14 帰宅後の一幕
依頼を終えた俺達は、ムジナ家に帰宅した。
「お帰りー!」
出迎えてくれたのはアイリ。薄いオレンジ髪が似合う活発な少女だ。
「エリーさんは?」
「ママはねー、ずっと考え中ー!」
………えっ。
「ずっとって………いつから?」
「アーサーお兄ちゃん達出てからー。」
俺はリビングに駆け込む。そこには、何枚もの紙を撒き散らし、頬杖をつくエリーの姿があった。
「ちょっとエリーさん、もう夕方ですよ?」
「あら、アーサー君………えっ、もうこんな時間なの!ああ、今日何もやってないわ!早く夕食の準備もしなきゃ!」
どうやら没頭してしまったらしい。とりあえずルーとともに洗濯や片付けなどをした。
「ゴメンね。今日は初依頼達成の御馳走にしようと思ってたのに、こんなのになっちゃって。」
ハンバーグ、ポテトサラダ、パン、トマトスープ。まあ、有り合わせで作ったにしては十分な気も………。
「エリーさんの料理は美味しいから、これも御馳走ですけどね!」
「うん、エリーの料理は格別よ。高級店にひけをとらないわ。ね、アイリ!」
「ママの料理、最高だよー!」
「そう言ってくれると、お世辞でも嬉しいわ。」
俺とルーが持ち上げると、エリーは反省しつつも素直に喜んだ。
「で、半日考えて何か思いついたのか?」
ムジナが問いかけた。エリーはこちらを見て、不安げに紙束を渡してくる。そこには仕組みなどは分からないが、こんなことができればいいという願望が書かれていた。だが、軽く目を通して見ても、俺の知識にあるものも多く目立つ。発想が豊かだな。
「実現可能なものも結構ありますね。現段階では無理な物もありますが、いいんじゃないですか?例えば、この衣類のシワ伸ばしなんかも出来ますね。安全面が難しいですが。あとは肉類の長期保存も可能性は高いですね。」
シワはアイロンの原理で大丈夫。保存も冷凍庫で大丈夫だ。あとはルーが魔法石を調整可能かが問題かな。
こうしてエリー没頭事件は幕を下ろした。
***
夜も更けて、寝所にて。
カチャ、ギィー………。
ドアの開く音がする。
入ってきたのはルー。胸元の開いた、薄いサテン地の黒いワンピースを身につけていた。ネグリジェというやつだろうか。
「アーサー、こんな私………どうかな。」
月明かりに照らされて、銀の髪が光を纏い、さらされた白い肌が黒の薄布によりコントラストを生む。青く透き通った両の眼は、俺の心を強く掴み、奥深くへと誘う。
「綺麗だよ、ルー。」
「ありがと。大好きだよ、アーサー。」
「俺も大好きだよ。ルー。」
二人の距離はやがてゼロになり、触れあう唇。
気持ちの高鳴りとともに、夜が深みを増していった。
「………くぅー!こんなの出来ないわよ!エリーはあんなこと言ってたけど、無理無理無理ーっ!!」
シャワーを浴びた後の更衣室で一人呟きながら、ブンブンブンと左右に頭を振って妄想を霧散させるルー。顔が真っ赤なのは、シャワーの後だからというだけではないようだ。
手に持ったのは肌触りの良い黒のネグリジェ。これは先日の護衛の際向かった街で買って来たものである。
というのも、初めてムジナ家に来た時、部屋へと案内したエリーに言われたのである。
「ルーテシアちゃん、アーサー君とはまだ距離があるんじゃないの?」
「うっ、そんなこと………」
「いい?女も待ってるだけじゃダメなのよ!狩りは準備とタイミング!どうせならセクシーな衣装で誘惑してみるなんてどうかしら?」
「えっ、………は、恥ずかしいし」
「そこがまた男心をくすぐるのよ!ファイトよ!」
「は、はい………。」
溜め息をつきながら、黒ではない、いつもの寝巻きに袖を通す。
「アーサーも今日は疲れてるでしょうし、明日にしましょう。べつに引き延ばしてる訳じゃないわよ。」
自分に言い訳をするルーテシア。そういうことには奥手な彼女が、これを着る日はいつ来ることやら。