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109 開いた扉

 あの時ルーの魔法により確実に死んだはずのケリアン・ブラッキオが生きていた。その謎に対する俺の答えは、彼がクローンであるというものだった。

 しかし、初めて聞くクローンという単語に皆一様に首を傾げていた。


「あぁ。要するに自分のコピーを生み出したって事だよ。そうだな………自分と同じ身体を人工的に造ったって事になるのかな?」


「………それも異世界の技術ですか?」


「そうですね。人体の仕組みを紐解いていくと遺伝子という生命の設計図があるんだけど、ケリアンはそれを研究したんじゃないかと思う。たしか魔物も自分で造ったと言っていましたし。まぁ、俺が知ってる知識なんて学生レベルですけど。」


 俺の元いた世界では、そこまでではないが、クローン羊なんかもいたし、一般的には幹細胞から臓器を培養して移植を行う再生医療などの分野が盛んだった。まぁ今はそんな事を話す必要もないだろう。


「自分と同じ存在を何人も造り出す、ですか。生命を創造するなど、それはもう神の御技ですね。」


「その科学者は神を造る事が目的って言ってたんだろ?じゃあ、ソイツの目的は神の遺伝子ってやつを手に入れて人工的に神を造る事なのか?」


 たしかにそうかもしれない。でも、もっと最悪なのは──


「もしくは、自らの遺伝子に組み込んで、自らが神になる。そのためのクローン研究かもしれないな。」


 遺伝子操作の技術で自らを神にする。もしもあんな変態が神になったら、それこそ世界の終わりだ。


 クローンというのは確証のない俺の予想でしかないが、なんとなくケリアン・ブラッキオという人物像が垣間見えた気がする。

 誰もがその馬鹿げた構想に驚きを隠せなかった。


 そんな中、二人の人物が口角を上げる。


「別にヤツが何人いようが、俺達が全てを倒せばよいのだろう?どのみち破滅神の復活を阻止すれば、そんな計画も夢に終わる。問題ないな。」


「そうだね。所詮そんなものは妄想でしかないということを思い知らせてあげるよ。」


 そう言ってのけるクレイとクリシュトフに、各々強く頷いた。


「ただ、ヤツは頭もキレるし、ガディウスの竜闘気も使えたりといろいろできるみたいなんだ。油断できない厄介な相手だよ。二人とも気をつけて。」


「あぁ、分かっているさ。」


 再生神の巫女に関しては一切が不明だったので、俺達はそこで会議を解散した。




 ***


 暫くして、俺達は実験中の広場に召集されていた。そこで思わぬことをシャルアに告げられることとなる。


「皆頑張ったんす。王国の方々も協力してくれたっす。………でもやっぱり一つ、解けない問題が生じていまして。」


 シャルアはどうにも言いあぐねているようだ。そんなに難題が残っているのか?


「魔法陣で二点間を繋ぐのは出入り口を作るだけみたいなものなんっすけど、どうやらゲートの魔法で虚数空間に繋ぐには道具として開発してもダメなんすよ。根本が違うんっす。」


 ゲートは位置情報が必要だし、虚数空間へは『何も設定しない』という設定が必要らしい。しかし、赤ん坊くらい無垢な思考でないと、人間の脳ではそれはできないという話だった。

 だから、俺は科学的な面からのアプローチを試みたわけだが………。


「その設定をするには、やはり意志が必要なんすよ。つまり、生物でなければいけないんす。余計な思考が邪魔しない、人形のような真っ白な思考の………。でも空間魔法が使える生まれたての生物なんていないっすよね?………完全に手詰まりっす。」


 そこまで言われて俺はようやく理解する。

 ノアの事例は思っていた以上に特殊であり、これまで世界樹の場所が人々に知られていなかったわけを。

 それはそうだ。そもそも空間魔法を使えるようになるならば、ある程度は思考が発達しているのだ。

 つまり、その矛盾によって虚数空間への道は、その存在自体を常に閉ざされていたわけである。


 ノアの場合、空間魔法を込めた魔法石を吸収したため『使える状態』になったのだ。『覚えた』というより『使う事が可能』という状態だ。だから位置の設定が無く、虚数空間が開いたのだろう。


 そんな魔法の摂理に守られた扉をこじ開けるには、何か例外を見つけなくてはならない。ノアのような例外を………。


「タイムリミットはあと一日。作業時間や敵との戦闘を考えるともうかなり時間がありませんね。」


「そうは言ってもよぉ、そんな都合良くなんて見つかんねぇだろ?」


 セフィリアやガディウスの言葉も耳に入らず、俺は一人思考をフル回転させる。


(考えろ。何か道はあるはずだ。)


 俺は今までの旅を振り返りつつ、糸口を探っていく。


 無垢な、純粋な、人形のような………。


 そして、該当する可能性のある一つの存在が脳裏を掠めた。


「いや………諦めるのはまだ早いぞ。一つだけ可能性がある!アーノルドさん、ドワーフの国ガイナスへのゲートは繋げますか!?」


「あ、あぁ、行った事はあるので可能だが?そこに何かあるのかな?」


 突然閃いた様子の俺にアーノルドはきょとんとしていたが、ガイナスへの転移は可能なようだ。


「アーサー!まさか、アレを?」


「アレって、まさかアレか?正気かよ!」


 皆ガイナスという言葉で思い至ったのか、俺の案には賛同しかねていた。たしかに、上手くいくとは限らないし、そのせいで世界が滅ぶ危険もある。


「でもそれしかないなら、今はそれに賭けてみるしかないんじゃないかな?」


 クリシュトフに促され、渋々ながら皆それを決断した。


「行こう、ガイナスへ。」




 ***


 ガイナスに転移した俺達は地下都市裏ガイナスへと向かった。


 途中ラナを始め、街の皆に声をかけられたが、時間もないので簡単に話を済ませた。


 そして、辿り着いた洞窟。そこには機能を停止したマシンゴーレムが鎮座していた。


「ケケケ、まさか、またここに来るなんてよ。厄介事になるのはマジで勘弁だぜ?」


 キリウの言う通り、あの時の事を思い出すとどっと疲れが出てくる。あのよく分からないクイズのせいで人知れず世界が滅びかけたのだから。


「シャルア。これは機械仕掛けの人工生命みたいなんだ。魔力で動いているらしい。これならいけそうか?」


「ちょっと解析してみるっす。………み、み、みんなーっ!凄い物があるっすよ!!」


 何やら血相を変えたシャルアは、アーノルドの描いた転移魔法陣から合流したアリアス科学班の仲間に大声で呼び掛け、目の色を変えてマシンゴーレムに熱中し始めた。


「ほほぅ、これは魔導ゴーレムでござるか?『深海記ヤバンゲリヨン』のゼロ号機仕様に似ているでござるよ!」


 シャルア達はあーだこーだとマシンゴーレムを調べながら、未知の技術に触れて楽しそうにしている。なんだかオタク魂に油を注いでしまった気分だ。

 今が世界の危機だということを忘れてやしないだろうかと、彼らの表情を見ていると少し心配になるんだが………。


「このゴーレム、一体何なのでしょうね。」


 不意にそんな疑問がシルフィーナから飛び出した。


 前世の俺にもこのゴーレムについての記憶はなかったが、ここの番人だからてっきり竜族の何かだとばかり思っていた。


「俺はてっきり姉さんは知ってるものだとばかり思っていたんだけど。じゃあ誰がこんな物を?」


 誰が何の意図を持って、こんなオーバーテクノロジーな物を天空への番人として置いていたのか。未知の存在はその謎が明かされることなく、依然としてそこで沈黙を保っていた。



 暫くの間、一緒についてきたラナを交えて皆で話していると、俺を呼ぶシャルアの声が聞こえてきた。


「アーサー様ぁーっ。まだ動かしたわけじゃないっすけど、ちょっといじればたぶんイケるっすーっ!!」


 ゴーレムの頭部に登り、何やらガチャガチャしているシャルアからOKのサインが出た。


「一応設定画面みたいなのがあったんで変えてみたっすけど、元の設定がなんかヤバいことになってたっすよ!?こんなものよく停止させたっすね。さすが勇者っす!」


「そうなんだ。それよりあとどのくらいで準備完了できそう?」


 やはり機械なのか、マシンゴーレムにはプログラムが組み込まれているらしい。そのヤバい設定が何かはあまり聞きたくはないので、とりあえずここはスルーしておこうと思う。決戦を前にこれ以上の厄介事は頭が痛くなりそうだ。


「ちなみにそのヤバい設定っていうのが、暴走状態に入ると──」

「わざわざスルーしたんだから、そこは言わなくていいんだよっ!!」


 俺の断固拒否の姿勢によって、意気揚々としたシャルアの話は完全にシャットアウトされてしまった。



「………えー、あとは魔力充填すればいつでもいけるっすー。」


 すっかりヤル気の萎えてしまったシャルアはさておき、王国魔法士総出で魔力が注入され、やがてマシンゴーレムの目には光が舞い戻ってきた。


「満タンまでは程遠いっすね。たぶんこの子、出力も容量も桁違いなんすよ。魔力残量少ないんで、チャンスは一回っすかねー。」


 よっぽどあのゴーレムについて語りたかったのか、シャルアは完全に不貞腐れているようだ。

 うーん、どうしたものか。


「ではこの魔法石をセットしてっと。んじゃ、いくっすよー。ゴーレム、ゲートを開くっすー!」


 淡々と作業をこなすようにシャルアがゴーレムに指示を出した。

 いよいよ、世界樹への道が開ける。


 ゴーレムの前方、この空間の中心に揺らぎが生じる。それはすぐに縦長の楕円形に開いていった。

 その奥には景色が見えた。それは黒い宇宙のような空間に水晶で構成された、幻想的で不可思議な大地が広がっていた。


「これが虚数空間か……。本当に繋げちまったんだな。凄ぇぜ、おめぇ!」


「いろいろアレだし最初はかなり心配だったけど、ホント驚いたなぁ。君は天才かいっ!?」


「そ、そんなことないっすよ~!照れるっす~!ちょっと本気出してみただけっすよ~!!」


 ガディウスやクリシュトフをはじめ、皆に称賛されたシャルアはさっきまでとは打って変わって上機嫌になっていた。

 チョロ……いや、機嫌が直ったようでなによりだ。


「皆さん頑張ってくるっす!!」

「ラハート兄の仇、とってきてね!」

「ナディア姉さんの事、お願いします。」

「予言に定められし運命を今こそ変えてくれ!!」


 ソフィーラやラナ達に託された願い。協力してくれた皆や関わった人々に託された願い。そして、俺達自身の願い。


 ルーもナディアもクーデリカも、必ず取り戻してみせる。全てを取り戻して、全てを終わらせる!


「あぁ、行ってくるよ!」


 その全てを胸に俺達はゲートへと足を踏み出した。

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