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10 特訓開始ぃー!

「アイリ、なにして遊ぶ?」


 アイリに特訓メニューを聞いてみた。


「じゃあ、鬼ごっこー!」


 ということで、初日は俊敏性と回避能力の強化のようだ。じゃんけんでアイリが鬼になった。


「いっくよー」


 鬼ごっこは数メートル離れてスタートした。そのはずなのだが、直後、アイリは手の届く位置まで距離を詰めた。12歳の俺の相手はまだ7歳の少女のはずなんだが。


「よーし、タッチー」


 子供の遊びだからということと相手が子供であること、その両方の理由で、俺はいつのまにか気持ちが緩んでいたかもしれない。………が、この速度は反則だろっ!

 迫るアイリの手を避けようと、バックステップで必死にかわそうとするが、アイリの方が一歩早く、俺は後ろに下がる途中で胸を叩かれる。


 バシッ!

「ぐはっ!」


 アイリにタッチされると同時に、俺は胸に強い衝撃を受けて後方に少し飛ばされ、転がされた。


(くっ、呼吸が苦しい………。何が起きたんだ?)


 後ろに避けようとしていた事が、結果としてスウェーバックで衝撃を弱める形になり幸いだった。


「あははっ、アーサーお兄ちゃんおもしろーい!次もアイリが鬼やるー!」


 呼吸が戻ってきたところでアイリに訊ねる。


「はぁはぁ、アイリ、今、タッチする時、何かした?魔法とか。」


「ううん、してないよ?ちょっと強くタッチしただけー!あ、お兄ちゃんが面白いことしたら渡してってルーお姉ちゃんからこれ預かってたんだった!」


 ルーから手紙?しかもタイミングまで指定済みなんて、さすが大賢者。アドバイス、カモン!


『ちゃんと本気でって言ったでしょ?この世界の人たちは大気中のマナ──この星の持つ力のようなものかしら──それを取り込んで自然に強くなっていくの。こんな強い世界、さすがに筋力だけじゃ下手したらスライムにだって勝てないもの。そういうわけで、死なないように気を付けて、アイリといっぱい遊んでね!

 愛しのルーより』


 へぇー、だから最近の子供ってこんな強いんだぁ………。って、アドバイスは?俺もマナくれよ!まさかこのまま死に物狂いで鬼ごっこだなんて……。


「お兄ちゃん、早くやるよー!」


 鬼ごっこの続きを急かすアイリ。あんなに天真爛漫なアイリの笑顔も、今の俺には獲物を狙うハンターにしか見えなかった。


「お、おう………。」


 こうして死地に赴く覚悟で、俺はアイリと本気の鬼ごっこをすることになった。






 夕食になり、食卓に一家が揃う。


「ず、随分派手に遊んだんだな。」


「違うわよ、あなた。アーサー君にとってこれは秘密の特訓みたいよ?」


「そ、そうなのか。」


 俺は全身ボロボロ、真っ白なボクサーと同じ表情で鬱々とスープを口にしている。そんな俺をムジナは可哀想なものを見る目で見ている。そんな目で見るんじゃないよ。にしても、これが全部で12日あるのか………。俺、強くなるまで生きてられるかな?



 食事を終えた俺は直ぐベッドに横になった。

 コンコン。ドアのノックとともに入ってきたのはアイリ。手には茶色い小さな小瓶を持っていた。


「アーサーお兄ちゃん、はい、寝る前に栄養ドリンク。」


「そういえば、そんなこと言ってたな。これ、まんま前世の栄養ドリンクじゃん!この世界、こんなのまであるの?」


「ルーお姉ちゃんのお手製だって。飲んだらすぐに寝ちゃうんだって。」


(流れ的には俺の予想通りの展開だが、予想以上に厳しかったな。)


「じゃあ、これ飲んで寝るよ。」


 ゴクッゴクッ。うっ………。ドサッ。


「え、アーサーお兄ちゃんもう寝ちゃったの?すごーい、ルーお姉ちゃんの言ってた通りだ!あとはこれ置いておけばいいんだよね。おやすみー。」


 こうして特訓初日は終わった。




 翌日、目を覚ました俺は机に置かれたルーの手紙その2により、修行プランの全容を知ることになる。


『昨日はよく遊んだ?………あれ、ちゃんと生きてるよね?私はまだ未亡人になりたくないからね!昨日の栄養ドリンク、アレはマナを凝縮したやつよ。1日1本1年分。残さず飲んでね!

 追伸、アイリと遊ぶのはプランには入れなくてもいいんだけど、お部屋借りてるんだから子供の面倒くらいは見ないとね!ついでにこの世界の人間がどんなものか知れていいでしょ?

 あなたの素敵なルーちゃんより』


 あれぇ?結局あのマナドリンク飲むだけだったってことか。しかも飲んでぶっ倒れるだけとか。俺の推理と全然違うじゃん!でもまあ、アイリと遊んでれば一石二鳥かもな。


 ここから俺の本当の特訓プランがスタートした。

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