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最終話 真実の扉

 帰還には再生神の巫女は同行しなかった。やり残した事があると言い残し、一人姿を消した。


 彼女が向かった先、それは北のピラミッド。ケリアン・ブラッキオがいた場所だ。

 カグヤは中に入り、辺りを見回す。

 そこには様々な装置があり、まさに研究施設と呼べる代物だった。


 彼女はふと視界に捉えた。

 そこには以前来た時にはなかった骨の腕が培養液に保管されていた。

 それは、破滅神アラマの切り落とされた腕だった。

 おそらく彼が造った小型の人形が回収してきたのだろう。


 彼女は更に歩を進める。

 そして、一つの装置の前で立ち止まった。


「悪いわね。私もちょっと見てみたくなったの………新しい可能性とやらを。」


 彼女の独り言が無人の室内に響く。

 誰もいない。しかし、返事はあった。


「何しーに来たーのです?」


 声の主は目の前の培養装置の中にいた。

 それは人の形をしてはいない。脳だけがそこに保存されていた。


 ケリアン・ブラッキオは自身の造った装置と脳を連動させ、自分のクローンや人形を手足として動かしていた。

 自分が研究に没頭出来るように、安全に雑事を任せられるようにと彼が取ったのがこの方法だった。

 それが彼が神へと至るための道のはずだった。


「貴方をこのままにしておくのは、私の目的の障害となりうるの。残念だけど、ここでお別れね。」


 彼女はコードの一つを手に取った。


「おい!お前、何をする気だ!?まさか………。」


「あらあら?今までの喋り方と違うわよ?正直、あの変な口調は耳障りだったのよね。」


「ヤ、ヤメろぉぉォォーーーッ!!!」


 無情にも彼女は彼の叫びを無視し、手に取ったコードを切断した。装置の電源は完全にシャットダウンし、培養液は急激に濁っていった。断末魔が響くことはなく、狂科学者はこの世界から去ることとなった。



 再び世界樹へと戻った彼女は一人の老人の姿を見つける。


「あら、生きてたのね。満足出来たかしら?」


「ふん、全然足りんわい。破滅神は確かに強かったが、もっとこう、胸が熱く高鳴るもんがないといかんのじゃ!分かるじゃろ?」


「野蛮ね。そんな事して一体何が楽しいのかしら。理解に苦しむわ。………それで貴方はこれからどうするの?」


「さぁてのぉ。竜神にでも遊んでもらうかの。」


 目的は違えど、共に行動してきた同志が風来坊のように姿を消すのを彼女は静かに見送った。


「さて、私も行こうかしら。彼を返しに。」


 魔法陣が足元に煌めき、彼女は光と共に姿を消した。




 ***


 俺達は来た道を戻り、ゲートを潜り抜けた。


 途中、ナディアが目を覚まし、抱っこしていたクレイの頬を叩くなどの惨事もあったが、冷静さを取り戻し、クレイが助けてくれた事を知ると、ナディアは彼に一目惚れしてしまったようだ。


「クレイ様が私の英雄だったのですね!」


 お姫様抱っこで瞳を輝かせるナディアの姿は、まさにヒロインそのものだった。

 元々ナディアはそういう話に強く憧れていた。クレイは困った表情をしていたが、ナディアにとっては王国での花嫁修行が役に立ちそうで何よりだ。



 ゲートを抜け、ガイナスの地下に戻ってきた。

 全てが終わった事を告げると、皆、隣にいる者と抱き合い、歓喜の声がガイナスの地下から沸き上がった。

 それは瞬く間に地上へと伝わり、都市全土で空気が震えるような歓声が巻き起こった。


 そして、もう一つ嬉しい事があった。なんと死んだと思われていたラハートがガイナスの入口に横たわっていたのだ。一報を聞いたラナは直ぐ様駆けつけ、大粒の涙で彼の目覚めを祝福した。


 たしか彼の肉体はあの時、再生神の巫女とともに姿を消したはずだ。おそらく、これは彼女なりの粋な計らいというやつだろうな。



「よくぞ世界の危機を救ってくれた!本当に心から礼を言うぞ。」


 大臣のアーノルドの言葉に再び歓声が上がり、その後、王国では三国合同での宴が催されることとなった。転移魔法陣を通じて互いに知り合い、共に協力した事が種族の垣根を越えた絆を生み出したようだ。


 とまあ、その後もいろいろあったが、俺達は無事平穏な日々を取り戻していった。



 だが、俺には疑問に思うことが一つあった。


 運命神は何を望んでいたんだろう。

 彼が運命を定めているというのなら、破滅神が世界を滅ぼす事を望んでいたのだろうか。それとも俺が運命を乗り越えることを望んでいたのか。

 もしも、俺が運命を変えることを望んでいたのなら、運命神もまた、自分の運命に囚われた存在なのかもしれない。

 俺やソウマに希望を示して欲しかったのかもしれない。


「そんなの考えても無駄よ。だって知りようがないんだもん!………でも、もしそうなら、いつか救って差し上げたいわね。」


 ルーの言う通り、俺達が知る術はない。

 ただ、俺達に出来ることは、自分が描く未来を目指して日々を思うままに、真っ直ぐ生きることだと思う。

 それが俺の歩む道であり、俺が示した未来だ。




 ***


 それから数ヶ月後、皆それぞれの道を進んでいる。


 シルフィーナは天空へと戻り、ちょくちょく遊びにも来る。もちろんルーとは喧嘩ばかりだ。


 結婚ラッシュなんかもあった。なんと、クレイとナディア、ガディウスとセフィリアが結婚したのだ。ナディア、ガディウスがそれぞれ押しきった感じだ。


 クリシュトフはバレンタイン家に戻り、次期当主としての書類と格闘しているらしい。

 キリウとナインはまた当てのない旅をしているようだ。




 そして──


「お兄ちゃーーん!見ててーーっ!!」


 ──俺達はマルタスに戻ってきていた。


「アイリ、気をつけろよ?スライムは結構強いんだからな。」


 現在、俺はマルタスでギルドの依頼をこなしながら生活をしている。そして、今はアイリの冒険者デビュー戦だった。相手は俺が最初に痛い目に合わされた、あのスライムだ。


「ほぇー?どこがー?」


「………マジかぁ。」


 アイリは初めての戦闘にもかかわらず、スライムを圧倒していた。彼女はたぶん天才なんだ。うん。そうでないとなんか惨めな気持ちになってくる。


 依頼を終え、俺達は街に戻った。


「パパー、ママー!ただいまー!簡単だったよー!!」


「おぉ、アイリはママに似て天才だな!いずれはママみたいに十剣なんて言われるかもなっ!!」


 えぇ~………十剣って何?初耳なんだけど!エリーさん、そんなに凄い人だったのかよ。それなら以前からアイリのマナの使い方が上手かったことや戦闘センスが高いのも頷ける話だった。



 アイリを送り届け、俺は家に帰った。


「あなた、お帰りなさい。」


「ただいま、ルー。」


 俺達はマルタスに帰ってすぐに結婚した。今までと何も変わらないが、二人の間に確かな絆が深まった気がする。


 さて、何故俺がマルタスで冒険者として過ごしているかというと、ルーが普通の女の子になってしまったからだ。

 今までは普通じゃなかったのか、ということは置いといて、『叡知の書』を失い、ルーは大賢者としての力を失ったのだ。


 だが、ルーは諦めていなかった。俺にこの世界を見せるということを。再び、一緒にこの世界を旅するということを。


 彼女はいずれまた、豪快な魔法の嵐を見せてくれるだろう。


 俺達はまだ旅の真っ最中なのだ。




「………そういえば、ふと思い出したんだけど、俺の死の真相って何だったんだ?」


「フフッ、それはねぇ!………ひ、み、つ!」


 真相なんて、本当は何も無いんじゃないかと思う今日この頃。

 彼女は可愛らしく微笑んだ。




 ***


 アルハザルド王国王城の一室にて。


 チェス盤を挟んで二人の人物が椅子に座っていた。


「彼には会わなくていいのかい?」


 男は相手に話しかけながら、駒を動かす。


「結構です。もう私達は終わったのですから。」


 聞こえたのは女性の声だった。彼女は興味なさげに返事を返した。


「そうだよね、オーカ。私の指示とはいえ、まさか、自分が殺しました~とは言えないもんね。にしても、あの死に様には笑わせてもらったよ!」


 オーカは表情を変えることなく、ただ一言だけを告げた。


「………チェックメイトです。運命神様。」


「あれれ、怒ったのかい?それと、ここでは『アーノルド』だよ?誰がどこで聞いているか分からないからね。」


 遊び相手の役は終えたと言わんばかりに、彼女はそそくさと部屋から退出していった。


「今回は予想を遥かに上回る出来だったね。でも、ちょっと手を貸しすぎたかな?」


 アーノルドという名の運命神はワインの入ったグラスを手に取り、背持たれに背を預けて天井を見上げた。そこには真っ白な天井だけが存在していた。


「さて、次は誰の物語を始めようか………。」




 ──完──

アーサーの旅はまだまだ続いていきますが、物語はこれにて完結とさせて頂きます。


応援していただいた方々。楽しみにしてくださった読者の皆様。ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました!


もしよろしければ、気軽に感想など残して頂けたら嬉しいです。

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