イカーン
修練、修練、訓練、特訓の繰り返し。
8才の夏を迎えた。
今日も早朝から爺ちゃんと海辺で修練。
流石に5年近くやってると拙いながらも様になってくる。
「少しは格好が付いて来たのぉ」
俺の槍をカンカン弾きながら汗もかいてない。
60手前なのに元気だ。
あ!前世の俺より若いや...
「お祖父様の御指導を受けておりますから」
「ハハハ、そうじゃろう!未だ未だ精進せいよ」
「はい!」
相変わらずの甘い爺ちゃん
「ギャーギャー」
少し離れた所で海鳥が水辺でデカイ烏賊みたいなのに襲われてる
「お!あれはイカーンじゃ」
走る爺ちゃん
「ボスッ!」くぐもった鈍い音が響き海鳥にのし掛かっていたイカーンが崩れ落ちる
「詠唱も聞こえんかったが、お前がやったのか?」
思わず無意識に必殺技を使ってしまってた俺は
「はい、最近習得した魔法を使いました」
素直に答えるしかない。
爺ちゃんだから良っか、みたいな甘えも有る
流石に、イカーンを倒すのが4体目だと正直に言うのは不味いだろうな色々と...
イカーンとの初遭遇の時は頭(本体?)の中央にぶち込んだらさほどダメージを感じないみたいに動いてた。
前世の記憶の烏賊だと手足を切断しても痛覚が存在しないし頭の部分は腹部に相当したはず。
前世の記憶を頼りに眉間の少し上が急所だったなあと思い浮かべながら狙うと1発で崩れ落ちた。
やはり狙う部分は大切、経験を積まないと駄目だと実感したよ。
「なんと、凄まじい魔法じゃの。ワシでも手こずるイカーンを一撃とは..外傷が無いが呪いの類いか?」
俺の内心の思いに気付かず、驚いたようすのままの爺ちゃんが聞いて来るが。爺ちゃんの性格を考えると<呪い>は不味いので慌てて説明する事にした。
「いえ、ここに傷が有ります。頭の中身を焼きました。」
眉間の少し上を示して言うと
「ほう、焼いたか。確かに傷はあるが、こんな小さな火で殺せる程弱くは無いハズなのじゃがのう」
不思議そうに見てるので、納得して貰う為に傷の部分をナイフで切り開く
「なんと、傷は小さいのに焼け焦げておる!」
いつも驚かせてごめんなさい爺ちゃん...
爺ちゃんが館に戻って馬車を引いて来た。
流石に300キロ近く有るイカーンを徒歩で運ぶのは厳しい。ってか無理だし...
「男爵様、大きなイカーンでございますね」
町に戻って最初に出会った町人が声を掛けてくる
「おお、崖の上に偶然おったでの。今日は祭りにいたす故皆に声を掛けて集めよ。」
「御相伴に預かれるんですか!」
嬉しそうな町人
「うむ、とてもワシらだけでは食いきれんからの。早う皆に知らせて参れ」
慌てて駆け出す町人を笑いながら爺ちゃんはみていた。
町と言ってもたかが男爵領、人口は300人程しか居ない。
イカーンだけでも結構有るけど、町役達が今朝獲れた猪や鹿を持ち出して、広場で丸焼きやら串焼きやらスープを作り始める。楽しみが少ない世界だから祭りが好きな人ばかり。
館に戻って家族全員で出掛ける。
町の名前はクライム
クライム男爵領のクライムって町...安易だよね
さて、お待ちかねのイカーンの味は?
旨かった!
極厚の身の甲烏賊を更に甘く濃厚にした感じ
醤油が有れば酒と味醂でタレを作って烏賊焼きが...
芳ばしい食欲を誘う香りが脳内に甦るよ。