12 指針
昨晩、ルーがようやく帰ってきた。
特には詳しい話もすることなく一人で護衛任務に行ってしまったので、無事帰ってきてくれたことに少し安堵した。
「よっ、お帰り!寂しかったんじゃないか?」
からかうようにルーに声をかけた。すると、彼女はニヤッと口角をあげ、
「寂しかったよー!」
ここぞとばかりに抱きついてきた。銀の髪が顔にかかる。
この感じ、狙ってやってますってところ、なんかルーだなって思ってしまう。照れ隠しなんだろうな。出会って一緒にいたのはまだ2、3日なのに、長い付き合いのように感じるのは、波長があってるってことなんだろうか。
抱きつかれながらもルーに護衛の話を聞いた。
「詳しい話は守秘義務もあるけど、依頼は準備なんかで最初の1日、片道4日、向こうで3日の計12日の行程で、2パーティー合同で商人を護衛していったわ。そして、これが報酬よ!」
そう言って、ドサッとテーブルに置かれた袋の中には金貨が詰められていた。100枚くらい入っていそうだ。
「こりゃ、すげえな。一回でこんな大金稼いだのかよ。」
(これが金貨か。ムジナは大金と言っているが、どのくらいなのか基準が分からないな。)
「これは、護衛の他に少しアドバイスしたら商談が思いの外上手くいったみたいで、そのお礼みたいよ。」
「ルーテシア、お前、魔法以外にもそんな才能もあるんだな。ホントお前ら何者なんだよ。」
「お前ら?」
ルーは不思議そうな顔をし、ムジナから俺に視線を移す。
「ああ、ちょっとこんなのあったら便利だなって提案して、ムジナに作ってもらったんだ。」
俺はルーに脱水機を作った件を話した。その話を聞いたルーは顎に指をあて、少し考えた素振りの後、こちらを見て微笑んだ。
「さすが私の旦那様ね。私の想像以上だわ!」
何が想像以上なのだろう。こちらに向けた笑顔がどこか悪巧みをするどこぞの女幹部のように思えたので、ちょいちょいと隣に座るルーを呼び寄せ、小声で話す。
「ルー、お前今なんか企んでないか?」
「アーサーも同じこと考えてたんでしょ?前世の世界を見てきた私たちなら可能だわ!二人なら!」
「若干かっこよく聞こえるけど、お、お前まさか………」
「そうよ。私たちは経済を支配し、裏から世界を牛耳るのよ!経済王に、私たちはなるのよ!」
(こいつ、俺の前世で一体何を見てきたんだ。メディアに影響受けすぎだろ。いくらなんでも…………。いや、ちょっと待てよ。案と設計は俺、魔法技術の応用はルー、作製はムジナ、テスターにエリーとアイリ、店は………建てるか、最悪ムジナの店がある。下手したら売り子までエリー、ルー、アイリと美人所が揃ってる)
「お前の夢はでかいんだな。実現可能なところがすごいよ。でもやらないぞ。どうせなら冒険王になりたいからな。最初に言っただろ?強くなりたいって。冒険始まる前に終わりなんて、俺嫌だよ?」
「分かったわ。じゃあ副業ってことでアドバイザーでいきましょ!ムジナの弱味は握ってるし、きっとエリーも乗り気にだわ!売上の一部をバックしてもらえばお金で困る生活はないし、ウィンウィンよ!」
たしかにな。まあ、お金は大事だし、世界を巡る旅ができるなら案出すくらいはいいか。
内緒話を終え、ムジナ達に計画を話した。
エリーは他にもあるのかと興奮し、ムジナは鍛治師としての誇りもあり難色を示していた。が、エリーの勢いに押され、ルーが軽く含みを持たせて耳元で囁くと、鍛治の合間という条件付きで渋々折れることとなった。
「じゃあこれで『アーサーカンパニー(仮)ムジナ家本店』、設立決定ね!」
何故俺の名前に………。ルーの声とともに乾杯した。
翌朝、いくつかの案とともに商品説明をエリーにして、他にもできたらいいなと思うものを家事の合間に考えておいてもらった。
俺達はというと、ギルドに訪れていた。
そう、俺の初依頼だ。
「結婚して初めての共同作業だね!」
「いつのまに結婚したんだよ!」
掲示板を見ながらルーが嬉しそうに話していると、不意に後ろから声をかけられた。
「よおー、ルーじゃねぇか!」
そこには俺の知らない男が立っていた。