17 武術祭 ──大剣使いの意地──
「第3試合、開始!」
ゴォーーーン!
第3試合は拳闘士と女性の剣士だった。
拳闘士の方は両手に手甲をつけ、軽い足運びで構えをとっている。かなりの身軽さがありそうで、スピードタイプのようだ。
一方の女剣士はというと、抜いた剣を正眼に構えている。その姿は淀みがなく、観ているだけでその強さに信頼が持てるようだった。
結果は、女剣士の勝利だった。彼女は攻守ともに安定した立ち回りにより、拳闘士の連打やトリッキーな足技も余裕を持って受け流していた。
そして、ウォームアップが終わったのか、ギアが一段階上がったかのように、彼女の動きが変わった。パワー、速度が上がり、足運びに自由度が増す。リングの上はまるで彼女の空間かと思わせるほど、戦況を支配していた。
拳闘士は攻めようにもなす術なく、力量の差をまざまざと見せつけられ、戦意を失って敗北を宣言した。
「精進せよ。」
そう言い残して、女剣士は去っていった。
「なあ、ルー。この世界の人達って皆こんなに強いの?」
隣で謎の白いジュースをストローで吸い上げているルーに尋ねた。
「分かんなーい。だって私、籠の中の鳥だったんだもん。」
(あっ。たしかに幼い頃からアイドルと研究者じゃ、あまり社会のことなんて知る機会ないよな。テレビもないんだし。)
「ごめん。配慮が足りなかった!」
ルーは「そんなに気を遣わないで」と気にしていない様子だった。
「でも、たぶんこの世界でも上位の実力者じゃないかな。中でも最初のお爺さんはズバ抜けているわね!私でも何をしたか視えなかったもん。」
この闘いは、どうやらこの世界でもハイレベルなようだ。これがもし一般レベルだったら、俺はアーサーカンパニーで頑張るしかなくなるぞ。
そんなこんなで第4試合。
今度は2本の小太刀を腰に提げた14歳くらいの少年。身体はそれほど大きくない。対する青年は背も高く大剣を背負っている。対極的な組み合わせとなった。
開始の銅鑼が鳴る。
少年はニコニコして殺気は微塵も感じられない。その上、構えすらとっていない。
青年はわずかに怪訝な顔をしつつも、金色の髪を靡かせながら、大剣の切っ先を一歩下がった右足の隣に来るように構える。
青年には、この少年の攻め方が分からなかった。普段であれば、相手の放つ気配、構え、重心の置き方などの情報から、自分の攻め方、守り方が弾き出される。
しかし、この少年は違った。
その全てがない。
その結果、青年のとった構えは、陽の構えと呼ばれるもの。無防備に前に出た左半身を囮に相手を誘い出す構え。
「へぇー、お兄さん結構やるねー!これなら少しは期待できるか………なっ!」
少年は助走もなしに間合いへと飛び込んだ。狙いは最も前に出た左肩。2本の小太刀が凄まじい速さで迫る。が、青年も予期した通りに大剣で凪ぎ払う。ぶつかり合う2本と1本。耳をつんざく甲高い音が響く。
力に負け、そのまま相手の後方に飛んだ少年は着地と同時に背中へ二太刀入れる。
真剣であれば、終わっていたかもしれない。その事実に、青年は怒りを覚える。それは自分の弱さに向けてのものだった。
「まだまだだなぁ!俺はもっと強く、有名にならなくちゃなんないんだよっ!」
青年は上段に大剣を構え、少年の間合いへと一気に踏み込む。両者の間に巻き起こる剣撃の嵐。力と速さ。手数で圧倒する少年の方が押して見えるが、大剣を受けるその衝撃は計り知れない。
すると、次の瞬間、少年が視界から消えた。
気づけば背後に回られており、腕目掛けて2本の小太刀を振り抜いている。
(終わった。)
青年は負けを確信することとなった。
「この勝負僕の負けだねー。」
青年は顔を上げ、振り返る。そこには大剣の衝撃に耐えきれず、途中で刃を失った2本が握られていた。
「まあまあ楽しかったよ。でも、もっと上手くなった方がいいよ?」
少年はニコニコしながら舞台を降りる。
残されたホロボロの青年は、一人呟く。
「ったく、どっちが勝者なんだか。」
第4試合の勝者が宣言される。
「勝者、アレクセイ・ロドリゲス!」
一回戦の勝者が出揃う事となる。