綿毛は夢の風に乗る
目を覚ましたときには、僕はすでに空にいた。
眺めていたあの雲と同じ場所を遊泳していた。
渡り鳥みたいに、目指す場所はない。
ただ風に、軽い身を任すだけの、そんな旅。
だからかな。
宛てのない世界はやさしい光に溢れている。
眼下に広がるのは、イルカが跳ねる海原。
飛沫のカーテンの向こう側。
クジラも歌うように潮を噴き上げる。
そこには、小さな虹が幾重にも重なっていた。
風に揺られながら、徐々に蒼い世界を遠ざけていく。
そして見えてきたのは、山を覆う緑の絨毯。
ふかふかの草原で眠れたら気持ちいいだろうな。
僕はそんなことを考える。
それでも風は、僕の考えなどお構いなし。
その場所に留まる素振りすら見せない。
風は僕を違う場所に連れて行く。
その途中。
隣にいた雲が、どんどん高くなっていく。
それに合わせて、体の揺れも小さくなっていった。
どうしてだろう? 僕は考えた。
そうか。
体に夢が染みこんできたんだ。
この旅の中で僕は、様々な光に出会うことができた。
その温もりを残らず抱いてここまで来たんだ。
重くなった僕の体は、風の軌道上から外れていく。
そして僕は、ゆっくりとゆっくりと降りていく。
そして僕は次の旅に夢を馳せて、黄色い花を咲かせる日を待ち焦がれる。
読んで頂き、ありがとうございました。