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111 初撃

 世界樹の四方に位置するピラミッド。それは月の光を反射して世界樹に集めるための集光装置であり、その集められた光は世界樹にとっての太陽光のようなものである。


 地上の植物が日光を浴びて光合成をするように、世界樹は月光を浴びて光合成をする。その結果、自身の成長の糧を生み出すと共に、この星に必要な大量のマナを生み出している。

 使われたマナが世界樹に吸収され、やがて新たなマナが世界へと供給されていく。それはちょうど酸素と二酸化炭素の関係と同様だろう。


 詳しく言えば魂の循環なども関係するので複雑化するのだが、それがマナ循環の概略図である。


 しかし、月明かりは弱く、それだけでは長い年月を経て成長した巨大な世界樹に必要な光量を賄いきれていなかった。

 それを、スポットライトのように反射して世界樹に当てることで補っているのが、四方に存在するピラミッドのような四角錐というわけだ。


 では、そんな四角錐を誰が用意したのか。

 過去にこの空間を訪れた人間など、誰一人としていないというのに………。



 その答えは単純だ。他でもない、世界樹自身である。


 自らを適応させた結果、根が変形し、そのような形を取っていた。


 世界樹は生きている。

 世界のために生きているわけではないが、ただそこに意思を持って生きている。


 何も語らず、何を訴えることもしないが、彼女は突然の来訪者に対し何を思うのだろうか。これから起こる最後の戦いに、一体何を思うのだろうか。


 何も思わないかもしれない。


 無言で見守る大樹を中心に、今、戦いが幕を開けた。




 ***


 東のピラミッド前にて、彼女達は対峙していた。


「ふぉっふぉっふぉ、御主達か。武術祭以来じゃのぉ。良き才能を持ってはおったが………あれから少しは強くなったかの?」


「よぉ!爺さん、久しぶりだな。やっぱアンタ、只者じゃなかったんだな。仙人だっけか?そいつぁ何なんだ?」


 前回マルタスで見た時からの成長を確認するように、その老人は二人を見る。それに対するガディウスも、久々に最上級の強者と対面し、歓喜と不安の入り混じったこの上ない高揚感に震えていた。


「ほぅ。どこで聞いたか知らんが、まぁ良かろう。仙人とは、人間から神に近づいた者の事じゃよ。どうしても戦いたい相手がおってのぉ。そのために神に準ずる力を身に付けたのじゃ。」


「………やはり貴方のマナの循環は止まって見える。人間ではないのだな。」


 セフィリアの絶対領域がタオのマナを彼女に視覚化する。そこに見えた事実は、彼が言うことの信憑性を確かな物へと近づけていた。すなわち、この老人が神に近い、少なくとも人間を超えた次元の強さを持つ者であることを表していた。


「気功を極めたワシは自然界のマナを自身のマナに変換し、扱う術を覚えた。それにより、肉体は変質し老化は極力抑えられ、更なる力を身に付けた。体外のマナを扱う事で爆発的に能力が向上するのは知っておるじゃろ?のぉ、ドラゴン狩りよ?」


「………竜闘気のことだな。俺が扱えるのは一時的だが、たしかにな。」


 ガディウスの頬を汗が伝う。瞬時に老人が何を言っているのか理解できた。そして、何を言いたいのかを。

 それは、この老人が竜闘気を常に纏ったような水準にあるという事だ。それがタオという老人にとっての標準のレベルだと暗に告げられていた。


「御主達はワシに似ておる。ドラゴン狩りはもちろん、そこの騎士も強さに憧れておるようじゃ。いずれワシと同じ高みへ昇ってくるじゃろうな。」


 自分の事をそう評され、セフィリアの表情に憤りが走る。


「何を言っている。強くなりたいとは思うが、それを貴様と同じにするな!私が求めるのは守る為の強さだ。貴様のそれは己を満たすためだけのものだろう!」


 セフィリアの根本にあるものは、聖騎士として人々を守りたいというもの。更に遡れば、ルーテシアへの憧れから彼女が愛したであろう王国を守りたいというのが原点である。

 それを己の欲のために世界を巻き込むような者と同じに言われ、彼女には侮辱のように感じていた。


「まだ青いの。それも元を正せば一つに行き着く。まぁ、今後それを知る機会はないじゃろうがな。………話が逸れたかの。」


 タオはセフィリアの未熟さを鼻で笑うように、その考えに異を唱える。そして、そこで話題を打ち切り、再び話を本線へ戻そうとした。

 しかし、そこに続く言葉はガディウスによって遮られた。


「あー、そんくらい強いから油断すんなって事だろ?わざわざ説明ご苦労さん!それ以外にねぇなら始めようか。こっちも時間がねぇからなっ!」


 ガディウスの重心が低くなる。同時に、その手が腰の愛刀へと伸びる。

 その隣では、セフィリアも剣を抜き放っている。


「では、楽しませてもらおうかのぉ。」


「ガディウス!最初から全力で行くぞっ!!」


「ったりめぇだ!!」


 両方向からの踏み込みが中央の位置で激しく衝突することで、戦いの火蓋は切って落とされた。




 セフィリアの初撃の一振りがタオの腕により受け止められる。


「なっ!?」


「これは硬気功といってのぉ、肉体能力を高めるんじゃ。そして、これが波動を使った技じゃ。むん!」


 剣を受け止めたのとは逆の手で、タオはセフィリアの腹部を重く広がるようなイメージで押した。


「セフィリア!大丈夫かっ!」


 ガディウスもほとんど同時に斬りかかっていたが、一瞬の誤差の内にタオの一撃がセフィリアに入っていた。ガディウスの横凪ぎの太刀はスルリとかわされ、タオに距離を置かれる。


「セフィリ──」

「ぐはっ。」


 突如、茫然と立っていたセフィリアの口から鮮血が溢れ、目からも血が流れ出る。

 よろめくセフィリアだったが、地面に剣を突き立て、どうにかその場に姿勢を維持する。そして、魔法の鞄に用意していたポーションを取り出し、回復に努めた。


「すまない。想像以上にきついな。」


「こりゃ、難易度高ぇぜ。一瞬の隙をついてきやがる。」


 今の一撃は、この戦いの水準を示すための一撃なのだろう。


 攻めるならば完璧なタイミングで攻める、守るならば一分の隙なく守る。

 出来ないのならば、それで終わり。


 それを明示した一撃だった。



「いけるか?」


 その言葉には、セフィリアの体調の心配と同時に、この仙人と戦って勝てるかという意味が含まれている。


 それに対して、セフィリアは軽く笑って返す。


「ふっ、問題ないな。認識がまだ甘かったらしい。私が貴様に合わせる。マナの見える私の方が攻守ともに対処しやすいだろう。貴様は攻撃に専念しろ!」


「ハハッ、いいねぇ。やっぱ普段のお前よりも今の好戦的なお前の方が魅力的だな。」


「黙れ、この野獣が。斬り刻むぞ。」


 気がつけば、馬鹿なことをのたまうガディウスへ、ゴミでも見るように目を細めたセフィリアの痛烈な視線が突き刺さっていた。


「おぉ怖ぇ。まっ、この続きは全部終わってからにしようや。」


「………そうだな。全て………な。」


 相手の大きさを再認識した二人の集中力が徐々に研ぎ澄まされていく。

 そして、二人は再度、人を超えた者へと踏み込んでいった。

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