ヘタレ衆のララバイ2
最後の一人シバアの痛みが終わった頃には、夜中を少し過ぎていた。介抱していた娘達が全て降りて来たたので、ヘタレ衆も眠りについた事だろう。ヘタレ衆達には、今日痛みが来ない者達は娘達が全て1階に降りる迄は眠るなとだけ告げてある。痛みに耐えた者に眠るなと言うのは酷なので
「助かったよ、明日も頼むな」
ヘタレ衆が喰われる心配をしていたなどとはおくびにも出さず、金貨を2枚づつ渡して行く
嬉しそうに金貨を受け取った娘達がコックリと頷いて帰って行った
「ラビーさん、娘達を送らなくて大丈夫なのか?」
「あの娘達は直ぐ近くにあるミリィの家で、朝まで一緒に過ごす筈だから心配要らないよ」
「ラバーニュは治安が良い所らしいな」
「治安が良いかは疑問だけど、あれだけ数が居れば。3人くらいの暴漢なら簡単に袋叩きに出来ちまうからねえ」
笑いながら言うラビーさんの答えは予想の斜め上だった
「あの娘達も武術の修練とかしてるのか?」
「当たり前の事じゃないのかい、誰もが弱さに後悔したくないのさ。パトロンドでは農家や商家の子供でさえも武術を鍛える者が結構居るんだよ男も女も関係無いさね」
「そうなんだ・・」
やっぱり自分は無知なんだと思い直したガンジーである
翌朝、帰らずの森への出発を日が昇ってからにする。疲れと睡眠不足が重なるのは可哀想だ。残りは3人だけと言う事も有るのだが
「将軍、昨日の痛みはなんなんですか!あれは単なる位階の上がる痛みとは思えない程の痛みでしたよ」
帰らずの森に着くとランチが苦情を言って来た、文句を言うだろうとは思っていたし、理由も内容も理解している。俺もあの痛みだけには馴れる事が出来ないのだから
「あれはな、真の強者に至る為の試練みたいなものだ。お前がシンホニーに片手であしらわれていた理由だとも言えるな」
ミニラの手伝い無しでは、これ以上の桁の移行は起こり得ないと適当な事を言う無責任な奴である
「姉上達もあれに耐えられたのですか?」
「ああ、全員な!取り敢えず試しにこれで俺の相手をしてみろ」
そう言って所持していた1本の木刀を渡した
案の定、結果はランチの木刀が俺の木刀を受け損ねて俺の軽く振っただけの木刀がランチの頭に当たる。ランチの木刀は俺の木刀が通過する前に振り抜かれて通り過ぎていた
頭を擦りながら???な顔のランチに
「納得出来ないようだな、それなら全力で走って見ろ。昨夜痛みを経験した残りの5人も一緒に走れ」
「将軍、景色の流れが遅く感じるのに移動速度が早くなって気持ち悪いのですが」
「「「「俺も(私も)です!」」」」
「それはお前達の基礎能力が上がったのに、思考が追い付いていけて無いからそうなる。馴れる迄は真剣による稽古は禁じるから守れよ。それと、もし野党や暴漢に教われるような事があった場合には、剣を剣で受けようとせずに避けてかわせ。分かったな」
「「「「「「はい!」」」」」」
残りの3人の狩りは簡単に終了してドラゴンの姉妹亭に戻り、痛みと戦う者と。見守る者達、呑んだくれてる俺とに・・
無事介抱してくれた娘達の餌食になる者は出ず、翌日の昼前にランチ達9人は王都に向けて出発した
予定通り8日の昼前にエルザを乗せた馬車は王都を出発し、コリンヌの領地に向かう。回りを守るように進むヘタレ衆の9人も予定通りなのだが・・先頭の騎馬には何故かミラージュが跨がり。馬車の中にはエルザの他にはシルエットとヒイロを抱いたクーガーが、更には後ろに続くブラパン騎士団が300名と・・・・予定には無かったごたいそうな行列が出来ていた
クーガーのヒイロにのめり込んでいる姿には、流石の俺も言葉が出ない。シルエットに視線を向けても微笑んでるだけだし・・
諦めてクライムに向かうが、ブラパン騎士団がついて来なかったのがせめてもの救いかも知れないな
クライムに着いて、ミラージュとクーガーを迎賓館の1階の部屋に案内し。100畳の浴槽に湯を張ってから入浴出来る事を伝えた
クライムの屋敷へ行って父ちゃんに今日の夕食は迎賓館に準備するからと伝え家族を伴い出席を頼み、ユーリアに爺ちゃんも連れて参加するように伝える
迎賓館の2階の大部屋に用意した夕食は、コース料理ではなくてバイキング形式にしてある。好きな酒に合う料理を好きなだけ選んで貰う為だ。用意した酒は4種類、謎の酒に、蜂蜜酒に、〇〇バスと、過去の記憶を思い出して作ったビール。キンキンに冷したビールの泡立ちが俺は好きだ
この場には俺の家族と、ユーリアに爺ちゃん、シルエットとミラージュにクーガー。そして愛人達と愛人になる予定のエルザ、俺が男妾になる予定のエリーゼ。俺から見れば俺の家族と家族となった者達だけだ。本当は人魚の嫁達も呼びたかったが、会場の広さの都合で断念した。多分、人魚達の中には不満に思う者はいないだろう
「皆さん今日は私の為に集まって頂きありがとうございます。この場を借りて皆さんに1つだけお願いしたい事が有ります、それは人魚達の事です。私の行動を見れば今更と思われる事柄だとは思いますが、皆さんには人魚達が迫害を受ける事が無いようにご助力を願いたいのです。人魚達に便宜を図って頂く必要は有りません、ただ迫害を受けるのだけは阻止するように務める事を子々孫々に伝えて頂きたいのです。私も人魚達が陸に生活する者達の不利益に繋がらないよう教育はしていきますので、何卒よしなにお願い致します。ここには私の家族と呼べる者しか居ませんので、遠慮なく気遣い無用で好きな物を好きなだけ召し上がって下さい。それでは皆さん、皆さんの健康と繁栄を願って乾杯」
俺が心から願っている事を隠さず話し、乾杯の挨拶とした
予め簡単に紹介してあったのが良かったのか、ミラージュと母さん達が何やら話し始め。続いて父ちゃんとクーガーの話しに爺ちゃん二人が加わって良い感じの食事会になった
食事会がお開きになった後で俺は人魚達の元に向かった
「メイリン、ランチ達の相手はお前の部下達と他の部隊の者達からちゃんと選んであるのか?」
「はいガンジー様、私の部下が3人とリンリンの部下が2人。そしてロンロンとエンエンとヤールーの部下が1人づつ、いずれも大タコ狩り経験者達です」
「ヤールーの部隊って事は黒組からも希望者が居たのか・・まあ良い、その者達には条件を出して欲しい。他の人魚達から自分の男は自分が守ってやる事、子種を貰うのは桁上がりの調整が終わった後に限る事、妊娠して性欲が無くなっても3ヶ月間は相手が望めば相手をしてやる事。これが願いを叶える条件だ、人魚達は了承すると思うか?」
「問題無いとは思いますが、妊娠した後に3ヶ月間も発情の相手をする必要が有るのですか?」
「人族は好きな相手を何度でも抱きたいと思うものなんだよ、お前は妊娠して性欲が無くなった時に俺が発情したいと言ったらどうするんだメイリン」
「勿論お相手します」
「それは何故だ?」
「それはガンジー様に喜んで貰いたいからに決まってます!」
「その相手に喜んで欲しいって気持ちは、色々ある愛情の形の中の1つなんだ。それを人魚達に知って欲しいんだよ、その先にこの人じゃなきゃ嫌だって気持ちが産まれるかも知れないからな」
人魚達に独占欲は存在しない、異性に対する愛情を教えるのは難しいのだ・・俺に理解出来る愛情の形で一番教え易いのがこの形であるのは間違いない。俺が嫁達や愛人達に向けてる気持ち、俺が愛情だと信じてるこの気持ちに他ならないのだから
翌朝、俺は8人の人魚達を洗いながら昨夜メイリンに出した条件の再確認をしたが、全員が一様に笑顔で承諾した。何故あいつらが良いのかも聞いたが、指導していて可愛く感じたらしい。母性本能を刺激したのかも知れないな・・
俺の中にはどうしようかと迷い中の問題がある、ロウガの事だ。他の仲間達が男の階段を昇って行くのを見ているだけなのは辛いだろうと思ってしまったのだ・・
ロウガを呼んで
「ロウガ、お前には好きな娘は居ないのか?故郷にでもクライムにでも良いから、もし居るなら話して欲しいのだが」
勝手な想像をするより本人に聞く事にした
「どうしたんですかいきなり、俺は故郷では役立たずの厄介者扱いでしたから。女達には見向きもされませんでしたし、自分の立場をわきまえてましたから女の事を考えた事も無かったですね」
話しを聞いて少し後悔した、俺には難しすぎる問題かも知れないと。金銭や物なら与えてやれるが、人の心を自分の都合で動かすのは好きでは無いのだから・・
「他の者達が愛人を持つのに、お前だけは独りのままなのが気になってな。お前は部族とか相手の血筋とか家格に拘る方か?」
「人は人、俺は俺ですから。自分だけが独りでも、別に問題はないのでお気になさらないで下さい。俺は4男ですから、自分に正直に生きられますので、相手の種族や血より自分の心を優先したいです」
「そうか、好きな女が出来た時は相談してくれて構わないからな」
やはり俺に出来るのはこの程度の事だけだ・・
習慣や生き方の違う者達が共に暮らすのは難しい・・・・




