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107 アプローチ

 天空に浮かぶ島から竜の背に乗って、俺達は直下の王都へと飛び立つ。竜の背は魔法的な補助が付いているのか、急降下でも安定した乗り心地だった。その際見えた雲の海に沈み行く夕日はとても美しく、儚く消え行くこの世界の寿命を思わせた。


 これが見れるのもあと二回。その後は満月の夜がやってきて、終焉が始まるだろう。


 そんな沈んだ空気を察したのか、竜達が流星のように一斉に地上へと降り注いだ。


「うわぁーーーーっ!!」

「死ぬ死ぬ死ぬーーーーっ!!」

「あばばば…………。」


 乗り心地に安定感があり、落ちることはないだろうとは分かっている。だがそれでも、地上でしか活動しない人間にとって、上空から地面への直滑降はただただ死を連想するものでしかなかった。


 そのまま王都の門前で急停止して降り立つと、竜達はシュナ同様に人型へと変化した。


「如何でしたか?皆さん、顔色が優れませんでしたので趣向を凝らしてみました。悲観的な未来図も眼前の死の恐怖には勝てなかったでしょう?」


「………みたいだね。」


 中には回転しながら降下していた竜もおり、見れば皆かなりダウン気味になっていた。時間がないってのに、この先本当に大丈夫だろうか。

 ちなみに俺はというと、一応仮にも竜神であるので特に恐怖を感じることもなかった。なんとも不思議なものだ。


「貴様ら、何者だっ!!」


 すると、程無く門から武器を構えた兵達が駆けつけてきた。その表情はどこか強張っているように思える。


 よく考えると、これはマズい状況なんじゃないだろうか。少し前まで敵に攻め込まれていて、そこに再び竜が降下してきんだ。しかもその竜の巨体は消えていて………。普通警戒するよな?


 俺達はもしかしなくても、しっかり敵と見なされていた。


 しかし、それも一瞬の事で杞憂に終わる。


「ちょっと待つんだ!………あなたは、セフィリア殿か?」


 目を回してグロッキー状態のセフィリアに気づいた兵士長らしき中年男性が兵をより分け、前に出てきた。


「という事は、あなたが噂の………。」


「俺はアーサーといいます。急いで王の元へ行きたいのですが!」


「分かりました。こちらもいろいろありまして、お話ししたい事があります。案内しましょう。」


 俺達は急ぎ、王の待つ王城へと向かった。



 厳かだった謁見の間はひどく荒れ果てており、所々で水滴が落ちる音を響かせていた。ここでも戦闘があったのだということが窺える。


 暫くすると王が現れた。付き従うのは予言対策大臣のアーノルドだ。今回は形式も無視して、俺達の方に直接歩んでくる。


「………すまぬ、ナディアを守りきれんかった!」


 王は開口一番に謝罪してきた。兵士長の言っていた話というのはやはりナディアの事だろう。そこへアーノルドが経緯を説明し始める。


 何が起こったか簡潔に聞いた後、俺も仲間の紹介と共に今置かれた現状についての説明をした。


「そうか。まさか、ルーテシア様までも………。やはり予言は変わらぬ、か。」


「人の王よ。まだ諦めるには早いでしょう?」


 ナディアだけでなくルーも拐われていたという事実に、逃れ得ぬ絶望を感じたアルハザルド王に対し、シルフィーナがその言葉でもってこれを覆す。


「その予言は変わってきていると思いませんか?風のファクターである私と火のファクターであるクレイが無事なのですから。本来ならば、四つの魂がなければ封印は解かれなかったはずです。それに、まだ破滅神が復活を遂げたわけではありません。」


「たしかに、そなたの言う通りだな。今、我々は小さな可能性の扉にようやく手をかけた所なのかもしれんな。」


 王はシルフィーナの前向きな考え方に励まされるように、自身を奮い立たせた。


「大丈夫、私の弟は優秀ですから。きっとそんな運命は覆してくれると信じています。ねっ、アーサー!」


 確信に満ちた目に少したじろぎそうになる。前世の俺が分離したのってこのプレッシャーのせいなんじゃ………。

 思い出したくない事にはあまり触れないでおこう。


「失礼します。魔法局の者を召集しました!」


 一つ声が響いた後、ぞろぞろと魔法局在任の魔法士が謁見の間へと雪崩れ込んできた。


 タイムリミットは刻一刻と迫っている。三人寄れば文殊の知恵と言うように、今は限られた時間で打開するために多くの人に虚数空間への転移を編み出してもらおうとしたのだ。


「ダメですね。そんな場所には繋がりません。恐らくあのノアというスライムは人間と違い、無垢な思考だったのでしょう。我々では無意識に何かを思い描くため、その思考が障害となって繋がらないのです。」


 魔法士の言葉は悲観的なものだった。しかし、そんな逆境は俺達には予想できていた。こんな事で一喜一憂していられない。これは可能性を見出だす、時間との戦いなのだから。


「なら、皆さんはギリギリまで模索し続けてください!俺達は他の面からアプローチしてみます。それと誰か、南の大陸のカドカニへゲートを開ける人を貸していただきたいんです。」


「簡単に言うが、空間魔法『ゲート』を使える人物は極少ないんだよ?仕方ありませんね、私が行きましょう。王、宜しいですか?」


「あぁ、任せたぞ。アーサー、この通信の魔法石を持っていけ。」


 名乗りを上げたのはアーノルドだった。たしかにエルフであり長年生きてきた彼ならば様々な場所へも行っているだろうし、ゲートを使えるなら最適の人物に違いない。

 一も二もなく、俺達は彼の申し出を快諾した。


 そして、すぐさま俺達はカドカニへと向かった。




 ***


 カドカニへ着くと、浜辺には既に巨大な亀の姿があり、住民の多くが何事かと群がっていた。


「お待ちしてたっす、アーサー様!」


 甲羅のハッチを開いて現れたのは、小麦色の肌に黒髪のポニーテールが懐かしい少女………のような少年、シャルアだ。


「シャルア、どうしてここにっ!?」


「積もる話は後っすよ。時間がないんすよね?」


 シャルアに促されるまま、俺達は周りを気にせず亀の中へと潜り込んだ。

 亀は勢いよく海底へと進んでいく。俺とセフィリア、フェイ以外は海底は初めてなのだろう。色とりどりの魚と射し込む陽光が織り成す幻想性に引き込まれているようだ。


「なんで俺達がここに来るって分かったんだ?」


「ソフィーラ様に海神様の御告げがあったんすよ。」


「そうか。………じゃあ、ナディアが死んだ事も。」


 ソフィーラが海神から聞いたというならば、ナディアが死んだと言うことも聞かせれていても当然だろう。


「いやいや、ナディア様はまだ死んでないっすよ!?」


「えっ?だって胸を貫かれたんだぞ!?魂抜かれたんだぞ!?」


「なんか海神様曰く仮死状態らしいっす。それでアリアスの力で勇者様を支えて救うように言われたんすよ。」


 ナディアが生きていた。その事実は驚きではあるが、それ以上に今の俺にとって大きな救いであり、諦めてはいけないという心の支えの一つとなっていた。



 そして、辿り着いた海底都市アリアス。


「海底にこのような場所があるとはね。ふむ、さっき聞いたアプローチ方法ならば、ちょっと知り合いを連れてきてもいいかな?役に立つかもしれない。」


 一言残して、アーノルドは一人ゲートへと消えていった。

 助っ人が増えるならば、頼もしい限りだ。


 城へと続く長い階段を上ると、そこにはナディアの双子の妹ソフィーラと海皇サリューア、それに、カドカニの酒場のマスターが立っていた。


「久しいな、勇者アーサーよ。」


「お久しぶりです。まさか、マスターまでいるなんて。」


「アーサー様………ナディアを、どうかお姉ちゃんをお救いください。」


 ソフィーラは俺を見るや否や、途端に泣き崩れてしまった。見るのも痛たまれるその悲痛な姿をマスターが優しく包み込む。


「悪いな。双子の巫女なせいか、こいつには姉が胸を貫かれる瞬間が見えちまったみたいなんだ。」


「ソフィーラ、ナディアはまだ生きてるって本当なのか?」


 ちゃんと俺の声は聞こえているようで、彼女は一つ頷くとマスターの胸に寄りかかるようにして立ち上がった。そして、マスターから少し体を離すと、涙が込み上げるのを必死に抑えて顔を上げた。その瞳は涙に濡れていたが、しっかりと俺を見据えていた。


「はい、間違いありません。微弱ですが、細い糸のような物を感じます。」


「そうか。それだけ聞けば十分だよ!ナディアも絶対に救ってみせるから!」


 ソフィーラは俺の言葉を信じてにこやかに頷いてくれた。何も確かなものなどない、俺の言葉を。


 ガイナスでラハートを守れなかった。ノアを守れなかった。ルーもナディアも………。


(今度は誰も失わせない。必ず取り戻してみせる!)


 俺は彼女の笑顔に、そう誓いを立てていた。


「私達に出来ることはあるか?」


「サリューア様、どうかアリアスの方々に手伝ってほしい事があります。」


 俺は彼らに現状を伝え、アリアス優れた魔法科学力で虚数空間へのアプローチを試みようと考えていた。


「これは厄介な問題っすね。機械で空間魔法を操作、っすか。むむむ、難題っす。きてるっす!僕の科学者魂が灼熱の業火の如く燃え上がるっすー!!」


 何やらシャルアの情熱に火が点いたようだ。盛大な勢いで彼は科学班のメンバーと共に城の奥へと消えていった。


 丁度入れ替わるようにマスターが持ってきた飲み物で喉を潤す。それはルーが開発したカルピスだった。懐かしいな。


「あの子、大丈夫なのかい?その………いろいろと。」


 クリシュトフをはじめ、皆シャルアの豹変ぶりに引き気味のようだ。

 大丈夫のはずだ。ちょっとイタイ所があるだけで。


「うん。あんなだけど、優秀だから信じていいよ!………ちなみにシャルアは男だから、注意してね?」


 ブゥーーッ!!


「はっ?あれ、男なのか!?」


 完全に話すタイミングを間違えた。話す俺の方を皆が向いていたため、俺は全身をカルピスまみれにされることとなった。

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