2話:学校
俺は、素早く、アンケートを回収すると、急いで、家から出た。時間的にはまだまだ余裕綽々だ。しかし、家には、長居したくないのだ。早足で、学校に向かうことを、頭の中で、決めた。早々、学校が見えてきた。そして、校門から入る、そのとき、不意に後ろから声がかけられた。
「おはよう、ヒノキくん」
「ん?ああ、御影」
こいつは、風見御影。見た目の感じが女子そのもので、茶髪のショートヘアに、端整な顔立ちで真っ白い肌をしている。しかし、男であると言うのだ。その真偽は、俺には分からない。体育の授業は、生まれつき身体が弱い、日光にあまり当たれないなどの、複数の理由から、常に休みになっている。彼(一応男だから彼としておく)が、女ではないかと疑っているものは、クラスに数十人単位で存在する。男女問わず、彼が、女ではないかと疑っているのである。と言うのは、流石に冗談だ。雨月さんや俺は疑っているものの、他の人間は、男として接している。いや、雨月さんも俺に話を合わせているだけなのかもしれない。何故、其処まで疑われることがないのか、疑問も甚だしい。魔法の関与も思わず疑ってしまうくらいに女々しいのだ。
「こんな時間に校門にいるなんて珍しいね。いつもは、もう教室で寝ているか、読書しているかでしょう?」
「ああ、アンケートを取りに戻っていたからな」
まあ、性別はさておき、それが気にならないくらい、仲の良い友達なのだ。親友といっても過言ではない。
「アンケート?ああ、文化祭のアンケートだね。早く出さないとダメじゃないか」
まるで、姉が弟を軽く叱る様な口調で注意された。
「それで、何を選んだのかな?」
アンケートで決めるのは、文化祭で何を行うのかだ。アンケートにあるのは、喫茶店や焼き蕎麦の模擬店、たこ焼き、統計グラフの資料展示(先生案)など多々ある。その中で、俺が選んだのは、休憩所だった。
「休憩所」
「あはは、やっぱり、休憩所だった。予想通りだよ」
何故だか、居心地の悪い雰囲気になったので、無理やり話題を転換しようと、御影に聞き返した。
「じゃ、じゃあ、お前は何を選んだんだよ」
半ば、怒鳴るように聞いた。すると、御影は、笑いながら、答えた。
「ボクかい。ボクは、喫茶店だよ。料理は元々得意だからね」
ますます、女々しい奴だ。そんな感想を抱きながらも、納得してしまうのが、俺だった。その料理の腕前は、普段から持ってきている弁当の中身を見れば一目瞭然だ。丁寧で美しくも見える弁当なのだ。たかが弁当一つに大げさな、と思うかもしれないが、実際に見れば分かるのである。ちなみに、俺は、瑠璃さんの手作り弁当である。
そんな談笑をしながら、教室に向かう。いつもと違う時間のため、人が多く、少々手間取ってしまったが、数分で教室にたどり着けた。すると、教室に入った途端に、声をかけられた。
「四之宮くん、遅かったね。大丈夫だった?」
雨月さんだった。心配したように、俺に、声をかけてきた。全く持って問題などなく、大丈夫も何もないのだが。
「また、心配をかけたのかい?全く、ヒノキくんは、もう少し気をつけないとダメだよ」
「おいおい、別に心配をかけた訳じゃない。勝手に心配されたんだ」
俺は、心配される様なことは何もしていない。勝手に心配されたのに、この言い草はいかがなものかと思う。普段のこともそうだ。俺のやる事を一々無駄に心配を勝手にするため、この姉のような態度(本人曰く兄)で注意を受ける羽目になるのだ。俺が一体何をしたと言うのだろうか。
「似たようなものじゃないか。結果的に心配されているキミが悪い」
断言されてしまった。この反応は、理不尽極まりないと思うのだが、なかなか賛同してもらえないのだ。
「それで、四之宮くん。アンケートは持ってきたの?」
「あっと、これだよな。はい」
アンケート用紙をさっさと渡した。
「はい、確かに受け取りました。これからは、なるべく遅れないように気をつけてね」
気をつけてっていわれても困るのだが。その前に一つ忘れている事があるような気もする。何だ、何を忘れているのだろうか。そうだ、確かあの時、『あれって、今日までだったよね』と言っていたはず。待てよ、今日までだと。
「遅れてないじゃないか!今日までだっただろ!」
「………あ、そう言えばそうだったね♪」
そうだったね、じゃないだろ。散々注意しておいて、結局、俺は何も問題を犯していないじゃないか。いつものことながら、酷い言い草だと感じられる。
そんな、一悶着があっても落ち着いているのが、我がクラスだ。流石に慣れるというものだろう。うちの学校は、クラス替えという、学校の楽しみの一つが、最初から失われているというのだ。よって、二年生である、今現在のクラスは、一年の時をすでに共にした仲なのだ。一年以上も一緒にいるのだから、流石に、このやり取り(俺が御影と雨月さんにいじられる)を気にも掛けないレベルだろう。慣れと言うものは、やはり恐ろしい。昔は、それなりに、大なり小なり、反応があったのに。酷い時は、クラス全員からの追撃や大爆笑など、集団いじめと見紛うほどのことだった。まあ、いじめでもなんでもないのだから、訴えたりするということもなく、普通に過ごしていたのだけれど。今考えると、このクラスもこのクラスで、色々と酷い奴らなのではないかと思う。