3話:瑠璃色
教室に入ってすぐの騒動を終え、俺は、自分の席に着いた。俺は思わず、机に突っ伏して、寝ようと考えた。そして、突っ伏す、その寸前に、静かな教室に、あるまじき音楽急に流れ出した。
「うぉわっ!」
流行のアニメ映画の主題歌が流れる。しかも、俺の携帯電話からだ。基本的に、俺は、携帯電話の設定をいじらない人なので、必然的にこのような設定をした人物が思い浮かぶ。そして、俺のキャラクター性と合っていないせいか、発信元だとは、未だに特定されていない。なので、速攻で、携帯電話を開き、通話ボタンをおす。そして、切る。そうして、誰もが、急に流れた曲など忘れた頃に、そっと教室を出て、旧階段の踊り場で、先ほどの電話主に電話を掛ける。
「もしもし、瑠璃さん。どうかしたんですか?急に鳴ってビックリしたんですよ」
『あっと、ゴメンね。わたしの書類がヒノキのバッグに入ってないかと思って。と言うかマナーモードにしておきなさいよ』
そう言われては、反論が出来ないので、この通話が終わったら、即座にマナーモードに切り替えることにして、喋りながら、教室に向かった。教室内にあるバッグを開けてみると、案の定、瑠璃さんの書類が入っていた。
「あ~、ありました。どれですか?」
小声で、聞くと、返事が返ってきた。
『あっと、《輪廻による無限ループ理論について》なのだけれど』
「これか…」
書類が、きちんとあることを確認したので、今から持っていくかどうかを確認しようとした。しかし、電話はすでに切れていた。書類をどうすればいいか迷ったものの、時間的に、もうじき、朝のHRが始まる時間だ。とりあえず、しっかり携帯電話をマナーモードに切り替えて、席に着いておくのが正解だと思った。
朝のHRも終わり、次の授業が始まる。書類を届けに行こうかとも思ったが、授業までに戻ってこられる自信がなかったので、止めておいた。しかし、一時間目は自習だった。何でも、先生が急な用事が出来たそうだ。だとしたら、この時間中に書類を届けるべきであろう。そう思い立ち、学校を抜け出して、書類を届けに行く準備をした。そして、このクラスの学級代表でもある雨月さんに声を掛ける事にした。
「あの、雨つ…」
そこで俺の言葉は、別の大きな声によって掻き消される。
「ヒ~ノ~キ♪書類取りに来たよっ♪」
そんな、大きな声で、しかも、個人を特定される事が、間違いない内容を喋っているのだ。迷惑この上なく、クラス全員の視線が俺に集中砲火だ。
「しょ・る・い♪」
俺に始めてあった時は、妖しげに微笑んでいたのに、今の彼女に擬音をつけるなら『にぱっ』である。ここで、瑠璃さんの容姿に対する説明を入れておくと、紫の腰まである艶やかな長髪。紫の澱みのない瞳。顔立ちは整っていて、全体的なプロポーションは、かなり良い方だ。年の頃は、二十歳から二十五歳程度に見える。正確に言うならば、彼女の年齢は、一四二歳。高い魔法の力を持つと、体内で、魔力をコントロールして、歳を取らなくなることがあるそうだ。つまり、魔法使いには、見た目どおりの年齢ではないものもいるということだ。もっとも、魔力の強い人間が減少した現在では、名家のトップでもなければ、そんなことはありえないそうだが。
話が逸れたが、つまり、今の現状を整理して、客観的な考え方をすると、二十歳くらいの綺麗な女の人が、俺を訪ねてやってきた状況なのである。これは、雰囲気的にやばい。何故だか知らないが、雨月さんと御影から、とんでもない視線(殺意)を感じられる。俺は、慌てて対応するために、瑠璃さんのほうを向いた。
「る、瑠璃さんっ!何しに来たんですか?!」
「書類よ、しょ・る・い。わたしの書類。そう、これよ、これ。アリガト。ああ、そうそう、今日は、早く帰ってきてね♪」
そう言って早々に去っていく。そして、それを呆然としてみている、俺を含めたクラス全員。数秒の沈黙の後に、御影がジトッとした目で、俺を見ながら呟いた。
「それで、今のは誰だい?」
その言葉には、重みと殺意が籠もっていた。言葉はナイフと言うのが今分かった(意味はたぶん違うだろうけど)。十分に人を殺せる。
「いや、今のは、その…」
俺の、何だ?師匠?保護者?なんて言えばいいのだろうか。母なのかな?学校関連のものは、全て、四之宮瑠璃名義になっているし、母なのか?
「えっと、母さんなんだ…」
「か、母さんっ?!それって、でも、え?!」
御影や雨月さんは戸惑っていた。しかし、事実なのだからしょうがない。うん、一応事実だ。嘘は吐いていない。
「今の人は、四之宮瑠璃さん。正真正銘母さんだよ…(一応)」
最後に小さく小声で付け足しておいた。これで嘘は吐いていない。
「そ、そうなんだ…。四之宮くんのお母さんって若いんだね~」
などと、言っているのは雨月さん。
「え、でも、若いなんてものじゃ…」
未だにごねているのは、御影。その他にも、様々な声が上がっている。かなり恥ずかしい。そういえば、瑠璃さん。今日は早く帰って来いって言っていたな。何かあるのだろうか?