1話:理由
この日、体育の授業があった。内容は、短距離走。数回記録をとれば、後は自由行動だった。俺は、生涯、この体育の授業を忘れることがないだろう。
タイムを録り終えた俺は、ちょっと無理をし過ぎたせいか、木陰で休むことにした。
そこで見てしまったのだ。偶然にも。汗をかいていたせいで、肌にピトリと張り付いた体操服。それのせいで顕わになった真の姿。
「えっ……?」
思わず声が出た。女ではないかと散々疑っておいてなんだが、実際に女だとは思わなかった。
そう、木陰にいた先客は、風見御影。女の子っぽい男の子と思いきや、やはり女の子だった。
御影と目が合う。御影は、まだ、体操服のことに気づいていないようだ。しかし、いつまでもそのままにしていたら、他のやつにもばれる。それだけは避けたほうがいいだろう。
「み、御影。お前、それ……」
少々わざとらしい演技をして、自分の今のようすを気づかせる。
「……っ!」
御影は驚愕の表情をする。そこに、クラスメイトが寄ってくる。
「おう、ヒノキ。それと御影。一緒にサッカーやらないか。蹴球」
何故わざわざ、蹴球と言いなおしたのかはわからないが、御影の体には、スルー。間違いない。気づいていない。
「い、いや、俺はパス」
「わた、……僕もパス」
クラスメイトはとっととどこかに行ってしまった。
「やっぱり、魔法は働いているわ、よね?」
珍しく女口調で、疑問を口にする。
「い、いや、俺も一応魔法使いの端くれだし」
直視しないように、視線をそらしながら、答える。
「ま、魔法使い、だったの?」
信じられないと言うように、手を口に当てる。
「艶魔さんが魔法使いである予想は、していたのだけど。まさか、ヒノキまで」
「時雨さんも、古流の魔法使いだぞ」
一応、追加情報を与える。
「えっ、じゃあ、うちのクラスには、魔法使いが四人もいるの?」
「そういうことになるな」
珍しい女口調の御影にどぎまぎしながら、会話を続ける。
「そんな驚くことか?」
「驚くわよ。ただでさえ減少してる魔法使いがクラスに四人もいるなんて」
まあ、それはそうだろう。しかし、俺は、それよりも気になることがあった。
「それで、お前は、何で男装してたんだ?」
閑話休題、男装とは、女が男に化ける際に使う。逆に男が女に化けるのなら女装。男の娘なんていう言い方もする。と言うのは瑠璃さんが言っていたこと。
さて、何故、御影が男装なんてしていたかだが、それに関して、本人の口から語られたことを、そのまま記すと、限りなく、「ええと」や「ち、違うの」や「べ、別にしたくてしてたわけじゃ」などという言葉が限りなく繰り返される。そのため、簡潔に書かせてもらう。
母親の趣味!
以上が、御影の男装していた理由だ。ちなみに、そのほかにも、母のちょっとした言い訳として、常に魔法をコントロールするのは修行になるというのもある。しかし、話を聞く限り、母親の趣味としかいえない。




