19 武術祭 ──剣の境地──
マルタス生誕祭二日目。噂が噂を呼び、アーサーカンパニーの商品が予想以上の集客力を発揮したため、エリーは接客で手が離せなくなっていた。なので、俺とルーはアイリを連れて三人で武術祭を見に来ていた。
「あ、リリアちゃーん!」
「あ、アイリちゃんも来てたんだ!あれっ?なんかご両親若返ってない?」
ルーは家族にみられたことがちょっと嬉しそうである。
リリアはこちらを見て首を傾げている。そして、ハッとした顔をする。
「まさか………誘拐、なの!?」
「なんでやねん!お約束かっ!」
俺はリリアにきちんとツッコミをいれてあげる。
「あ、なんだ、お兄さんだったのか。全然分かんなかったよー。」
ニシシシッと笑うリリア。彼女はアイリの友達で特訓期間中に遊んだ仲間だった。ちなみにルーの顔もすでに知っているはずである。
「ツッコミで判断すんな。誰がモブ兄さんだよ!気配も消してないし、影薄くて誰か分かんないなんて言わせないよ?」
アイリもリリアも爆笑している。そんな時、リリアの両親が笑顔を向けてやってきた。
「こんにちは、おじさん、おばさん。」
「アーサー君、久しぶりだな。アイリちゃんもルーテシアちゃんも。ますます美人になったんじゃないか?」
「ええ、そうなの。でも、誉めても何も出ないわよ?」
「はは、相変わらずオジサン世代には冷たい対応だな。でも、そこがまた………」
リリアの父親は奥さんから刺すような視線を受け、冷や汗を流して黙りこんでしまった。ドンマイ。
「そういえば、あの脱水機、素晴らしいわね!エリーに勧められて使ったけど、最高よ!あれ、アーサー君が考えたっていうじゃない?他にもあるの?」
そんな風に、新作の話や世間話をしてリリア一家と別れることとなった。
数分後、準決勝が始まろうとしていた。
「皆さま、大変お待たせしております。ここで、重大なお知らせがあります。予定していた第1試合、謎の老人ファンキータオピーvsドラゴン狩りガディウスですが、ファンキータオピーが高齢のため体調不良ということで辞退となりました。よって本日は準決勝、決勝の2試合のみとさせていただきます。」
会場がざわつく。たしかにあの老人は凄かったから、もう一度見たかったけどな。ポックリ逝かれても困るってのもあるから仕方ないかもな。
そうして観客の不満が飛び交う中、開始した準決勝。対戦カードは女剣士セフィリアと大剣のアレクセイ。前日の闘いぶりからこの試合も白熱するものと皆が期待した。
しかし、結果はセフィリアが一方的に押す展開となる。アレクセイはどことなく集中できていないような動きで、前の試合と比べると明らかに精彩を欠いていた。ついには、彼の大剣が打ち払われると同時に彼の手を離れ、決着となった。
「もう少しやるものだと思ったのだがな。貴様、昨日の試合で臆病にでもなったか?目障りだ。消えろ。」
蔑むような視線を受け、アレクセイはとぼとぼと舞台を後にした。何とも言えない後味の準決勝となった。
会場の熱が下がりつつある中、セフィリアは司会の方へと進み、マイクのような魔道具を奪う。
「客席の皆様、先の試合はあまり楽しめなかったことでしょう。ですが、ご安心を。次の決勝戦、剣の境地を堪能させて差し上げますので、是非とも御期待を。」
そのまま出場者入口に目を向けて、言葉を続ける。
「そのくらいは出来るのだろう?ドラゴン狩りよ。」
会場の視線が一点に集まる。いつからいたのか、そこには、壁に背を預けて佇むガディウスの姿があった。不敵な笑みのセフィリアから放られたマイク型魔道具を受け取る。
「わざわざ空気温めてんのか、俺を煽ってんのか。お前も面白ぇなぁ。いいぜぇ。剣の境地見せてやろうかねぇ!」
ガディウスも気合十分。観客のボルテージも最高潮となり、熱をそのままに決勝戦の開幕と相成った。
「ドラゴンを狩る居合いマスター、ガディウスvs空間の支配者、セフィリア。決勝戦、開始!」
ゴォーーーン!
銅鑼の音とともに一気に二人の距離がなくなる。と同時に、ぶつかる互いの得物の長さだけが二人に距離を残している。
激しい剣戟が起こるが、まずは様子見なのか、高水準でありながらも両者は互いの振るう剣を見極め、余裕で難なくかわしている。
セフィリアの口角がニッと上がる。
その瞬間、彼女の速度が増した。いや、増したのは速度だけでない。力もだ。流れるような連撃が防御を崩す。ついには、ガディウスは最後の凪ぎ払いの一撃により、地を這うように吹き飛ばされた。
客席から大歓声が巻き起こる。相手に有無を言わせぬ剣舞。これこそが彼女に異名を与えることになった動きである。
ガディウスはムクリと立ち上がるが、所々に傷が目立っている。
「今のが一回戦で見せたやつか。ただ一段ギアを上げただけじゃねぇ。お前、変わったことしやがるなぁ。そんなことできる奴がいるとは思わなかったぜ。だが、もう種分かった!」
「ほぅ、一度受けて理解できたか。面白い。ならば正解かどうか答え合わせといこうか!」
再び、両者が相見えることとなった。