20 武術祭 ──終幕──
セフィリアとガディウス。二人が激突する。
「では、いくぞ。」
そう言うと、セフィリアの乱舞がガディウスを覆い尽くす。先程と同じく防御に徹するガディウスだが、その守りも徐々に崩れていく。
「ふん、やっぱそうか。たしかに一段強くなったが、対応できない程じゃあねえはず。ならなんで俺の守りを突破できるのか。それはテメェが俺のマナに干渉して乱しているからだ。つまり、彼我の発揮できる能力差が生み出す絶対的優位、それがお前のスキルの正体だ。」
「ほぉ、ご明察の通りだ。だが、理解は出来ても現状を打開することは出来まい!どうする?」
そう。セフィリアは相手のマナを乱す事で、相手が行うブースト機能を阻害していた。この世界に来たばかりのアーサーがそうであったように、自在にマナが使えることは大きな差を生むことになる。
「なら、手段は一つだな。………ハアァーッ!!」
ガディウスは体内でマナを凝縮し始める。ただのブーストとは異なるそれは、やがて紅い稲妻が迸る鎧のように彼の全身を覆う。
スキル『竜闘気』。普通では扱えない大気のマナまでも体内で圧縮しその身に纏った、高密度のマナの鎧。彼はブースト機能であるマナ操作をスキルの域にまで昇華させていた。
「邪魔されねぇよう、ゴリ押しするだけだ!」
「ふふ、そんな手で来るか!貴様も大概変わったことをする。予想以上、最高だよ。それでは、早速試させてもらうぞっ!」
両者の姿がぶれる。今のガディウスには視えた。彼女の周囲の空間をマナの膜が囲っている。結界であるかのように。
その結界へ一歩踏み込むガディウスは竜闘気が分解されていくのを感じる。だが、それでも互角以上に闘えている。
(こりゃ、ヤベェかもしれん。一気に行くか。)
相手に幾らか当てているが、長引く程に此方が不利になるのは目に見えている。
ガディウスはセフィリアの剣を弾くと同時に後ろへ飛ぶ。そして、納刀された鞘にマナが収束する。
「そろそろ終わりにするぜ。この状態だと加減は出来ねえ。死ぬなよ!」
「そう来なくては!アルハザルド王国聖騎士隊長、セフィリア・グローシャー、参るっ!」
静まる会場。静寂の中、二人が動き出す。急接近と同時にガディウスが腰を捻り振り抜いた刀は、一回戦で見せたものと異なり、竜闘気と相まって真紅の輝きを纏っている。放たれた技は『五閃』。五条の紅い光が彼女を貫く。そして、真っ向から挑んだセフィリアが壁まで吹き飛んだ。
結果、闘技場の中央に残されたのはガディウスだった。だが………
「アーティファクトの力………特殊スキルかよ。ぐはっ。」
その場に倒れこむガディウス。その胸には十字を切るように五つのアザが刻まれていた。
そして、崩れた壁から起き上がる影。
「勝者、セフィリアーーーッ!」
勝者が宣言された。
「これを使わされるとはな。有意義な時間だったぞ。」
こうして、武術祭はセフィリアの優勝で終幕を迎えることとなった。
日が沈み始め、街が赤く染まり始める頃、俺達はアイリをムジナ家に送って行くところだった。ふと、前を歩く一人の青年を見つける。
「やあ、アレクセイ!今日は残念だったな。体調でも悪かった?」
「あぁ、アーサーにルーテシア。えっと、そちらのお嬢さんは?」
「アイリだよ!7歳っ!」
「このゲスロリ。もう目を付けたの?」
意気消沈気味のアレクセイとは対照的に、アイリは元気よく自己紹介する。ルーはいつも通り罵倒という名の挨拶をしている。
「相変わらずひどいな、ルーテシア。こんにちは、アイリちゃん。今日はみっともない試合を見せてしまったね。実は………」
話は何の事もなかった。結果として実力差はあったが、それ以上に女性相手に闘うのが無理なだけだったようだ。まあ、気持ちは分かるが………。
少し話して別れた後、ムジナの家で夕食を頂くことになった。大繁盛だったのか、ステーキやらロブスターやら、やたら豪勢な夕食が準備されていた。
そんな楽しい食事中、コンコン、と戸を叩く音が響いた。
そこに居たのは、今大会優勝者、セフィリア・グローシャーだった。