保母さん5
シルエットと合流する為に王都に到着した俺は、城門の所で待ち受けてた、のじゃの側近達に捕まった・・シルエットに俺が来る日を聞いて朝から張り込ませていたらしい
「ガンジーよ妾の所には、全く顔も出さん薄情な奴じゃな」
いきなり文句を言われてるし・・
「別に挨拶に来ないといけない理由もないしな、俺はお前の家来でも男でも無いんだから」
ここはきっちり言わないと
「冷たい事を言うな、妾の胸を揉んだ男はお前だけなんじゃぞ」
ニヤニヤ笑いながら言ってるし・・
「揉んで無いだろうが!あれは治療だ。それにここは男子禁制の筈だろ」
のじゃの乳には興味無いから
「今は男子禁制では無いのじゃ、兄上も来るでの。兄上が戻られてからは、する事が無くて退屈なのじゃ。何か面白い事は無いのか?」
のじゃは暇でも俺は忙しい、面倒なので背負い袋から謎の酒と書いた大樽から移したビンを1本取り出して
「これでも飲んどけ!俺は忙しいから行くぞ」
そう言って立ち上がった、まあ当分来ないだろうから挨拶がわりだしね
のじゃの側近に馬車を出して貰ってブラパン家迄送って貰い、門番にシルエットを呼んで貰う
「お嬢様に門まで出向かせて悪いね」
笑いながら言うと
「お待ちしておりました、クライムに共に参る娘達も屋敷に待たせて有りますからいつでも出立出来ますが。如何致しますか?」
あっさりスルーされて、これからの行動を聞かれたが。顔には満面の笑顔が浮かんでる・・
「父上と、母上にご挨拶してから。出発しようと思ってるけど、お忙しくは無いかな?」
お嬢さんを貰って行くのだから、やっぱり挨拶はしないと駄目かなって思い直したのです
「母上は居ますが、父上は城に出仕しております。呼び戻しましょうか?」
クーガーは不在か・・
「それには及ばないよ」
そう言って屋敷に向かいます
屋敷に入って、客間に通され。そこに居たミラージュに挨拶して、シルエットの部下になる5人の娘達を紹介されましたが。1度で名前を覚えるのは無理です。全員黒豹族の娘達で15才が3名に16才と17才が1名づつ、15才の3人が三つ子と言うのは覚えました。三つ子はクローンが3人並んでいるようにそっくりで見分け等付く筈無さそうです・・・
「母上、これは美味しいと評判の酒です。少し強い酒ですが、召し上がってみて下さい」
本当は2本渡そうと思ってたのに、1本になってしまった謎の酒を渡します
「それは楽しみですね、さっそく今晩にでも飲ませて貰います。それより最近お肌の調子が少し・・」
遠慮がちな言葉に反して視線が恐いです、母ちゃん・・
シルエットにミラージュを洗って貰うように頼むと、既に洗って待っていたらしく。暫く会えなくなるのを理解しての行動でしょうか・・女性の美への拘りは男の俺には想像以上のものですね
ミラージュのコラーゲン補填施術を済ませて
「それでは母上、次はいつ会えるか定かでは有りませんが。お元気でお過ごし下さい」
別れの挨拶を言うと
「ガンジーさん、身体には気をつけなさいね。その娘達はわたくしの一族の娘達です、当然ブラパン家の淑女の心得も伝授して有りますから、好きにしても良いのですよ。ホホホ」
娘の婿に爆弾投げ付けるミラージュ・・何考えてるんだよ母ちゃん・・
呆れながらブラパンの屋敷を出たら、馬車が止まっていて。馬車の横に居た女性が、ブラパン家の馬車を止めると。止まって居た馬車からのじゃが降りて来て
「お前は暫く会えなくなる友に、別れも言わず旅立つのか?」
そう言われては返す言葉も有りません、ブラパンの屋敷に送ってくれた側近の女性に、元気でやるように伝えてくれとは伝言しましたが。水臭いと言われてはね・・俺も、のじゃも回りに人は多く居ますが。友と呼べる者達の数は限られて来ますから・・
その日はもう時間も無いので、のじゃの城で世話になることにしたのですが、のじゃの本当の目的は別れの言葉よりも謎の酒に有ったようで。散々聞かれて面倒になった俺は、船に小樽が2個有ったのを思い出して、樽を2個送ると納得させました。大樽とも小樽とも言って無いので嘘は付いてませんません、直ぐに無くなる量ですが・・もし俺が作ったと知れれば、絶対作るまで帰さないのは目に見えてますから・・俺も数少ない友人には甘いです
翌朝、お気楽3人衆に別れを言って黒組160人と、俺とシルエット隊が乗った舟を引くミニラが一気に川を下ります
河口の桟橋に停泊させている船に着き、小舟ごと荷物とシルエット隊をミニラに運び上げて貰っている最中に、桟橋の袂に張られた3つの天幕から10数人の人影が現れて船に向かって来るのが見えました。俺は謎の酒の小樽を王都に届けるようにコリンヌに頼むために、小樽を2つ両脇に抱えてミニラに降ろして貰います
「ガンジー様、獣人の孤児達の世話をするように。祖父から言い遣って参りました、どうかわたくし達もお連れ下さいませ」
微笑みながら言って来るシンホニーに
「それはシルエットの管轄だから、シルエットと話してくれるかな」
そう言って
「シルエット、お前に任せる」
船の上から見ているシルエットに丸投げしました、信託を理由に上手く断ってくれると信じて
俺はそのまま小樽を抱えてコリンヌの館に向かい、屋台の出来具合と、出し物の甘味の種類や出来映えを聞き。王都ののじゃの元へ届けてくれるように小樽を預けて船に戻ります
船に戻ると、シルエットが追い返してくれるものと思っていた娘達は船に乗り込んで。キャイキャイ騒いでいます
「シルエット、何故追い返して無いんだ?信託の話もちゃんとしたのか・・?」
不満そうに言うと
「信託の話は致しましたが、妻になる気持ちは無い。ボランティアで孤児達の世話がしたいと申しますので、受けましたが、何か?」
それは建て前だろうと思いながら、援助を断る理由も思い付かず。シルエットがそう言うならと納得しました
虎族の海岸の沖に碇を降ろして、ミニラと海岸の人魚達の所へ行き。人魚達の休みと甘味に対する感想をリンリンに聞き、屋台の出来具合を見ましたが。屋台の方は出来上がり、屋根とテーブルと椅子の設置に取り掛かっている所でした。人魚達もそれなりに楽しんでくれてるらしいです
ローレシアに向かうメンバーに、リンリンと10人の青組を加え、一路クライムを目指します。
メリット沖でリンリン達と別れ、僅か3日でクライムにたどり着けました。流石黒組のそれも桁上がりの軍団です、食事はサメンとイカーンオンリーでしたが・・・
日暮れ前に到着したクライムの桟橋に船を停め、船内で朝を迎え
「シルエット、コイツら何処に寝かせれば良いんだろうな・・」
移動中ずっと頭を痛めて居た問題を相談します、自分の屋敷を持たない俺には来客を泊める場所が有りません・・
本来それなりの地位に付くものは、それに見有った屋敷を保有するのが常なのですが。前世ではホテルの予約だけで全て賄えていたので、そんな所に気が回る筈も無く。今の地位に押し上げられて間もない上に、日除け小屋さえ有れば地面で眠る人魚達と暮らして来た俺には、突然の急襲とも言える良家のお嬢様達の宿舎の対応など想定外過ぎます。一人二人ならクライムの屋敷に預かっても貰えますが、18人ともなればそれも無理なので・・・・
虎族の領地の桟橋で待ち受けていた娘達は、18人も居たのです。それも全てが族長の娘とか孫とかのお嬢様ばかり・・船の中で一応紹介はされましたが、名前を覚えられたのは数人のみです
「宿を取れば問題無いかと思いますが、海辺に天幕を張って寝泊まりさせても、文句は言わないと思います」
豪快な事を言うシルエットと、娘達を引き連れて孤児達の元へ向かいます
一番大切なのは、孤児達の反応なのですから。孤児達に嫌われたり、孤児達への態度が悪い者は即強制送還です
孤児達の居る倉庫に付くと孤児達の姿が一人も居ないので、警備の者に聞くと。西の家屋に移ったと教えて貰えたので、西の家屋・・・・?首を傾げながら向かうと
「戻ったのですね、ガンジー」
「お帰りなさい、ガンジー」
テレサ母さんとマーニャ母さんが、家が出来たから子供達を移したと言って来たのですが、孤児達の家を頼んだ記憶が無い俺は首を傾げたままです
「ガンジーは子供達を可愛がり甘やかす事はしますが、環境を整えてやる大事さが解っていませんね」
マーニャ母さんに言われます
「ジェームスに聞いたのですが、孤児達の住む家は頼んでいませんでしたね。孤児達をあのような倉庫にずっと住まわす訳にはいきません。それに妊婦達が子供を産めば、2時間置き3時間置きにお腹を空かせた赤ん坊が泣くのですよ。母親の精神にも、孤児達の精神にも負担が掛かり良くないのは解るでしょう?あなたに子育ての知識を望むのが無理な事は解っていますからね」
前世も今世も子育ての知識は全く無い・・人魚達の子育てにも、忙しくて余り関わって無いのだから・・
俺の無知を補う為に母さん達は動いてくれてました、孤児達が6人づつ大きくなっても暮らせる広さの家を、これから産まれる子供達や母親達の分も含めて、25軒建ててくれてました。石鹸で儲けたお金は一切使わず、材料は父ちゃんに揃えさせ、大工達は元ギャルソン領から集めて賃金はモンデールとカンデールの爺ちゃん払いで・・
俺は自分で紹介するのはとても無理なので
「テレサ母上、マーニャ母上。パトロンドより連れ戻りました、孤児達の教育係りと、子供達の世話をしてくれる者達です。シルエット、母上達に皆を紹介して貰えるかな」
シルエットに丸投げしました、次々に紹介される娘達の素性と格式高い優雅な挨拶を受けて、母さん達は目を丸くしながら微笑み答礼を返していきました
ここに孤児達の保母さんに、シルエットを含む24人もの獣人族の娘達が就任する事になりました。習慣や感性の違いも有りますから、子育ては同族の者達に任せるのが最良でしょう
母さん達のテキパキとした采配で、娘達の分宿と言うか寮母さんみたいな振り分けとベッドの運び込みが終わり。その日の宿舎の心配は無くなったのですが・・
真夏の暑い盛りに4日間も身体を水で拭くだけの生活に我慢している娘達が可哀想になり、床に少しだけ傾斜を付けた石のタイルを張り中央に2メートル四方の浴槽を作って排水の穴と栓を作り。傾斜を低くした方に排水の溝を作って、5メートル程離して排水を溜める浅い穴を掘ります
ミニラに頼んで、直径3センチ長さ6メートルの鉄の棒を5本作って。真ん中迄地面に打ち込んで貰います。4本は正方形の四隅に当たる位置に、残る1本は山側に向かった一辺の鉄の棒から1メートルだけ開けた内側に打ち込み
回りを厚手の布で巻いて止めれば、1メートルの隙間を残した布の壁が出来上がり。
最後の1メートルの隙間に地面近く迄有る布を暖簾のように垂らして、暖簾の外に衝立を立てれば青空天井の浴室が出来上がりました
温めのお湯を溜めて
「風呂が出来たから入って良いよ」
そう言うと自分の荷物を運び込んで、休憩していた娘達が自分の宛がわれた宿舎に向かいます
「タオルと着替えを取りに行ったのです」
不思議そうな顔で見ていた俺に、シルエットが答えてくれました
「お前は着替えを取りに行かなくても良いのか?」
そう聞くと
「わたくしは、着替えを船に置いたままですから」
シルエットが子供達の所には分宿しないのを忘れてしまってた・・完成間近のシルエットの家に住む予定なので
ミニラに頼んで船まで往復して貰います、船までは2キロ余り離れて居ますから。シルエットもミニラの掌の乗るのは馴れたものです
「ガンジー様、お湯が足りなくなりました。足して下さい」
俺が外に居るのを知ってるシンホニーが言ってきます
「お前達が出たら足すよ」
8人づつ入るように言ったのですが、我慢出来なかったのか12人も入ったので。お湯も足りなくなるでしょう・・
「ガンジー様、遠慮せずに入って来てお湯を足して下さい」
笑いを堪えているのが分かるシンホニーが言います
「入って来たら、殺すぞ!」
ミーニャの声だと直ぐに分かりました、語調で・・
「シルエットが戻ったら足してやるから、もう少し待ってろ」
そう言うしか出来ません、俺には・・
シルエットが戻り、お湯を足して第一陣が風呂から出ると。お湯を入れ換えます
第二陣は6人で入って難なく終わり、再度お湯を入れ換えながら
「最初の12人は何であんなに焦って入ってたんだ?風呂は逃げないのになあ」
シルエットに聞くと
「女の子の気持ちが分かるには、もう少しガンジー様には掛かりますね。フフフ」
シルエットに笑われた・・前世と合わせて80年、未だに悟れぬ女心と言うのとは違うと思います。この世界の女性の考え方に馴染めて無いのです、きっと・・




