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番外編 アレクセイの帰郷

クライマックスをお楽しみの所、突然申し訳ありません。

今回は完全に番外編です(笑)

なので、飛ばして後で読んで頂いてもよいでしょう。

時系列はガイナス編終盤の復興中辺りです。

 オレはアレクセイ・ロドリゲス。

 世界を武者修行中の自他共に認めるイケメン冒険者だ。


 少し前までは西の大陸の王国領に腰を据えて腕を磨いていた。

 そこはマルタスという商業の盛んな街で、依頼も商人の護衛なんかがある。主に野盗や魔物対策だ。


 俺にとっては大したこともなかったが、稼ぎとしてはなかなかいいものがある。

 そんな感じで冒険者ランクもCからBに上がったりもした。


 だが、正直ランクなんてどうでもいい。

 オレは有名になるくらい強くならなければいけない。

 誰もが認めるくらい強くならなければいけなかった。


 マルタスの武術祭……あれは凄かった。

 オレも腕を上げたと思っていたが、上には上がいた。


 もっと強くならなければ……オレは認めてもらえない。



 オレはあれから北の大陸に渡り、迷宮地獄や幻惑の森といった未知の世界で死と隣り合わせの旅を潜り抜けてきた。

 道中ではミノタウロス族や蝿人など、聞いたこともない多種多様な種族との出会いがあった。彼らは力やスピード、防御など何かしらが突出しているという、ちょっと変わり種な人種が多い。

 そんな彼らと切磋琢磨しつつ、オレは謎の封印の祠を見つけたりもした。伝承によると、封印を解くと世界が滅ぶと言われているらしい。気になったが、もちろん止められたのでスルーした。


 北の大陸は未知の大陸といわれるだけあり、常識外れのことが良く起こる。空から氷が雨のように降ってきたり、かと思えば雷が降り注ぐ地域があったり。とにかく異常なのだ。



 とまあ、そんな困難を乗り越えてオレは帰って来たわけだ。


 ここは故郷である東の大陸東部。細く高い山々が連なる、通称『剣山』。

 その麓に里がある。それは小さな里だが、名は広く広まっている。

『剣聖の里』。人はそう呼ぶ。剣聖に教えを乞うべく武芸者が集い、住み着いたのが始まりだという。



「アレクセイ~、はやく~!」


 この子は跳ねウサギ族のミーナ。白い体毛が特徴的なすばしっこい6歳の女の子。


「にいちゃん、おそいぞっ!」


 こっちは牙狼族のディア。腕白盛りの5歳の女の子だ。


 二人とも好奇心旺盛で、なぜか俺についてきてしまった。こんな小さい子の面倒を見るのは御免被りたいのだが、彼女達の両親にも託され、断りきれずなし崩し的に旅を共にしている。


「お前ら、転ぶぞー。あんまりはしゃぐなよー。」


「んふっ。若い子は本当に元気ねぇ。」


 隣にもう一人いるのだが、オレは何故こいつが一緒にいるのか未だに理解できない。

 そいつは大柄で筋肉質で、坊主頭で青髭が濃く、どこかナヨナヨとした、男だ。北の大陸特有の新人類だろうか。

 こいつの名はゲイバルド。たしかに腕はいいし頭も切れるが、視線にどこか身の毛のよだつ感じがあるオッサンだ。

 何度撒いても、気がつけば隣にいる。もはや恐怖でしかない。


「じゃ、アタシ達も行きましょうか。シャイボーイ?」


「……あぁ。」


 ゲイバルド……お前は本気でついてこなくていいよ。



 そんな俺達四人は里に足を踏み入れた。


「ここが剣聖の里~?静かだね~。誰もいないよ~?」


「あららぁ?変ねぇ。生活の痕跡はあるのに誰もいないなんて、何か事件かしらぁん?」


 ゲイバルドの言う通り、何かがおかしい。洗濯物などがあることから人が住んでいるのは間違いない。なのに、主婦も子どもも誰もいないなんて事普通はないはずだ。


「にいちゃん、あっちの方から人の臭いがする。それに、血も混じってる。」


 ディアが指差した方角。それはそびえ立つ山だった。そこには剣聖の社がある。つまり、皆、剣聖のもとに集まっているということか。


「くっ!お前ら、急ぐぜ!」


 嫌な予感がする。オレは山頂を目指して駆け出した。


 途中、幾人も人が倒れていた。皆昏倒しているようだ。

 何かまずい事が起きている。頂上が近づくにつれて焦燥の波が押し寄せてくる。


 息を切らして長い石段を駆け上がり、ようやく入口の門に辿り着いた。

 門はすでに開かれており、そこから中が見える。


 誰かが立ち合っている。


「ぐぁぁーーっ!」


 男の腕が切り落とされた。


 それは現在の剣聖。第十三代剣聖だった。そして……オレの父だ。


「親父ぃーー!!」


「来るなっ!」


 助けに行こうとしたオレを父は一喝し、制止した。


「貴様には矜持というものがないのか。家を出て、一体何を学んできた!」


 血の吹き出る腕を布で縛り止血し、彼は再び剣を拾う。


「剣に生き、剣と共に死ぬ。剣に誠実であれ!それが剣聖だ。」


 その時、奥の方で襖を突き破り人が飛んできた。


「うぅ……。」


「カインッ!!」


 弟だ。弟は優秀で、皆にも慕われていた。剣聖に最も近い存在などと言われ、いつもオレは比較されていた。

 剣の里でもかなり強者であるはずのカインが何者かに倒されていた。


 奥から黒装束を纏った人物が現れる。


「ゼロ。例の物、発見しました。」


 黒装束は剣聖と対峙する少年へと近づき、二振りの小太刀を手渡す。


「ご苦労さん。うん、やっぱりこれが一番手に馴染むね!」


 彼は我が家に代々伝わる、初代剣聖の二対一刀『天牙』と『霧雨』を腰に据え、抜き放った。

 天牙は硬く重々しい太刀筋を可能とする最硬の刀。霧雨は斬った相手から血霧を生み出すことが由来だそうで、刀身は羽のように軽く、鋭すぎる刃は持つ者すら斬ろうとすると言われている。



 オレは状況を理解した。

 彼らは襲撃者で、この刀を奪いに来たのだと。


 二刀を手にした少年は剣聖に吐き捨てる。


「君は剣という呪縛に捕まっているんだね。本当に馬鹿馬鹿しいな。やっぱりこの世界は狂ってるよ。こんなもの極めて何になるんだい?」


「小僧が。貴様には分かるまい。剣とは心なのだ。初代様は剣のように折れず真っ直ぐな精神を宿し、その身を鍛えた。その姿に憧れて多くの武に生きる者が今でも集まってくる。すなわち、剣を学ぶことは己の在り方を学ぶことなのだ。」


 剣聖は諭すように少年に言った。

 しかし──


「プッ。なにそれ。そんなわけないじゃん!初代剣聖にはただ憎しみと絶望しか無かったよ?いつか自分の呪いを解くために己を磨いてただけさ。」


 少年はそれを笑い飛ばし、まるで見てきたように否定し始めた。


「剣聖なんて偶像はいらないな。終わりにしよう。」


 天牙と霧雨の刀身が光を帯びていく。


「まさか、そんな……。刀がこの者を認めたというのか!?それは初代のマナにしか反応しないと言われているのに。貴様は一体……。」


 現剣聖である父も歴代の剣聖もこの刀を扱う事はできなかった。その事実が初代にしか扱うことができないという伝承をより確かなものにしてきたのだ。

 しかし、少年は小太刀を手足のように振っている。その動きは流れる水のように流麗で、目を奪われそうになる。


 そこで、オレは思い出した。

 オレはこの動きを見たことがある。

 こいつはたしか……。


「よぉ。お前、あの時の二刀使いか!?」


 少年はオレの顔を見て少し考え、更にミーナやディアの方を見て、閃いたように一つ拍子を打った。


「君は確か、マルタスで戦った大剣の人だね!名前は……ロリとかゲスとか……だよね?」


「てめぇ、どこで判断してんだよ!違ぇぞ!断じてロリじゃねぇ!!オレはアレクセイ・ロドリゲスだ。この剣聖の長男だ。」


 少年の笑みを浮かべながら、オレに対し構えを取った。


「そっか。なら君も殺しておこうかな。僕はここに、けじめをつけに来たんだ。」


「けじめ、だと?」


 こいつは剣聖に所縁のある者なんだろうか。


「僕の名はソウマ・ミヤモト。初代剣聖とか呼ばれてる者だよ。この世界が終わらせるために愛刀を取りに来た。そして、剣に囚われた哀れな人達を解放しに来たんだ。」


 何を言っているんだ?

 世界を終わらせる?初代剣聖?解放?

 ソウマという少年が言っている意味はオレには到底理解できなかった。


「行くよ。」


 言葉を置き去りにするように、ソウマがそう言った次の瞬間にはすでに首筋まで霧雨の刃が迫っていた。


 くっ、避けきれない!


「マッシブタックルーーッ!!」


 野太い声が横から響いた。

 視界の端から大きな影が現れ、それはソウマを吹き飛ばした。


「油断大敵よ~ん。ア、レ、ク、ちゃ、んっ☆」


 青髭をさすりながらゲイバルドがウインクを飛ばしてくる。命は助かったが、オレは代わりに精神にダメージを負った。


 その間にディアとミーナがポーションを持って父を助けに行ってくれていた。

 やはりなんだかんだ言っても頼りになる仲間だ。


「もぉ、痛いな──」

「どっせーーーいっ!!」


 起き上がろうと地面に手をつくソウマに、間髪入れず柱のような極太の金属の棒?が振り下ろされる。

 ゲイバルドのやつ、あんな物をどこから取り出したんだ?


 繰り出されたのは、オレのそんな疑問も吹き飛ぶ、当たれば粉砕は免れないような一撃だった。しかし、ソウマは天牙でそれを受け止める。

 周囲一帯に轟音が走った。


「くっ、何なんだよこれ!」


 あからさまに嫌そうな顔をソウマは見せる。


「あいつ、あんなの受け止めれんのか!?」


 ディアが驚愕に目を見開いている。跳ねウサギ族のミーナは今の音に目を回しているようだ。

 受け止めきれたのは、おそらく本人の力というよりも天牙の秘めた能力なのだろう。


 一同が唖然とする中、決着は容易く着いた。


「マッスィヴゥゥゥバーストォォォルァーーーーッ!!!」


 ゲイバルドが単純に力任せに押しきったのだ。


 ソウマが飛ばされていく。石柱を砕き折り、矢倉を突き抜け、その奥の岩盤にめり込んでいく。


 やがて土煙が晴れたそこに、一つの影が見えた。黒装束の人物だ。

 ソウマを守護するように前に立っていた。

 再び緊張が走る。が、黒装束の背後からソウマの声が聞こえた。


「いやぁ、オジサン本当に何者だい?絶対人間じゃないよね!?」


 ソウマは何のダメージも無かったように、ゲイバルドに声をかけてきた。

 あんなの喰らっておいて無傷なんて、ありえないだろ!?


 いつの間にか気がついてしまっていた。


 ソウマとゲイバルド。こいつら二人とも異常……どちらも化け物だ。


 ソウマには武術祭で辛うじて勝ったが、あの時とはまるで違う次元の強さだ。どこまでやれるか分からないが、オレは大剣を構え、ソウマを警戒する。


「んふっ!レディにオジサン呼ばわりだなんて……いい度胸してるじゃなぁい?ヒントは~あ、な、た、と、お、な、じ、よっ!」


「……あぁ、そういうこと。はぁ~、もういいよ。帰るよっ!こんな人とこれ以上やりたくないしね!」


 ソウマ達はそう言うと陽炎のように揺らめいて姿を消した。

 気配を感じない。どうやら退却したようだ。


 オレは一安心の面持ちで、急いで父の元に駆け寄った。


「親父っ!大丈夫かっ!!」


 父はポーションのおかげで斬られた腕もくっ付いていた。そんな父から鋭い視線を突きつけられる。


「アレクセイ。貴様、ついに人の道を踏み外しおったか!こんな幼子に手を出すとは。しかも、男にまで溺れるとはな。貴様はもうロドリゲス家ではない!恥を知れ!」


「はぁ!?ちょっ、待てよ親父!」


「助けられたことには一応礼を言っておく。が、問答無用だ!出ていけー!!」


 父は剣聖奥義をもってオレを衝撃波で吹き飛ばした。オレは門を越えて石段を麓までゴロゴロと転げ落ちていった。


「うぐっ……だからオレはロリではないと……。」


 顔を上げると、石段の上の門はピシャリと閉められていた。


「にいちゃん、ロリって何だぁ?」


「つーぎーはどこいくのぉ~?」


 いつの間にか倒れたオレの側に二人が来ていた。子どもは無邪気だなぁと枯れ果てた心で沁々思う。


「さぁて、次はどんなアバンチュールをしましょうかしら?」


 そして、ゲイバルド。コイツの戦う所は初めて見たんだが、化け物染みていたな。いや、外見的にも化け物染みてるし、もういっそ化け物ってことでいいよな?うん、そうしよう。こいつは魔物か何かだ。


「ゲイバルド、お前本当に何者なんだよ。」


 答えは期待していない。どうせ、いつものようにはぐらかされて終わりだろう。とりあえず気持ちを吐露するために言っただけだ。

 案の定、適当にあしらう答えが帰って来た。


「女性には秘密が付き物よん!アレクちゃんもまだまだお子様ねっ!」


「アレクセイ、お子様~?おんなじ~!」


「んーでもでもぉ、あっちの方はマッシブキャノンなのよ~ん!気を付けなきゃダメよ~ん。」


「ゲイにいちゃん、あっちってどっちだ?」


「まっしーぶ、きゃのーーんっ!!」


「ディアちゃん。そこはゲイお姉さま、でしょ?私は男女オトメなんだから、間違えちゃダーメ。」


「お、おぅ!オトメだな!わかった!!」


 ゲイバルドのあまりの迫力にディアは後退りしながら、高速コクコクで頷き返した。ミーナは語感が気に入ったのか、大声を上げて飛び跳ねている。


「二人にはこれからお姉さまがみーっちりオトメを叩き込んで上げるわ~ん!! ぁいてっ!!」


「下らねぇこと吹き込んでんじゃねぇよ!ほら、さっさと行くぞ!」


 謎の生命体ゲイバルドを含む、よく分からないメンバー四人。オレ達は再び宛の無い旅へと出発した。この後世界に異変が起こるなんて、オレはこの時は知る由も無かった。

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