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101 逃走

 広間を出ると、そこで一人の人物と居合わせた。


 緑の流れる髪に尖った耳が特徴的な青年………のようにも見えるエルフ。予言対策大臣のアーノルドである。


「城内の雰囲気に異変を感じたので戻って来てみれば、兵や女中が倒れているではありませんか。一体何事です!?」


「アーノルド、良い所に来た!要注意人物とされていた老人が広間に現れたのだ。今はナディアの力で足止めしておる。一旦緊急避難用の転移魔法陣で逃げるところだ。」


 アーノルドは状況を理解すると魔法陣のある部屋へ急ぎ同行しつつ、同時に少し思案する。


「敵の狙いは、やはりナディアですか?」


「えぇ、そのようです。」


 カトレアの返事に、アーノルドは更に思考を走らせる。そして、転移部屋に到着した時、彼は一つの提案をした。


「私と王はここに残ります。転移は貴女達三人だけでするのです。」


「なんだとっ!?アーノルドよ、それはどういうわけだ!」


 アーノルドのまったく思いもよらぬ提案に、王はもちろんのこと、他の三人も驚きに目を丸くする。


「ここに来るまでで見た感じでは、城内で死人は確認されていませんでした。どうやらその老人、本当に無関係の者を殺す気はないようですね。転移先は王都から少し離れた場所になります。ですので、王の安全を考えるならば、魔物のいる外よりも城内の方が安全かと思われます。」


「………しかしナディアに関して言えば、城にいるよりも魔物がいようとも外に出てあの老人から距離をとる方が安全、と。」


 カトレアが理解を示したことでアーノルドは頷き、更に言葉を続ける。


「えぇ。彼女とカトレアの二人では何かと大変でしょうし、できるならバーバラにもついていってほしいのです。」


「………分かりました。私もついていきましょう。鞭は得意ですので、僅かばかりですが役に立てる事もあるでしょう。」


 バーバラの了承を得たところで、三人は早速魔法陣へと足を踏み入れた。


 アーノルドが魔力を込め始める。白い輝きが陣を描き、やがて三人は光に包まれていく。


「力になれず申し訳ない。………どうか御武運を。」


 光が収まると同時に、三人は部屋から消え去った。




 ***


「おぉ、もう城の外なのかぁ?むひょーっ!久々の外じゃーーっ!!」


 周囲の景色が木造の小屋の内部に変わり、転移が成功したことが理解できる。

 すると、ナディアはずっと城に囲われていたせいか、喜び勇んで正面のドアを全力で開け放った。


「ちょっ、ナディア!まだ外が安全とは限ら──」

「んあっ!?」


 勢いよく開かれたドアは半周して小屋の壁にぶつかり、大きな音が辺りに響き渡る。そして………彼女達は前方の多数の黒い目とがっつり目が合った。

 ドアの向こうには、人間よりも大きい、黒曜石のように黒く輝く体躯のアリ、ギガアントの群れが列をなしていたのだ。


 一斉にこちらを向いたらギガアントの大群に対し、ナディアは何事もなかったようにドアを閉める。


「………ふぅ、ぎりぎりセーフじゃ。」


「いや、アウトでしょ!しっかりロックオンされましたよ!?」


「ナディア!まったく貴女という人は。普段からあれほど落ち着きを持ちなさいと口を酸っぱくして言っているでしょう!?これは次回から更に厳しい指導をしなければなりませんね!」


「ちょっと待つのじゃ、バーバラ先生!後生なのじゃーっ!!」


 ナディアの軽率さにひとしきり二人が頭を抱えた後、三人はここからの脱出プランを練り始める。と、その時である。地面が大きく傾いた。


「何じゃ、どうしたんじゃ?」


 今だ収まらぬ揺れの中、ドアの隙間からこっそりと外の様子を窺ってみる。

 明らかに外の景色が変わっていた。視点が高くなり、眼下が黒い絨毯のようになっていた。


「カトレア………まさかこれ、小屋ごと運ばれているのではないのですか?」


「………そうみたいですね。」


 どうやらナディア達は小屋の土台ごとどこかへ運ばれているようである。

 再び外をチラリと見てみれば、その行き着く先に王都の外壁とその門が目に入った。今でも多くの兵達が門前を中心に魔物と戦っているのが見て取れる。

 ギガアントの行動からするに、何かの意志の元で動いているように思える。このまま人質にでもしようというのだろうか。


 カトレアは考える。

 ここで飛び降りるにしても、身体能力に優れていない二人を守りながら何百、何千のギガアントと対峙するのは、いくら聖騎士隊長であるカトレアでも流石に自殺行為でしかない。それにギガアントは口から特有の酸を出すため、下手をすれば大量の酸の波に飲まれて一瞬であの世行きである。

 ならばと出した作戦は、このまま揺られて戦場で味方と合流し、一気に殲滅することだった。そちらの方がまだ可能性がある。




 ***


 やがて、揺れがピタリと止まった。どうやら到着のようだ。


「一斉に飛び出します。準備はいいですか?」


 カトレアの声に二人が頷く。バーバラの鞭を握るその手は些か震えているようだ。


「突撃ーーっ!!」


 ドアを跳ね退けて宙へと三人は飛び出した。見えた光景は予想通り正面門の前であり、少し距離はあるが味方の姿も確認できる。


(よし、これならどうにかなりそうだ。)


 地面までの落下の最中、カトレアは仲間の元へのルートを試算し、安堵する。


 すると、門を守備する兵の幾人かが倒れるのが視界の端に入った。

 カトレアの表情が曇る。もう既に着地してしまったため一瞬しか見えなかったが、それはおかしな状況だった。倒れた者は魔物に相対する前衛の兵ではなく、門のすぐ側の後衛の兵だったからだ。


 全身にマナを込めたカトレアは、急ぎ凪ぎ払うように目標地点までの道筋を切り開いた。



 視界を遮る魔物が次々と消え、門前へと辿り着いたカトレア達はやがて目を疑う事となる。


 奮戦していた兵達は、門を中心に円を描くように倒れていた。


「これって、まさか………。」


 そこへ聞き覚えのある声が、彼女達の耳に届いた。


「ふぉっふぉっふぉ。だから逃げずともよいと言うたじゃろう?」


 声の方を見れば、門が僅かに開いていた。それは少しずつ動いており、扉の奥には人影の存在が一つ認められた。


「まったく、年寄りに面倒をかけさせてはいかんぞ?」


 それは先程まで王城の広間に拘束されていた人物。ファンキータオピーだった。


「準備運動はもう十分じゃろう。さて、そろそろ始めようかのぉ!」


 ナディア、カトレア、バーバラは逃走に失敗した。

 第ニラウンド開始!!

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