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118 軌跡の果てに

 時が動き出す。


 俺はルーへと駆け出し、発動したエクスカリバーでルーを貫いた。


「アーサーッ!何をっ!!」


 セフィリアの叫びが聞こえる。

 糸が切れたようにルーは俺の胸へと倒れかかってきた。そんなに離れていた訳でもないのに、彼女に触れるのは随分と懐かしく感じられた。


 抱き抱えたルーをセフィリアに預ける。


「ルー………もう少し待っててくれなっ。全部終らせて皆で帰ろう!セフィリアさん、ルーをお願いします!」


「くっ……何故です!何故ルーテシアさんをっ!どうしてこんなマネをしたのですかっ!!………どうしてこんな………ッ!?これは!まさか………生き……てる!?」


 ルーは傷すら負っていなかった。俺はルーとアラマの繋がりを斬ったのだ。これでルーが操られる事はないはずだ。


 同様に、クーデリカの元へとマナを全開にして一気に跳躍した。瞬く間にクーデリカの傍へ現れた俺はそのまま光の剣を振り下ろした。


 しかし、その剣はすんでの所で白い無機質な手により受け止められてしまう。


「調子に乗るなよ?竜の小僧風情がっ!!」


 斬ったはずのアラマの右腕はすでに元通りに戻っていた。掴まれた光の剣が押し返される。直後、アラマを守るように、触れたものを塵に変える破滅の御手をクーデリカが振るってきた。

 後ろへ飛び退き、距離を開ける。


 厄介だ。アラマだけでも厳しいのに、操られたクーデリカにも細心の注意を払わなければならない。当たれば恐らく消滅は免れない。


「おめぇ、急にいい動きしてんじゃねぇか!」


 横からの声に振り向く。声をかけてきたのはガディウスだった。


「………まだまだ隙が多い。」


「ナインは人の事言える立場じゃねぇけどな!カカカッ!!」


「アーサー、無事だったのかい?」


「全くだ。ヒヤヒヤさせるな!」


「今の貴方からはとても心地よい風を感じます。何か吹っ切れたようですね!」


 クーデリカを抑えるために戦っていた皆が声をかけてくれた。状況はさほど変わっていないのだが、先程までとは違い、皆どこか光明を見出だしたような目をしている。


「終わらせよう。サポートを頼むっ!」


 頼りになる仲間に背を預け、俺はアラマに立ち向かった。



 アラマの放つ轟炎をシルフィーナが風の障壁で受け止める。

 激雷をクリシュトフの上級土魔法の盾が弾く。

 開いた道を迷うことなく俺は駆け抜けた。


 突如、闇の結界が俺達の周囲を覆った。


「ぐあぁーーっ!」


「そのまま永遠の眠りに就くがいい。」


 激痛が全身を駆け巡る。


 痛みを堪え、俺はエクスカリバーでその結界を斬り裂き、再び走り出す。

 立ち止まってなんかいられない!


 あと一歩という所で、視界に死を振り撒くクーデリカの手が割り込む。しかし、その手が俺に届くことはない。


「クーデリカはオレが止める。行け。」


 ナインが糸のような物でクーデリカの動きを封じ込めてくれた。


 道が開けた。


「チィッ!」


 アラマの指先から放たれたレーザーが頬を掠める。

 紙一重でかわした俺は一気に大地を踏みしめた。


「これでどうだぁぁーーーっ!!」


 俺の愛剣であるムジナの剣が紅い竜闘気を纏い、激しく弾けるような光を迸らせていく。これがアーティファクト『エクスカリバー』の真の力。その威力を何倍にも高める必殺の一撃だ。これならば神にも届く。届かせるっ!


 力の限りに振り下ろした。狙いは胸にある球体。恐らくあれが力の根源となる核だ。


 拮抗し合うかのように、火花を、互いのエネルギーを撒き散らす。

 あと少し。もう少しだ!

 核に亀裂が入っている。


 ガキンッ!という甲高い音と共に、その時は訪れた。


 肩を透かされたように急激に手応えを失った事から俺は理解した。


 それは、俺の剣が折れる音だった。

 剣の先は核にめり込んでいて、オレの手元にはなかった。

 ムジナの剣ではその威力に耐えきれなかったのだ。


 体勢を崩した俺に、チャンスとばかりにアラマの手刀が襲いかかる。


 両の頬を一瞬、風が通り抜けた。

 後ろから鎌と刀がよぎり、それらは目の前で交差するようにアラマの手刀を弾いた。


「ったく、見てらんねぇぜ!」


「だなっ!」


「キリウッ!ガディウスッ!」


 勢いをそのままに、二人は息の合ったコンビネーションで乱舞を巻き起こしていく。しかし、アラマにとっては邪魔な虫ケラでしかない様子だ。

 だが、その僅かな時間は再びチャンスを生み出した。


 俺の元に何かが飛来する。手に取ったそれは一本の古びた剣だった。


「アーサー!そいつを使えっ!」


 それはクレイから投げられた家宝の剣。以前、封印が解けなかった俺の剣だった。今ならこいつを鞘から抜くことができる。俺はそう直感した。


「邪魔だぁっ!!」


 アラマが腕を凪ぎ払う。

 二人は武器で受け止めるが、あまりの衝撃に地面を削りながら吹き飛ばされていく。


「ここだっ!」


 持てる力の全てを束を握る手に込める。鞘に備え付けられた宝玉に光が灯り、刀身が抜ける感覚が手に伝わってくる。

 鞘から覗く剣の根元から黄金の輝きが溢れ出す。


「悪あがきをっ!世界もろとろ滅べっ!『ワールド・エンドッ』!!」


 全てを破壊すると言わんばかりのエネルギーがアラマの両手に集約されていく。


「そんな事はさせない!この一撃に全てを込める!神剣、エクスカリバーーーッ!!」


 アラマの破滅の力と俺の全身全霊の一撃が、二人の間でギチギチとせめぎ合う。


「くっ、ぐぐっ………!」


 衝撃に耐えきれず腕から血が吹き出る。

 剣は届いていない。それどころか押し戻されつつある。

 神という名は伊達ではなく、ここまで来ても僅かに壁を乗り越えることはできなかった。


 だが、それは『俺が一人ならば』の話だ。

 俺には仲間がいる。


 一瞬、アラマの力が僅かに弱まった。


「アーサー……後はお願い……しま……す。」


 セフィリアが最大限の絶対領域を発動し、アラマのマナを抑えてくれた。全てのマナを絶対領域に費やしたセフィリアはそのまま意識を手放していった。

 だがそこまでしても、やはり人とは格が違う破滅神相手では一瞬しか抑えきることができなかった。しかし、一瞬だけ抑えてくれた。

 その一瞬が最大の援護だった。


「ハァァァッッ!!!」




 場が静寂に包まれる。


「………我を打ち倒すか。貴様は抗い、新たな運命を切り開いたのだな。」


 アラマの中心にある黒い球体は二分される形で砕けていた。


「アラマ………やっぱりお前のやり方は間違ってるよ。これは俺一人の力じゃない。皆がいたからお前に勝てたんだ。一人一人が運命を打ち破ったんだ。たとえ定められた運命があったとしても、一人一人が意思を持って生きているんだ。望む未来があるんだ!お前にそれを奪う権利はない。」


「そうか………。それが貴様が得た答えか。我が正しかったか貴様が正しかったかは、この先の世で貴様自身が示せばよい。願わくは、それがこの世界を呪縛から解き放つ軌跡となればよいのだがな。」


 アラマの身体から光の粒子が綿毛のように、一つまた一つと昇っていく。

 恐らく、この世に顕現するエネルギーが維持できなくなったのだろう。


 そこへ、薄れゆくアラマの背後から声がかけられる。


「アラマ様。」


「………我が巫女、クーデリカか。」


 そこには正気を取り戻したクーデリカの姿があった。


「これからは私やる。全部私に任せる。アラマ様ゆっくり眠るといい。」


「フッ、お前にそんな事を言われるとはな。………あぁ、たしかに少し、疲れたな。少しだけ休ませてもらうよ。………ありがとう。」


 アラマはゆっくりとクーデリカの頭に手を乗せ、彼女の髪を優しく撫でた。そこには骨の手も空虚な眼窩もなかった。およそ破滅の神とは思えない、木漏れ日のように暖かで穏やかな微笑を浮かべる青年の姿があった。

 それは一瞬の姿であったが、それこそが本来の彼なのだろう。

 そんな気がした。


 破滅神アラマは光となって消えていった。



 クーデリカは表情の変化が乏しいが、その瞳は僅かに濡れていた。

 そんな彼女だったが、俺達に向き直ると、突然頭を下げてきた。


「皆ゴメン。たくさん傷付けた。」


 謝られた面々は何とも困った顔をしていた。

 気にしてないといえば気にしていないのだが、一歩間違えば塵にされていた事は否めないだけに、手放しに良い返事はできないといった所だろう。


「まぁ、アレだな。嬢ちゃんはまだまだ嬢ちゃんだったって事だ!」


「ケケッ、そいつは言えてらぁ!」


「むぅ。それ、馬鹿にしてる?」


 自然と笑い声が上がっていた。


 久しぶりに響いた笑い声に、俺達はようやく全ての危機が去ったんだなと実感した。




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