ないですし………」
「めんどくさいから。」
「えっ………めんど………そ、そうですか。ですが、私も、そうですね!なんて言って諦めてたらクビになってしまいそうです。武術祭にも出てしまいましたし………。では、明日また出直します。」
困惑気味のセフィリアは考えた挙げ句、出直すことにしたようだ。が、そんな彼女をムジナが引き留めた。
「まあ待て。とりあえず食って行かねえか?悪い奴じゃなさそうだし、折角の優勝者様のご来訪だ!メシも余ってるし美人は多い方が楽しいからな。」
「………分かった。では主人、世話になる。」
セフィリアは礼をするとともに、席へと着いた。料理に釘付けになる視線。そして、彼女の口元からは一筋の雫。
俺はこの時点で確信した。
(この人、絶対に残念美人?というかギャップ系だよな。)
出来る女に見えてどこか抜けてる。美人だけど他所の家の食事で涎垂らす。武術祭も私的に出ていたように聞こえる。どこか理性の隙間から本能が顔を出しているような雰囲気だ。
(極めつけは、機密と言いながらもルーの封印の事をいきなり暴露していることだろうな。それでムジナは引き留めたのかな?うーん、これって知られて大丈夫なのか?まあ、この一家なら知るのも時間の問題かもな。)
「さあさあ、遠慮せずに食べろよ。」
「そ、そうか。では、いただくとしよう!」
食欲に勝てなかったように、遠慮なくロブスターを取り始めたセフィリア。それを見たムジナがニヤリと笑ったのを俺は知っている。
「優勝おめでとうございます、セフィリアさん。俺はアーサーと言います。一つ知りたいんですが、決勝の最後、あれってどうやって勝ったんですか?」
「あれですか。あれは私の特殊スキル、完全なる反撃──パーフェクトカウンターです。アーティファクトの力を使うことで可能になるスキルですね。」
「アーティファクト持ちなんですか!凄いですね!どんなアーティファクトなんですか?」
「鑑定では宝玉みたいでしたね。名を『絶対領域』と言います。これによって私は領域内のマナを操作できます。なので相手のマナを乱すことも可能です。」
「そんな事が可能なんですか!でも、そんな事簡単に漏らしてよかったんですか?」
「あっ………えっと、今のは嘘です。」
口に入れようとしていたソーセージが落ちる。あっ、て言っちゃダメだろ。ルーはギルド受付のエルフ姉さんに売りつけそうだな。
「あー、じゃあ嘘ってことで大丈夫です………。なんで武術祭に出てたんですか?」
「ルーテシア様の情報を探していたら、このような催しがあると耳に入り、まずは人の集まるところからと思いまして。それに強い者もいるでしょうし………」
やっぱり後者が本音なんだろうな。すると、ムジナが話題を変えた。
「ところでなんでルーテシアを呼んでるんだ?」
「ルーテシア様は200年前とある理由で封印された漆黒の大賢者様なのです。」
あーあ、言っちゃったよ、この人。国家機密はどうした。
俺はムジナの反応を見る。
「し、漆黒の大賢者………だと!?」
「またの名を、絶世のアイドル、と言います。」
顎が外れそうになっていた。




