表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/126

18 歯車の序曲

「アレクセイって強かったんだな。」


 俺だったら、あんな風には立ち回れないだろうな。仮に、俺にアレクセイと同じ力量があったとしても、たぶん気持ちで負けている。彼の闘いには、負けられない何かを背負っているような、そんな気迫があった………気がする。


「アーサーの方がかっこいいよ?」


 ルーは白い濃厚そうなジュースを啜りながら、そんなことを言う。


「なぁ、ずっと気になってたんだが………一つ聞いてもいいかな?」


「え、何?なんでそんなに可愛いのか?そんなの、アーサーが隣にいるからに決まってるじゃん。女は好きな人がいれば日々綺麗になっていくのよ。」


「はいはい、そんなこと誰も聞いてないからね!俺が聞きたいのは………」


 視線を落とし、ルーの胸………の前の手に持ったそれに目をやる。


「試合中ずっと飲んでた、その白い液体………何?」


 ビクッと肩を震わすルー。


「………言わなきゃ、ダメ?」


 瞳をウルウルさせながら上目遣いでこちらを見る。うっ、ちょっと可愛い。


「ダメだ。まさか、お前、それって………。」


 コクリ。

 ルーが首肯した。


「そんな………いつの間に。しかもその色の濃さ、飲んで平気なのか?」


「美味しいよ!ちょっと喉に残るけど。前世のアーサーを見てる時に、テレビなんかでも女の子が美味しいよって言ってよく飲んでたし。ずっと私も飲んでみたかったのっ!」


 そんなに飲みたかったのか。まあ、俺に言われても正直困るのも事実だから仕方ないが………。


「でもな、ルー。一つ訂正しておく。原液で飲むもんじゃないぞ、カルピスは!」


「いいのっ!濃い方が美味しいのっ!」


 どうやら封印中に、前世のカルピスのCMに惹かれて独自に調べ上げたらしい。そして、最近になって今がチャンスとばかりに自作したのが、先程から彼女が飲んでいるものである。


(まったく、これだから天才は。)


 そんなやりとりをしている俺達は知らなかった。すでに運命の歯車が動き始めていることを。




 武術祭は二日で構成されており、翌日に準決勝である二回戦、そして決勝が行われる。

 その夜、とある宿の一室にて。


「最後まで出なくていいの?」


「あぁ、魂の波動は確認したからの。老人はもっと労らんといかんぞ?」


 手にした盃を傾けながら、少年へと答えを返す。


「へぇー。ほんとにいたんだ、破滅の巫女。じゃあ、わざわざ老体に鞭うって大会に出た甲斐はあったね。」


「ふん、何処がじゃ!よくよく考えてみれば観客席でも十分じゃろが。どうせ、お主の遊びに付き合わされただけじゃろ?」


「い、いやだなぁ。爺ちゃん、誤解だよ。あわよくば、変態仙人と闘えたらなぁなんて思ってないよ?僕はただ純粋に任務を果たそうとして──」


「はぁ。もういいわい。ワシも久々に将来有望な若者を見れたしのぉ。」


 老人は思い出す。ドラゴン狩りの異名を持つ男を。凛とした立ち振舞いの女剣士を。そして、あの中では頭一つ抜きん出たその二人が、決勝の舞台で対峙するであろう、と。


(まだまだヒヨッコじゃがの。)


「有望?それって僕のことだよね!」


 少年はニコニコと自身を指差す。そんな少年に対し、老人は溜め息をついて呆れたように返す。


「たわけ。お主は将来有望でも、若者でもなかろうが。」


「あはっ、そうだった。でも心はいつまでも少年のままだよ?じゃあ、僕もそろそろ行こうかな!」


 少年は席を立ちドアの前で立ち止まると、首だけ捻り一言残して姿を消した。


 次は破滅の舞台でお会いしましょう 、と。



 残った老人は空いた盃に酒を注ぎ、いつの間にか少年が置いていった手紙を手に取り、目を通す。


『PS、その名前センスないです。』


「ふん、ワシのは本名じゃ!お主の『プルリンコ・ムサシ』の方がよっぽど問題じゃわい。」


 夜が更けていく。

 翌朝、宿の一室に老人の姿はなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ