1話:神社
さっそく、階段を通り、結界の間を抜けて、神社に辿り着いた。すると、今日は、前のように、巫女がたくさんいるわけではなく、一人の神主さんがいた。おそらく、時雨さんの父親だろう。
「時雨、その者は何者だ?どうしてここに入れた」
静かに、そう呟いた。おそらく、この結界は重要なものなのだろう。一般人が入ってきたとあれば、重大なことなのだろう。
「この方は、四之宮ヒノキくんです。私の同じ学級の人です」
「ほう、それで、何故連れてき…ん?それは…」
途中まで言って、不意に、俺の手に持つモノに目がいったのだろう。
「なるほど。ふむ、お主、刀を嗜むのか」
「え、ええ。まあ、それなりに」
急になんだろうか。あの《剱》でも見せてもらえるのか。そんな淡い期待を抱いた。だが、それは、間違いにもほどがあった。
「手合わせ願おう」
そういって、神主は、早々、一本の日本刀を抜いた。仕方なしに、俺は、《夜剱》を鞘から出し、構える。
「こちらから、行かせてもらおう」
全力の剣と思われる一撃が、素早い動作で入ってきた。それを俺は、読みきりかわす。
「ふむ、これをかわすとは、なっ!」
勢いをつけ、更なる追撃。繰り返される、連撃に、一定の法則性を見出す。一回目、横に薙ぎ払い。二回目は、突き攻撃。三回目は、斜めに薙ぐ。これをリズムを変えて、仕掛けている。だから、俺は、次の攻撃、つまりは、突き攻撃をかわして、弾き、俺の戦闘へと持ち込む。
予想通り、来たのは突き。俺は、しゃがむ様に剣を避け、《夜剱》を上に斬り上げる。そして、敵の剣は弾かれる。その際にできた隙を逃さず、俺は、《藍那流》の剣術を放つ。
「千花《火花》ッ!」
《夜剱》を薙ぐように、横に払った直後、刃を切り返し、すぐさま逆に薙ぐ。そして、そこから上へ薙ぎ、切り返して、下へ薙ぐ。《夜剱》が、相手の剣を、薙ぎ払い、最後に一気に打ち付けた。すると、俺の思惑通り、剣は、《夜剱》によって、地面に叩きつけられて、鍔の少し上から折れている。
「なっ…」
神主からは驚愕の声が洩れた。
「何だ、今の剣術は。この日本刀、《鏡月》を折るなど。常人ではないな…。本当に何者だ」
「俺は、単なる高校生ですよ。少し剣が使える程度の、ね」
そう言ってから、《夜剱》を鞘に収めた。収めたときの、キィンという音で、時雨さんは、現実に戻ったらしく、先ほどまで黙っていた分まで猛烈に捲くし立てた。
「なっ、なっ、何?今の剣捌き。お父さんでも、捌ききれてなかったよ?何で?誰もお父さんの剣を捌けたどころか弾くこともできなかったのに。凄い、凄いよ。四之宮くん、凄い、凄すぎる!どこでその剣術習ったの?その剣はどこで?ねぇ?」
その勢いに負けて、押され気味に、問われる。
「そ、そんなにいっぺんに聞かれても困る。というか、別に凄くないって」
そんな風な謙遜をしていると、いきなり神主が、俺に向かって視線を投げた。
「な、なんです?」
俺は、思わず聞いてしまったが、神主は何事もなかったかのように、喋りだす。
「今の剣筋。只者ではないな…。確実に、単なる高校生ではない。答えろ。」
「だから、俺は、ただの高校生ですってば」
俺は、誤魔化しを試みる。しかし、そんな誤魔化しは効かず、神主は、しつこく聞いてくる。
「そのような、剣を持っている者が、一般の高校生と申すか?ありえんな」
「はぁ」
もう疲れてきた。流石に、もう、だめかもしれない。そんな風な感想を抱きつつ。もう一度、弁明を試みようとした、その時。不意に、声がした。
「その子は、ただの高校生だ。放してやりなよ」
そんな声が響いたのだ。男とも女とも取れない、不思議な声が。
「貴様、どうやってここに入った。何者だ」
黒いフード、そこから覗く《漆黒》の瞳。そして、朱色の髪。間違いない。あの時のあの人だ。
「また逢ったね。でも、今は戦う時ではないようだ」
その時、一陣の風が吹き、風がフードを、捲った。




