7.普通の子
神官はセントラルへと帰っていった。
だが神官が連れてきたメガネ女子ことマーリンとTHE熱血男のアーノルドは村に残ることとなり、エレンの教育係をしている。
現代に現れた【聖女】として手厚い環境になったわけだが、実際のところはエレンがどこにもいかないように囲い込みをしているというのが本当のところだろう。
当のエレンはというと…。
「おにぃちゃん…。エレン…つまんない」
エレンは前よりも自由が全然なくなってしまったことに対して不満を覚えている。
まぁ当然だよな。まだ3歳だぞそれでこの待遇はつまんないわな。
村の人間もエレンを崇めるようになり、母親に至っては過保護もいいところだ。
極力家から出さない方針に変わっている。
逆に俺への対応も激変していた。
【神の子】から普通の10歳に変わった俺は学び舎へ行くことも許されなくなり、
村の農業や商業などの仕事を手伝わされる日々になった。
母さんに言ったっても…
「エスト…。悪いけどエレンは確実にブレーブスに入ってもらわなくちゃいけないの。あなたが目指すのは構わないけど、エストと一緒だとエレンまで特待生じゃなくなっちゃう気がするから…。だからエレンの教育には関わらないで」
神の子じゃなくなった俺に対する態度が変わりすぎてビックリするぜ。
神の子と呼ばれている4人の俺に対する態度は変わらないが、村人のほとんどが俺とあいつらを会わせないようにしてくる。ウザったいことこの上ない。
そんな日常が数カ月過ぎたころ…。
ボロボロになった商人の馬車が村に来た。
「おい!どうした?何があたんだ?」
見かけたオッチャンが商人に話を聞いていた。
どうやら村の北東にある神殿に魔物が大量に発生しているらしい。
理由はわからないが昔から神殿には魔物がすみついていて、近寄ってはいけないといわれている。
神殿付近にめったに人間は近寄らないが馬車などで東の首都セントラルに行くには近道になるのだ。
この道が使えないとなるとかなり遠回りしなくてはいけなくなる。
というかこの村を経由する意味が全くなくなるのだ。
商人が来ないと村に物資が届かなくなる。逆に村の特産物の売上も下がってしまう。
これは小さな村には大きな問題となった。
ということで村では大人たちと神の子4人、それにセントラルからに来ている2人となぜか俺を含めて緊急会議が開かれていた。
「神殿の中まで調査に行く必要があるな」
オッチャンが言葉を発する。
「そうですね。この村まで被害が拡大する可能性も十分に考えられますからね。私はセントラルに応援を呼んでみます」
「マーリンさん。すまないがお願いします。俺は調査に行こうと思っている。他に俺と来てくれる奴はいるか?」
オッチャンが参加者募っている。
「オッチャン。俺たちが行くぜ。オッチャンは村を守っててくれよ。村にはほかに頼れる男がいないからな」
「無茶を言うな。お前たちはまだ10歳なんだぞ。魔物なんかとなんて戦わせられるか」
ロイの発言をオッチャンはあっさり否定した。
「オッチャンこそ私たちを舐めないでよ。ここにいる誰より強いってことはそれだけ危険が少ないってことよ。ね、アーノルドさん」
「マリアの言うとおりです。私も同行いたしますので神殿の調査は我々に任せてください。あとは道案内に1人詳しいものを付けて頂ければ……エスト君なんてどうですか?」
アーノルドが俺に無茶ぶりをしてきた。
「俺なんかじゃ足手まといになるんじゃないですか?」
「いや、君はこの子たちとの連携も取れるし、道にも詳しいから適任だと思ったのだが…」
「エスト!!一緒に行こうよ」
マリアが進めてくる。
「はぁ…わかりました」
「よし。決まりだな。悪いがお前たちに調査は任せる。明日の朝に神殿に向かってくれ」
こうして明日神殿に行くことが決まり、俺は家へと帰宅した。
「あ~おにぃちゃんだ、おかえり~」
「エレンただいま」
俺は出迎えてくれたエレンを抱き上げて高い高いをした。
「母さん、俺明日の朝から神殿の調査に行くことになったから」
「あら、大丈夫なの?魔物がでてるんでしょ?」
「あぁ。マリアたちにアーノルドさんも一緒だから心配ないよ」
「エレンもいく~」
「ダメよ!!エレンはお家でお母さんとお留守番。何かあったらどうするの!!」
母さんが必至だ…。なんか怖いな。
「うぐっ、ひく」
ほらー。母さん怖いからエレン泣きそうだよ。
「エレンはいい子だからちゃんとお留守番できるだろー?お兄ちゃんが帰ってきたら母さんに内緒で遊んであげるから。なっ。」
俺は母さんに聞こえないようにエレンの耳元でつぶやいた。
「ホント?えへへ~。約束だよ」
可愛いなぁ。エレンだけは俺の味方だよ。絶対俺が守ってやるからな。
「あぁ。約束する」
俺はエレンと指切りをして、眠りについた。
明日は神殿の調査だ。魔物と戦うことにならなければそれが一番いい。