来客
クライムとロアンヌとの往復の日々が続く中、待望のエリーゼのお腹に新しい命が宿ったと伝えられた。ユーリアとの時もそうだったが、人間相手だとプレッシャーが半端ではない・・現に初めて肌を合わせてから既に1年近くも経っているのだ。幾ら多くの子を授かろうと、前世の淋しい記憶は消えてはくれない
満面の笑顔で迎えられた公爵邸で
「男妾殿のお陰で、ようやく孫を抱くと言う願いが叶いそうです。その上に冒険者ギルドが驚く程の素材を納めて頂いて、来年からの民達の租税の引き下げも問題無く実行に移せます。王家に投降する覚悟までしていた頃が嘘のようですなあ・・」
遠い目をしながらしみじみ話す公爵に、本物の民達の主を見た気がした。ほとんどの貴族達は民を牛か馬程度にしか思っていない、それが現実だ。ジョン爺ちゃんやウエイン爺ちゃんは、脳筋故の拘りで民達に優しいのかも・・などとやくたいも無い事を思ってしまう。パトロンドは脳筋の群生地だからと言う事が有り、おおらかで民達に優しいのだろうか・・・・
国境の西川を狩り尽くして、東側を狩る間の1ヶ月の放置で激減したキングリーとダイコがある程度まで増えるのには驚いたが。深く考えても仕方がないので考えないようにしている、いつか女神様に聞けば良いだけの話である
女の子達の桁上げの最中に1度ドワーフの戦士達が、契約通りにやって来たが。間引くモンスターが居ないので
「聞きたい事が有るんだが、戦士達にも農機具の修理は出来るのか?」
戦士長みたいな爺さんに聞いて見た
「当然だ、ドワーフの鍛治師としての腕を疑うのか?」
「疑う訳じゃない、戦士が本業の者も居るだろ?旨い酒を日当として飲ませるから、今回は領域の間引きはしないで農機具の修理を頼めないかな?」
「ドワーフに専業の戦士は居らんぞ、より良い素材を求める故の強さだからな。酒が日当となるかは酒の味を見てからの話だ」
「これだけど、どうだ?」
ドワーフ用に作って置いた、蒸留を2回した酒を出したが
「な、なんじゃこの酒は、こんな酒は飲んだことも聞いた事も無いぞ。このガツンとくる喉ごしが堪らんな・・呑み放題か?」
「バカを言うなよ、そのジョッキに1杯で銀貨1枚の酒だぞ。1日に2杯だな」
ドワーフに好き放題呑まれてはたまらない・・
「この酒ならばそれくらいはするだろうな、金を出せば追加で呑ませてくれるのか?」
「ちゃんと仕事をこなしてくれるなら、原価で呑ませてやるよ」
「分かった、引き受けよう」
「聞き忘れてたが、酒が呑めない奴は居ないのか?」
「愚問だな」
一言の元に切り捨てられてしまった・・ドワーフにアルコールアレルギーは存在しないのだろうか?とにかく女の子達の桁上げに集中出来るようになったのでよしとしよう
12月になり雪が降り始めたので、1度全員をクライムに戻した。雪の中のテント生活はさせられないと言うかさせたくない・・
今では俺の受け持ちの娘達以外の娘達の多くも、何故か俺をパパと呼ぶ・・ミニラがパパと呼ぶので馴れてはいるが。嫁達と愛人達の視線が少しだけ痛い・・呆れられてるのが分かるだけに
雪で女の子達の桁上げを中断している間に、やらなければならない事が山ほど有る。先ずはパトロンドへ飛び、シンホニー、ミーニャ、セリカ、タマモ本人達に聞いた帰郷後に住む予定の場所に家を建てなければならない。シルエットから聞いたパトロンドの常識では、有力者の娘達の場合は土地を本人の親達が準備してのち、家屋は男側が出資するのが女達の顔を建てる事になるそうだ。更には豪邸を建てる事で男の力量を示せるとの事。俺には分からない相場を聞いたが、その土地によってそれぞれ違うと言われてしまった・・・・
まあなるようになるだろうと、シンホニーの帰郷先のラビリンにシンホニーと二人でミニラの背に乗り向かった。俺一人だと町の場所も間違えそうだし、目的地の屋敷さえ分からない・・・・
シンホニーに案内されて着いたのは、ラビン族長の屋敷だった
「お爺様、お久しぶりですわね。お元気でしたか?」
先ずシンホニーが挨拶した
「これは御子様、ようお出で下された。してシンホニーや、ワシの曾孫はどこにおるのじゃ?」
「今回は連れて来てはいませんわ」
「久しぶりです族長、今回は子供達を連れて来てはいません。来年の夏の終わりに、シンホニーと子供達を帰郷させるので。住む屋敷を建てようと思って来たのですが、どのようにすれば良いですか?」
「そのような気を使わなくても、この屋敷に住めば良いのではないですかな」
ラビン爺さんは俺への口調とシンホニーへの口調が違うが、ちゃんと使い分けられている。無意識にコロコロ変わる俺とは大違いだ・・
「そういう訳にもいきません、シンホニーには従者が4名付き従っていますから。シンホニーの住む屋敷と従者達が暮らす別館とを建てるのには幾ら程予算が必要になるでしょうか?」
最初は5人の従者を付けて帰らす予定だったのだが、愛人が増えたのとクライムの孤児達の希望を聞いて従者の数が変更になった。シンホニーには4人が付き従い帰郷する予定だ
「そうですなあ、本館が金貨500枚。別館が金貨300程でしょうかな」
「お爺様、その屋敷とはどの程度の大きさですの?」
「そうじゃなあ、シルキーの家くらいかのお」
シンホニーに分かりやすく言ったのだろうが、俺には分かりようがない
「クライムのシルエット姉様の家くらいですわね」
困った顔の俺に、分かるようにシンホニーが説明してくれた
「でしたら予算を、本館と別館を合わせて金貨1500枚と言う事で建てて貰えませんか?」
「かなりの大きさの屋敷になりますが、宜しいのですかな」
金額を聞いてラビン爺さんが言ってきたが
「広いと掃除をするのが大変かも知れませんが、シンホニーが頑張ってくれるでしょうし。その予算でお願い出来ますか」
笑いながらお願いした
「ガンジー様、あのような大金を出して頂いても宜しいのですか?」
クライムへの帰り道、ミニラの背中でシンホニーが聞いてきたが
「俺に出来るのは、お前達に裕福な生活をさせてやるくらいのことだからな・・何時も側に居る事が出来ない分、俺は他の事で努力するから許して欲しい。お前の事も子供達のことも心から大切に思っているよ」
「ガンジー様が忙しい身なのを承知でクライムに参りましたのよ、全て納得の上ですわ。想像以上にガンジー様はお優しかったですけれど」
ふだん話さない内容の会話に、気恥ずかしさが込み上げてきた・・・・
次順のミーニャの時は楽だった
「予算を教えてくれれば、私が住みたい場所を勝手に決めて家を建てて貰うニャ」
ミーニャとは交渉の末に、タメ口で良い代わりに語尾にニャを付ける事を獲得している。裏番長みたいなミーニャにお嬢様言葉を使われるより、タメ口の方が落ち着くのだ・・
「予算は本館とお付きの子供達を住まわせる別館と合わせて、金貨1500枚を予定してるけど。不満は無いかな?」
「十分過ぎるニャ、かなりの大きさの家が立つのニャ」
二人の時のミーニャは優しい、ほっこりしながらペルシャーの館に着いた
「お父様、お久しぶりですね。町の教会の隣の空き地は今も空き地のままですの?」
館に入るなり、いきなり本題を切り出すミーニャには呆れたが。父娘の関係が分かる気がした
「これは御子様、ようこそお出で下さいました。ミーニャ、久しぶりに会うのにいきなりだね。孫達は来てはいないのか?」
父娘の会話に割って入れず、軽く会釈だけで済ませるとミーニャが
「今日は連れて来てはおりませんわ、来年の夏には子供達と共に戻りますから。それからは好きなだけ子守りをして下さいませ、それより空き地の話ですわ」
話の続きを促した
「教会の隣の空き地のことなら、今でも空き地のままだが。急にどうしたんだね」
「来年の夏に戻ってから住む為の家を建てとうございますの。あの土地に、私が住む本館と従者達が4人住む別館の建設をお願いしますわ、お父様。予算は本館、別館合わせて金貨1500を準備して有りますけど、お父様が上乗せしたいのならどうぞご自由に上乗せして下さいませ」
ミーニャのペルシャーへの要求に、テレサ母さんとマーニャ母さんが爺ちゃん達に出す要求の過激さを思い出して苦笑する
話は簡単にまとまりクライムへの帰路に着いた




