6.4人の天才と聖女
俺たちの力をみるテストはとても簡単だった。
魔法に関しては魔法防御を展開しているマーリンに得意魔法を放つだけで、身体能力に関してもアーノルドと戦うだけというシンプルなものだ。
「じゃあ魔法は私からやらしてもらうね」
「それなら俺は体術の方だな」
マリアとロイがそれぞれ名乗り出た。
「それではマーリンとアーノルドは準備してください」
神官がそういうとマーリンは水魔法で防御壁を作りだし、アーノルドは身長ほどある大剣を構えた。
「それでは二人とも準備はいいですか?全力で攻撃してみてください」
「「「「「えッ?」」」」」
オッチャンも含めたこの場にいる村人全員が思わず口にしてしまった。
「どうしたんですか?」
こいつ本当にわからないのか?こんなしょっぼい2人に全力で戦ったら即死ですよ。
「あの~?神官様?本気で言ってるんですか??」
マリアがあきれたという顔をしながら神官に聞き返す。
「それはどういう意味かしら?はっきり説明してくれる?」
マーリンが半ば切れかけながら聞き返してきたが、マリアは冷静に回答していた。
「私たちが全力出したらセントラルの優秀な教員が2人ほどいなくなってしまうということです」
「ケンカ売っているということか?大人をからかうのはやめたまえ」
「アーノルドさん。俺たちはケンカも売ってなければからかってなんかもいませんよ。現に俺は武器なんて使わずに素手だけであなたを倒します」
「「ふざけるな!!」」
マーリンとアーノルドが切れた。
なんて沸点の低い大人なんだか…。
こんな人たちがセントラルの実力者だとおもうと先が思いやられる。
そんなこんなで神官のテストは始まった。。
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「なんて…。なんてすばらしいんでしょう」
神官は歓喜に震えていた。
「クラウド様…話が違うようですが。こんな化け物なんて聞いてないです」
「どうなっているんだ…」
アーノルドとマーリンが『4人』の力に驚愕している。
「まさかこの歳でここまでの力を身につけているとは…。すでにお二人よりもかなりお強いようですね」
「「ッぐ」」
2人はかなり悔しそうだが、神官は顔のゆるみが収まらないようだ。
「最後はエストさんですね。準備は宜しいですか?」
「は、はい。おねがいします」
緊張が押し寄せてくる。
「エスト…いつも通りやれば平気だよ…たぶん。だからがんばれ!!」
たぶんてなんだよたぶんって…マリアが満面の笑みでグーサインをしている。
「行きます。【ダークアロー】。」
マーリンに向けて闇魔法を放った。
「【水壁】。闇魔法なんてまた珍しいものを使ってくるわね」
バシッ。
マーリンの水壁に俺の魔法が衝突した。
「あら?…弱いわね。すぐ消えてしまったわよ」
「…エストさん。遠慮しなくていいんですよ。全力をだしてください」
マーリンと神官が首をかしげている。
「俺は全力です…」
「…そうですか。では次は体術をお願いします」
「…あっ。はい」
神官は残念そうな声だ。まぁあの4人と比べたらそうなるよな。。
こうしてテストは終わった。。。
えっ?体術テストはどうなったかって?
そんなの聞かなくてもわかるでしょ?
もちろん一太刀も浴びせられませんでしたー。
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試験後。学び舎ではセントラルの3人が話し合っていた。
「クラウド様。すごい子たちを見つけましたね」
「はい。とてもいい誤算でした」
「10歳でこんな強いなんて…反則すぎますけどね」
マーリンとアーノルドは大きくため息をついていた。
「でも、あの闇魔法の子だけは普通でしたんね。ほかの4人と比べると明らかに力不足ですよ」
「7年前。初めて5人を見たときは確かに5人とも同じぐらいの可能性が見えていたんですがね…。まぁ4人もあんな力のある子が見つかっただけでもいいじゃないですか」
「まぁ、そうですね。でも、特待生の話はどうするんですか」
「エストさんには申し訳ないですけど、あのレベルの子はたくさんいますからね。ギリギリ一般で受かるかどうかなんて子に特待生枠を使ったら私が上に怒られてしまいますよ」
「じゃあ特待生枠は4人ですね」
マーリンがそういうと神官はうなずいた。
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俺たちは学び舎に戻ってきていた。
これから全員で神官たちの話をきくことになっている。
「よーし。みんなそろっているな」
毎度おなじみのオッチャンです。オッチャンは神官を連れてきていた。
「みなさん。お疲れ様でした。7年前に初めて君たちを見たときは確かに特別なものを感じましたが、まさかここまで強くなっているなんて思いませんでしたよ。まさに【神の子】ですね」
「当然だな。俺はこの世界で一番強くなるんだからな」
「ロイ…それは私に一回でも勝ってからいいなよね」
マリアは呆れた顔で言っているがロイは悔しいそうな…いや、恥ずかしそうな顔をしている。
「君たちの力はすでに上位職種ぐらいはあると考えられます。3年後、特待生としてブレーブスへお迎えさせて頂きます。もちろん来ていただけますね」
「当然だ」
「もちろん」
「当たり前でしょう」
「…いきます」
みんなが嬉しそうだ。ブレーブスに入ったら安泰なのは間違いないからな。。
神官はみんなの反応を見て言葉を続けた。
「…ですが。エストさんは特待生として迎えるわけにはいきません。…エストさん自身もお分かりかと思いますが、闇魔法が使えてもあとは普通ですので…。本当に残念ですが…」
「わかっていました。大丈夫です。俺は一般で受けますから」
「…エスト君…」
空気が重くなってしまった。俺のせいでこんな空気に…。
何とかしなくちゃ。
「俺は大丈夫だから。みんなも最初から分かっていただろ」
くっそ。自分で言ってて情けないにも程がある。
「おにぃーちゃん…だいじょうぶ?」
「エレン…」
エレンが俺の袖をぐいぐい引っ張っている。
そういえばエレンと母さんがきてるの忘れてた。
「…エストさん…その子は…」
「あっ。紹介が遅れました。妹のエレンです。今年で3歳になったので神官様に神託を授けて頂くために今日来ているんですよ」
母さんは俺が特待生に選ばれなかったのが大変ショックなようで口を開けて明後日の方向を見ている。
ごめんよ母さん。必ずブレーブスには受かってみせるから。。
「この子は…(なんだこの輝きは…今までこんな人間見たことがない…まさか…)聖女?」
「「「「はッ?」」」」
俺たちは全員意味が分からなかった。
「間違いない。エレンさんは【聖女】です。神の代弁者である聖女がまさかこんなところで見つかるとは…(確実にセントラルへ引き込んでおきたい。神の子よりもこの子の確保が先ですね)。……エレンさんにはすぐにでもセントラルにきて頂きたいと思うのですが」
母さんが元気を取り戻した。
「本当ですか?本当に本当にセントラルへ?それってブレーブスへってことですか?」
「はい、もちろんです(この母親はちょろいな)。今すぐにブレーブスの特待生として入学していただきたいほどです」
なんか神官の顔がいやらしいかんじだ。。
まさかエレンが聖女だなんて…確かにエレンの魔法はすごいと思っていたけど、【神の子】を超えるなんて。
さすが俺の妹……。
「エレン。今すぐブレーブスに行けるんだって。行きましょう?」
母がエレンに真剣に話している。
「みんなと…おにぃちゃんと一緒?」
「えぇ~っと…みんなは3年後だし、エストはまだいけるかわかんないけど…」
「やだ。…おにぃちゃんと一緒じゃなくちゃ……絶対やだ!!!!」
神官と母さんが2時間ほど話あっていたがエレンがどうしてもみんな(特に俺)と一緒じゃないと嫌だということで、3年後に全員でブレーブスの特待生として入ることが決まった。
エレンは特例中の特例。俺は特待生ではなく一般入試を受けて受かればということになった。
3年後か…エレンの為にもブレーブスに必ず受からなくちゃいけないな…。
こうして俺の【神の子】としての扱いはおわったのだった。