13 初依頼
「よおー、ルーじゃねぇか」
その言葉に振り向く。そこには18歳前後の男が手を上げていた。高身長で細身な見た目とは裏腹に、引き締まった体つきをしている。大剣を背負い、金色の長髪を棚引かせながら歩いて来る姿は、どこか英雄然としている。
「お前にルーと呼ぶ許可を出した覚えはないわ、アレクセイ・ロリデゲス。」
ルーは嫌悪感を露にして、その青年に言葉を返した。
「誰がロリデゲスだ!俺の名はロドリゲスだ!可愛い顔してホント毒吐くよな。」
どうやらこの青年、アレクセイ・ロドリゲスが正しい名前らしい。
「ルー、この人は?」
「ええ、先日の護衛依頼で一緒になった、ロリでゲスな男よ。」
「変な紹介はマジで止めろよ。誤解されっだろうが。少年、俺はアレクセイ・『ロドリゲス』だ。至って正常なイケメン剣士だ。」
「どうも。俺はアーサー・バレンタイン。ルーとともに旅しています。」
「よろしくな!じゃあ、お前がルーテシアの旦那ってことか。」
ん?どういうことだ?
「俺が初めにルーって呼んだ時に、ルーと呼んでいいのは私の旦那様だけよ!って凄い剣幕で睨まれてよ。どんなヤツが落としたのか、気になってたんだ。」
ルーの顔が少し紅潮している。
「大したことはなさそうで残念だったが。まあ、これも何かの縁だ。仲良くしてくれ!」
そう言うと、アレクセイはこちらに背を向け、手を上げて去っていった。
「アイツの事嫌ってるみたいだったけど、ルー、アイツに何かされたのか?」
「心配してくれるの?ありがとう。でも大丈夫よ!特に何もされてないわ。アレはちょっと頭が軽そうな人間だったから、少しいじってあげただけよ。喜んでいたでしょ?」
ブッーー!!
この特訓期間中に、俺だけでなく、どうやらルーもレベルアップしたようである。主にSっ気が。
まあ、いいや。………依頼、行こう。
俺達は当初の予定通り、薬草採取の依頼を受けることにした。街から出て森の方に行くと、良い群生地があるらしい。
一時間ほど歩き森に入ると、スライムと目があった。
大きさはハンドボールくらいである。
「ルー、特訓の成果見せてやるよ!」
「自信あるんだ。じゃあ、見せてもらおうかなっ!でも危なくなったら援護するからね。」
どうやらルーとしては期待半分、不安も半分のようだ。まあ、最初は為す術なくやられてたもんな。いきなり強くなってたら驚くだろうな。
俺はムジナの店で買った短剣を抜き、構える。剣より扱い易く、小回りも効くのが利点だ。
このスライムは以前のものよりも素早かった。一瞬ぶれて消えたように感じたところで、俺は腹に体当りを受けていた。だが、身体に纏ったマナのお陰で大したことはなかった。距離を開けつつ集中すると、相手の動きがよく分かった。
正面から来たところを避けるとともに、縦に一線。スライムは真っ二つになり、溶けていった。
ふっ、これが、鬼ごっこの力さ。
「アーサー、すごいわ!こんな短期間でマナを纏ってるなんて。しかも、今、武器にも纏わせていたでしょ?それ、応用技よ?本来なら私がここで使い方を教えるはずだったのになぁ~。本当に驚いたわ!」
「そう手離しに誉められると、ちょっと恥ずかしいです。」
「それだけアーサーが頑張ったって事だもん。照れない照れないっ!」
「そうかな。おう。んじゃ、先に行こうか。」
この辺りは狼や熊もいると聞く。俺は極力遭遇しないよう、気配を消した。
途端、ルーがピクッとして、こちらを見る。が、特に何も言わなかった。
そのまま進むと、薬草の群生地にたどり着いた。
薬草を袋に詰めていると、ルーがこちらを見て言った。
「アーサー、気配の消し方まで覚えたの?」
「ああ、子供たちと遊んでたら自然に、な。どうした?」
「いいえ、そんな事まで出来るなんて思ってもみなくて。………いえ、それ以上にとても高い水準で気配を消していたわ。隣にいても見失いそうになるくらいに。たぶんAランク付近の水準ね。」
そんなにか!Aランクといえば、エリート中のエリートだよな。道理でかくれんぼしても見つからないわけだ。
「さすが、隠しキャラ。」
「てい!」
チョップすると、ルーは頭を押さえて呻き声を上げている。口は災いの元である。
その後、幾度か戦闘をこなし、ギルドへと戻った。
かくして、俺達の初依頼、そして初勝利が達成されたのだった。