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11 特訓の果てに

 俺の特訓プラン、それは地獄だった。


 まず夜、ルー特製濃縮マナドリンクを飲むところから始まる。飲むとショック状態になり気絶してしまうようだ。ちなみに味はなかった。無味無臭である。不味すぎて気絶したわけではない。詳しいことは分からないが、たぶん一気にマナを吸収することで身体もそれに合わせて急激に補強され、その差からショック状態に陥るのではと思っている。まあ、そのメカニズムを知っても意味はないんだが。


 その後、目を覚ますと朝になっている。身体に変化はない。特にムキムキマッチョになっているわけでもなく、何かができるようになってもいない。


 朝食はフランスパンのようなパン、ハム、サラダにミルク。この国ではこういった朝食が一般的らしい。皆が食べた食器類は俺が洗うようにしている。エリーが洗濯をしている間に、俺とアイリで掃除をする。

 驚いたことにこの世界には簡易洗濯機があるらしい。槽の中に弱い風魔法の魔法石が埋め込まれており、水と石鹸を入れて魔力を少し流すと緩い水流が発生するようだ。魔法文化なんだな。エリーは排水し、よくすすいだ後、手で絞り干している。水汲みや絞るのも結構重労働だな。

 俺は脱水機はないのか聞いてみたが、よく分かっていないようなので、ムジナに後で試作してもらうことを提案した。


 午後になって、ローラーつきの手動の脱水機の仕組みを紙に書いてムジナに説明し、仕事の合間にでも作ってもらうことにした。


 そして、俺にとっては修行の、アイリにとっては遊びの時間になった。

 今日は公園に行くみたいだ。友達もまぜてケイドロのような遊びをするという。


「それ、なんていう遊びなの?」

「知らないの?ケイドレだよー!刑務官と奴隷の略だって言ってたー。」


 えぇ~………その名前からすると、確実に奴隷側が脱走した流れだよね、それ?捕まったらどうなるんだよ………。俺、真っ先に捕まる自信あるよ?



 公園に着くと十人くらい集まっており、遊ぶことになった。ちなみに俺は適当にリハビリ中みたいな事にして、皆にやりすぎないようにお願いしておく。


 皆のスピードは速く、目で追っていくのはなかなか厳しかった。タッチされれば物凄い衝撃が襲いかかる。特に男子は危険だった。

 だが、遊びを始めて時間が経つにつれて、昨日と異なる感覚を味わうことになった。集中すると周りの動きも遅くなり、普段の速度くらいに感じるようになっていた。まるで人混みの中を肩車してもらったかのように、見える世界が変わった。これがマナの有無の違いなのだろう。



 ちなみに捕まった場合はというと、牢屋エリアで刑務官役の子から、


「逃げ出したのにわざわざ戻ってくるなんて、ほんとお笑い草だな!そんなお前達に罰を与えてやろう!」


 と言われて、くすぐりの刑に処されていた。



 そんなこんなで終わったケイドレ大会。マナを取り込むことで見えた世界。それがこのハードモードの基準なのだと実感することができた。



 夕食の後、ムジナが脱水機の試作品を簡単に作ってみたというので、俺達は改善点を話し合ったりして夜の時間を過ごした。なお、今日も俺の身体はボロボロである。動きが見えたところで、防御面は何も変わっていないのだから。ムジナもエリーもその姿にはつっこまないようにしているようで、それだけは救いだった。



 こうして毎日が過ぎた。ショック状態から目覚め、ボロボロになる日々を繰り返していくうちに、俺は少しずつマナを纏うようになり、ようやく強タッチされても大丈夫になっていた。それが9日目のことだった。普通なら少しずつ成長するところを一気にやるのだから、毎日1年分吸収したとしても馴染むには時間が必要なのだろう。



 そしてあの遊び、皆大好きかくれんぼの時がきた。かくれんぼには何気に自信ありである。前世でアーサー王と呼ばれていた俺は、なかなか見つからないことから『隠しキャラ』の異名を持っている。


(ふっ、子供たちよ、悪いな。今日は俺の独壇場だ!)



 始まったかくれんぼ。そして、放心する俺。そう、俺は真っ先に捕まっていた。しかも何度やっても。時には池の中に潜ったり、穴を掘って地面に潜ったり………なんで?


「兄ちゃん、ちゃんと隠れてよー。気配だだ漏れだよー。」


「気配?」


 話を聞いて予想するに、どうやらマナを感知しているように思える。皆自然にこれをコントロールしているのか?



 そうして迎えた最終12日目。その日、俺はどうにかマナをコントロールする術を身につけ、皆と対等に遊べるようになっていた。そして、コツを掴んだ俺は気配を消すのが得意らしく、かくれんぼであまりに見つからないことから『モブ兄』なんて呼び名が広まるとこだった。全力で却下しておいたが。


 俺の特訓はこうして完了したのだった。



 一方、脱水機の方はというと、ハンドルで槽を回し、遠心力で脱水するタイプになっていた。試しに使ったエリーは驚き、興奮していた。


「なに、これ!こんな簡単に水が………。アーサー君、あなた、天才だったの?これは絶対広めるべきよ!主婦の救世主よ!あなた、早速店に並べる計画しなくちゃ!」


 ここからムジナは鍛治師の名とともに『家事のムジナ』の名が広まっていくことになるのだが、それはまた別の話。



「ただいまっ!」

 その夜、ついにルーが依頼を終えて戻ってきた。

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