04闇の盃
「誰?誰なんだ?」
かろうじて発された小さな呟くような声。ヒロトの声だ。
オンナは、少し顔をあげる。そして、ヒロトはその顔に視線を向け、オンナと目があう。睨むでもなく、鋭くも、鈍くもない視線。特別な何か感情がこもっているわけではないその視線は、ただただヒロトを見ているだけだった。
ヒロトは、その視線に恐怖を感じることはなく、どこか懐かしさを感じていた。その心情に困惑しながらも深まる疑問に対処する術に頭の中で巡らせていた。
次の瞬間、「ハァハァハァ・・・」とオンナは声をあげながら、右手に力を込めていく。少し、苦しそうなオンナ。徐々にオンナが纏っていた闇が雲のように動き、右手の掌に溜まっていく。それをいつの間にかオンナの左手に用意された盃に注がれていく。
顔を覆っていた闇が消え、それを見たヒロトは呟く。「リエ、なのか?」と。
何も答えないオンナ。ヒロトの問いに反応はない。そして、左手に持った闇の注がれた盃をヒロトに差し出してくる。何がどうなっているか混乱するヒロト。闇が消えてあらわれたその顔は、この世でただ一人愛した女性の顔だった。「リエだ。」ヒロトの直感が告げる。
「ノンデクダサイ」。
ただ一言、発された声にヒロトの心が反応する。ヒロトの中にある自分に対する自分がどうなってもいいという感情だ。これが、本当にリエで、盃を飲むことで、例え死んだとしても本望だと。
再度、オンナに視線を向けオンナと目をあわすヒロト。覚悟を決め、右手で盃を受け取りそれをヒロトは飲み干した。
突然、目の前が真っ暗になり、クルクルと回転しながら落ちていくような感覚に、意識が奪われていった。