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98 解けゆく物語

 俺達は何気に、姉と彼女のいがみ合いにより天空に浮かぶこの島が崩壊し、全員が自由落下に従って地面に叩きつけられるという、何ともしょうもない危機を未然に回避する事ができていた。


 落ち着きを取り戻し、彼女達が友好(仮)の握手を交わした後、クリシュトフが状況を整理するべく、進行の音頭をとり始める。


「話に聞いていた『運命神による情報のロック』もアーサーの記憶が戻った事で解除されたようだね。新たに分かる事や変化した事を確認していこう。まずは………」


 家柄のおかげでこういう事には慣れているのか、司会に徹したクリシュトフの流れるような進行により、脱線する事なく様々な事が解き明かされていった。



 まず、ルーテシアの正体は元再生神の巫女だった。


 彼女は破滅神封印の際の死後、運命神に願いを聞き届けられ、望み通りアーサーと共に生きる為に人間として新たな生をうける事となった。

 しかし、世の中はそんなに都合の良いものではなく、そこには運命神からの条件が存在していた。それは運命を打ち破る事だという。

 どんな条件だろうと彼女に迷う余地など無かったのだが、有無を言わさず半ば強制的に生を与えられた彼女は、まだその条件の意味を理解していなかった。


 世界に生まれて、世界を知り、そして、彼女は愕然とした。


 この世のどこにも、アーサーが存在していなかったのだ。


 こんな運命、どうやって変えろというのか。

 彼女は手段を模索する為の魔法研究や、もしかしたらアーサーはどこかに存在していて気付いてくれるかも、と淡い期待を持ってアイドル活動をするなど、可能な限り手段を尽くした。

 しかし、結局アーサーに繋がる糸口は何も見出だせなかった。


 彼女はこれまでの日々に絶望するが、ここである事件が起きる。


 都市消滅事件である。


 国民の神を見るようなキラキラした瞳と、先が見えない自らの真っ暗な瞳。二極化したその大いなる差に、ストレスと絶望が絶頂まで達した彼女は無意識に魔法を暴発させ、都市ごと消し去ってしまう。そして、抵抗の意志もなく次元の間へと封印される事となった。


 初めて訪れるそこは時間の概念が異なる、まさに異次元だった。元は再生神の巫女なので、ここが輪廻の輪の継ぎ目となる場所だということは知っている。

 誰もいない空間で、彼女は自分のしたことを反省し、ぼーっとそこに映る多種多様な別世界の映像を眺め始めた。することも、できることも、それしか無かった。


 あらゆる世界をどれ程眺めたかは分からないが、彼女はふと気がついた。


 世界がどれだけ異なろうとも、そこには必ず人の営みがあった。


 巫女として生きてきた彼女は、人間として生まれ変わったものの、その精神は巫女であった時分と何ら変わっていなかった。彼女の中にあったのは、自分とアーサーという二人だけ。世界が二人で構築されていたのだ。


 アーサーを諦める訳ではないが、彼女は興味を抱き始めた。人という存在に。一人では生きていけない、人の在り方というものに。


 それからさらに年月が流れ、彼女は世界に憧れ始める。

 次元の間からの脱出を熟考し、一つの答えを導き出した。魂の再生の場である事を利用し、新しく世界に生まれる魂に付随することでの脱出である。


 魂の波長の合う人物は思いの外、直ぐに見つかった。同時に、彼女が新たな生を授かった目的の人物もようやく見つけることができた。

 引き寄せられるように、彼女は彼がこの世に生まれた瞬間に巡り合ったのだ。


 見ることしか出来ないが、彼の一生を見守ることは彼女にとっての何よりの至福となった。

 焦る事はもう何も無い。彼が生涯を終え、こちらへ来た後、次は自分と一緒に平凡で幸せな人間らしい人生を歩んでいけるのだから。


 ある日、予想外な事が起こった。彼が風呂場で滑って浴槽に頭をぶつけ、そのまま湯舟で溺死してしまったのだ。老後まで看取る覚悟だっただけに唖然である。


 それが運命というやつかもしれない。


 頭を切り替えた彼女は、彼と共に見事転生し、希望に満ちた人生が始まった。彼女は運命を打ち破ったのだ。


 ………そう思っていたのは、王城に呼ばれたその日までだった。


 そこで聞いた破滅神復活の予言。彼女には理解できた。自分は運命を打ち破ってなどいなかった。ここまでの事は全て予定調和でしかなかった。そして、ここからが真の条件であるということを。

 すなわち、予言にある通り、確実に復活するはずの破滅神を打倒または復活の阻止をしなければならない。でなければ、世界ごと消滅してしまう。


 旅する中で唯一掴んだ希望は、アーサーの記憶だった。以前のアーサーに会いたいのもあるが、彼の記憶が集まることが運命を変える鍵であることは直感できた。


 そして全てが解放された今、彼はこれまでの彼とは別の彼になっていた。



 これがルーのこれまでの物語だった。



「次はクーデリカだけど、消去法で君は破滅神の巫女ということになると思うんだけど………それで合ってるかな?」


「うん。クーデリカ、破滅神の巫女。」


 予想通りの答えを予想通りに返すクーデリカ。彼女は何も動じることなく淡々と答えた。


「君の目的は何なんだい?」


「ん?それは前にアーサー達に話した通り。私の目的、おいしいゴハン。」


「本当は破滅神の復活をさせたいんじゃないのかい?」


 クリシュトフの執拗な攻めに対し、クーデリカは呆れるように溜め息を吐いた。


「むしろ逆。どちらかといえば、アラマ様にはこのまま静かに眠っていてほしい。」


 これは一体どういう事だろう。彼女は主である破滅神の復活には反対らしい。

 その理由を尋ねると、彼女はゆっくりと答え始めた。


「私達の役目、この世の魂のバランス取ること。魂を浄化して次元の間に送ること。破滅神アラマ様、元々心優しい御方。常に死を見続けてきた。それはとても辛いこと。そして、今も昔も、人間身勝手で理不尽な殺戮ばかりする。だからアラマ様、殺意に溢れたこの世界に失望し、全て消滅させることにした。」


 よく分からなかったが、つまり、争いの絶えないこの世界の人間の在り方に怒りを感じ、世界の存在という根本から破壊することが最善策であると思い至ったということだろうか。


「アラマ様にはこのまま眠ってもらって私が代わりをする。これでオールオッケー。」


 クーデリカは親指を立ててポーズをとった。

 この娘は本当にクーデリカだろうか。今まで旅では基本馬車でオヤツを食べたりゴロゴロしている、のほほんとしたイメージだったのだが、今は後光が差しているように眩しく思える。

 もしかすると、これが本来の彼女の姿かもしれないな。



「まぁ、クーデリカについてはそれで納得することにしようか。さて、次はアーサー、君だ。」


 そして、話題は俺の話となった。


「君は今は前世のアーサーだが、僕らの知っている『アーサー・バレンタイン』はどうなったんだい?」


 アーサーはアーサー・バレンタインであった頃と同じ笑顔で、その質問の答えを返す。


「彼ならここにいる。」


 彼は親指で胸を差し、俺の存在を示した。


「彼は今、僕の目を通して意識の深層から覗いているはずだ。」


 そう。アーサーの言う通り、俺は自分の内側から夢でも見るように、この状況をただ眺めていた。

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