①
「あ! 来た来た!」
「ふうむ。確かにうじゃうじゃおるな」
「ちょっと、誰だか分かんないの? あそこよあそこ! ほら、あの真紅のコートを着てる子!」
「ううむ、言葉だけで説明されてもよう分からんのう……」
「もう、事前に伝えたじゃん! 多分こんな格好で来るよってさ!」
「おお、そういえば何かモゴモゴと言うとったな。細かすぎて覚えとらん」
「モゴモゴ言ってないわよ! 年寄りのあんたと一緒にしないでよ!」
「失礼な! これでもわしはまだ若い方じゃぞ、自慢する気はないが視力だって20.0はある!」
「それを人間は自慢って言うのよっ! つか、そんだけバケモノ級に視力良いなら、人一人くらい見分けなさいよ!」
「まったく、近頃の人間はやかましいわ群れたがるわで困るわい」
「……あんたやっぱりセリフが完全に年寄りよ」
不毛な言い争いにそこで終止符を打った私は、ちら、と眼下を振り返った。
こんなことをしている間に姿を見落としてしまったら大変だもの。ああ、よかった。彼はまださっきと同じ、二階のケーキ屋さんの前にいる。
羽織っているのは温かそうな真紅のコート。毛糸で編んだギンガムチェックの手袋が、その見た目を少し幼く見させている。そして、ふわふわとしたファーに埋もれたその顔は、周りの人に比べればちょっとばかり、哀しそうだった。
安心した私は、さぁ、と後ろを振り向いた。
真っ白な服に身を包んだ、いかにも人の良さそうな感じのお爺さんが、背中から小さく生えている羽根をいじっている。ちっちゃい子みたいよ、あんた。
「神様」
顔を上げたその人に、私は言った。
「クリスマスイブが、始まるわ」
神様は目元だけで、にっと笑った。
純白の髭のせいで隠れた口も、きっと、笑っていた。
作者、蒼旗悠です。
本作はクリスマス期間中の完結を予定しておりますが、作者が現在受験勉強中であるため、万が一……ということもあるかと思います。ぜひブックマーク登録の上、気長にお待ちいただけると助かります。
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