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15 マルタス生誕祭

 あれから数ヵ月。俺はギルドの依頼をこなしつつ、修行をつけてもらっていた。ルーが得意なのは魔法なので、剣の使い方は別の人物だ。


「アーサー君!もっと力を抜いて!余計な力みはかえって動きを鈍らせるわよ!」


 先生役はなんとエリーであった。

 彼女はそこそこ名を馳せた元剣士であり、鍛治師のムジナに惹かれて今に至ったそうだ。


 そんな俺達は、依頼報酬や新商品の売上げによりお金も貯まってきたことだし、いつまでもムジナ家に厄介になるのも悪いと、近くに家を借りた。二人で住むなら調度良い程度の家だ。


 そんな日々を送っていた。




 今日のこの街、マルタスは賑わっていた。貿易都市であるこの街は常に人と物で溢れているのだが、今日はまた違った。


「マルタス生誕際?」


「この街ができた日を祝うんだ。行商や武術祭も催してるから、いろいろ見て回るといいさ!」


 そんなムジナの説明を受けた俺達は、二人で見て回ることにした。



「えへへ、デートだね!」


 腕を組んでくるルーはご機嫌である。


「ああ、いつも通りな。」

「もぉ、そんなこと言わないでよ。」


 露店には普段見ないアクセサリー類や料理を出す店、武器や防具を売っている店もあった。


(おっ、これは………)


 ルーが焼き鳥?を買いに行って離れた隙に、俺はこっそりルーへのプレゼントを買っておいた。


 その後は武術祭が始まる時間になったので、移動することにした。

 会場は古代ローマのコロッセオのような円形の造りをしている。入り口は凄い人だかりで、入るだけでも一苦労なのが目に見える。我慢して並んだ長蛇の列もようやく終わりを迎え、どうにか客席にたどり着いたが、辺りは一面、人で埋め尽くされていた。


 空いている席を見つけた俺達はパンフレットを見る。対戦表によると、予選を勝ち抜いた八名が、トーナメント戦で戦うようだ。ルールは、物理戦闘を基本とし、魔法の使用は一切を禁止するが、魔法系以外のスキルは可だそうだ。また、相手を死に至らしめる行為を禁止とし、武具は刃を潰した物を使用する、と書いていた。ちなみに回復魔法の使い手が常駐しており、よっぽどの重体でない限りは対処できるそうだ。



「なるほど、ホントに武術の祭典って感じだな。でもスキルって何があるんだろう? 」


「剣技なんかもそうだし、気功術なんてものも聞いたことあるわ。魔力系のはたぶん、魔力眼とか、呪言とかじゃないかな。」


「へぇー、なんか強そうだな。」


「スキルは高等技術だからね。仕組みは体内のマナの応用技術よ。」


 たしかマナは、この星のエネルギーみたいなもので、この世界の人はアイリのように無意識でブーストみたいに使える。魔力系スキルは別物である魔力とマナを融合もしくは複合して使う技術なのかな、と俺はあたりをつけた。


 そんなことを考えているうちに、闘技場に今日の主役である、八名の選手が姿をみせた。会場に歓声が巻き起こり、主催者やマルタス都市長の挨拶が始まる。


 そうして、武術祭が始まった。




 第一試合は、棒術使いの男と素手の老人。


「おいおい、あんな爺さん出して大丈夫かよ。一発入っただけでもヤバいだろ!」


 観客の誰もが口々にそう声に出す。


「第一試合、開始!」


 ゴォーーン!

 開始の銅鑼が鳴るとともに、地面に倒れる棒使い。そして、そのまま動かなかった。

 静まる会場。鐘の音だけが響く中、司会のもとに老人が歩み寄る。それまで老人は誰の目にも、一動作も動いていなかった。


「終わったんじゃが。行ってもええかの?」


 慌てた司会者は、棒使いを確認する。どうやら気絶のようだ。そして、


「勝者、ファンキータオピー!」


 老人の勝利を宣言した。


「にしても、凄すぎて意味分かんなかったな。」


「まったくよ。私の叡知の書をもってしても、何を考えてその名前をつけたのか、理解不能だわ。」


「だよな………て、えっ、そこ!?」


 ルーの興味は俺とはズレていた。




 舞台裏にて。


「よぉ、爺さん。試合お疲れさん。あんた、何者だ?」


 がたいのいい男が声をかける。


「疲れるもんか。歩く体力の方がもったいなかったわい。そういうあんたは何者かね。」


「俺はただの冒険者さ。ドラゴン狩りなんて巷じゃ呼ばれてるがな。」


 老人は感心したような顔をした。


「ほう、お主があのクリムゾンクローのドラゴン狩りか!長生きはしてみるもんじゃの。」


「へぇ、知ってるのか。そりゃあ光栄だな。………で、そんな俺が、アンタみたいな達人見たことないって話なんだが?」


 男は少し怒気をのせ、言葉を返した。


「ま、知らんでええこともあるわい。命大事にじゃな。」


 そう言うと、老人は男の肩をポンと叩き、手を上げて奥の控え室へと消えていった。


「ちっ、食えねえ爺さんだ。こっちの誘いに乗ってきやしねぇ。」


 飄々と男の言をかわす老人に対して、男は若干の苛立ちを感じつつも、何も起こらなかった事に安堵した。

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